社長業3社目 MS樋口氏が語る「ダメな会社」「いい会社」「働きがいのある会社」トップ企業

» 2008年06月04日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 組織の働きがいについて調査・研究をしている団体、Great Place to Work Institute Japanは応募があった国内企業94社の中から25社を「働きがいのある会社」として2008年1月に発表した。トップになったのはマイクロソフト日本法人。同社の代表執行役 社長 樋口泰行氏は6月4日、Great Place to Work Institute Japanが主催したセミナーで講演し、マイクロソフトの「働きがいの源泉」について説明した。マイクロソフトには働くのが楽しくて会社に近づくと早足になる社員もいるという。

 樋口氏は過去に日本ヒューレット・パッカード、ダイエーの社長を務め、マイクロソフトで「社長業の3社目」(同氏)。この経験と、企業のトップとして他社のトップとつきあった経験から「競争力を生み出す源泉は働きがい」との考えにいたったという。樋口氏は企業の経営力を、社員力と健全な企業文化、戦略の合算と指摘し、特に働きがいを感じられるような企業文化が重要と説明した。

2008年日本の「働きがいのある会社」
順位
社名
1
マイクロソフト
2
ソニーマーケティング
3
モルガン・スタンレー証券
4
リクルートエージェント
5
アサヒビール
6
堀場製作所
7
日本郵船
8
キッコーマン
9
日本ヒューレット・パッカード
10
アルバック

 逆に見ると、この働きがいを生み出す企業文化が根付いていない企業はダメになる可能性がある。樋口氏はこれまでの経験から、会社対会社で話をする場合でも担当者が分からないや、誰も責任を取らないなど「どうもこの会社は文化的に間違っていると感じたことがある」という。そういう会社は「いつかおかしくなると思っていたら案の定おかしくなった」。

マイクロソフトの代表執行役 社長 樋口泰行氏

 成熟した大企業ほど、よい情報しか上に上がらず、悪い情報は上がらないような不健全な文化を生み出しやすい。企業文化が悪化すると優秀な人から退社し、能力的に劣る人が残る、業績が低迷という悪循環になる。

 この文化を変えるには、「公正な評価、正しいことを正しいといえる文化、市場の声が通る文化が必要」と樋口氏は語る。だが、トップが企業文化の重要性を訴えるだけでは社員の心に響かない。仕組みが伴って初めて実効性が出る。

 マイクロソフトではこの仕組みとしてコミュニケーションに特に注力している。ワールドワイドでのミーティングや社員総会など経営サイドから社員に対するコミュニケーションと、社員意識調査など社員から経営サイドへのコミュニケーションの両方を用意。樋口氏は「かなり力を入れている」として1994年から年1回行っている社員意識調査「MS-Poll」を説明した。労働環境や意欲、組織、社風などについてたずねる調査で、社員の会社への満足度を測る。

 MS-Pollで特徴的なのはある社員の満足度が、直属の上司の上司に伝わる点。社員の満足度が直属の上司の評価につながるように設計されている。マイクロソフトはITヘルプサービスなど社内サービスの評価もアンケートで行っていて、「マイクロソフトにはアンケート文化がある」という。

 もう1つの仕組みはメンタリングプログラムだ。マイクロソフトは社員のキャリア開発に「70:20:10」のラーニングモデルを採っている。キャリア開発の内、70%は日常の仕事を通じて技能を向上させるOJT、20%がメンタリングプログラム、10%がトレーニングやセミナーという比率。樋口氏はその中でメンタリングプログラムの重要性を指摘した。「人間は人の背中を見て育つ。同じ空気を吸い、同じ時間を過ごすことで、仕事に対する価値観、姿勢が知らず知らずのうちにDNAとして身につく」。

 マイクロソフトは新入社員に対して半年のメンタリングプログラムを設けていて、リーダー候補として期待ができる人材には1年のメンタリングプログラムを適用する試みも行っている。樋口氏も3人のメンターになっているという。

マイクロソフトのラーニングモデル

 「私の意見も含まれるが」として樋口氏は、働きがいのベースは愛情と強調した。「社員に対して愛情を持って接しているかが根本。成長してほしいと思ってきついこともいうが、ベースに愛情があれば受ける方にも響く」として、「優秀な人材、尊敬される人材がすべてのハブになって、あの人のようになりたいというモチベーションになる」と指摘。「世の中にパーフェクトな会社は存在しないが、パーフェクトに近づくために常に努力していることが社員に響く」と話した。

 働きがいのある会社の評価項目は「誇り」「公正」「信用」「尊敬」「連帯感」。マイクロソフトは連帯感以外の4項目で5位以内に入り、総合点でトップになった。樋口氏は5位に入らなかった連帯感が反省点として、「少し個人主義になっている。チーム―ワークを醸成しないといけない。メール依存の傾向もある」と話した。

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