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» 2008年07月15日 00時00分 公開

ソフトウェア危機(そふとうぇあきき)情報システム用語事典

software crisis / ソフトウェアクライシス

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 ソフトウェア開発に特有の困難性のために、開発者(ソフトウェア業界)が利用者(市場)の求める需要を満たすだけのソフトウェアを生産量・品質・費用・時間の面できちんと供給できない状況を示す言葉。ソフトウェアギャップともいう。

 ソフトウェア危機は、ソフトウェア開発の手法が未成熟で、ソフトウェア開発者の育成体制がまだ構築されていない時代によく使われた表現である。すなわち、ソフトウェアの規模と複雑性が増大しているのに対して、プログラミング技法やプログラミング言語、設計手法・開発手法、品質保証・管理、プロジェクト管理などが整備されておらず、ソフトウェア開発の需要が増大しているのに対して、それをこなすだけのソフトウェア技術者が不在であることを示す言葉だった。

 ソフトウェア開発の生産性とソフトウェア品質については、ソフトウェアエンジニアリング諸技法の登場を通じて向上が図られたが、それら技法の発達以上にハードウェア技術の進歩とコンピュータ利用の需要増加は大きく、ソフトウェア危機は慢性的危機と揶揄(やゆ)されることもある。

 「ソフトウェア危機」という用語が初めて使われたのは、1968年10月に西ドイツ(当時)のガルミッシュ=パルテンキルヒェンで開かれたNATO(北大西洋条約機構)科学委員会主催の「NATOソフトウェアエンジニアリング・カンファレンス」を契機とする。1960年代になってコンピュータが各分野の情報処理に利用されるようになり、ソフトウェア開発の需要が急増すると、開発が期日に間に合わず、遅れて納品したソフトウェアも品質が低いといったトラブルが多く見られるようになった。特に開発規模が大きく、リアルタイム性が求められる軍事・防衛分野のソフトウェアプロジェクトでは深刻な問題と考えられたことから、NATO科学委員会が解決策を模索する場として同カンファレンスを企画した。カンファレンス開催前年の準備会合において、カンファレンス議長を務めたミュンヘン工科大学教授(当時)のフリードリッヒ・L・バウアー(Friedrich Ludwig Bauer)は、この問題状態を「ソフトウェア危機」と呼び、その克服を同カンファレンスの主題と位置付けたのだった。

 日本では1980年代にコンピュータ利用が急増、これを受けて産業構造審議会情報産業部会が1986年3月に情報化人材対策小委員会を設置して対策を検討し、『高度情報化社会を担う人材の育成についての提言』(1987年4月)を発表した。それによると、1985年に3.5兆円だったソフトウェア需要は、2000年には34.6兆円に拡大し、そのまま放置すると97万人のソフトウェア技術者が不足すると警告、人材育成の必要性を説いていた。

 近年では製造業企業などで、組み込みソフトウェアの不具合による製品回収によって巨額の損失を発生させるケースが増えている。このようなソフトウェアの品質問題に基づく損失が新たな「ソフトウェア危機」として浮上している。

参考文献

▼『2000年のソフトウェア人材――高度情報化社会を担う人材育成について』 通商産業省機械情報産業局=編/コンピュータ・エージ社/1987年6月

▼『ソフトウェア危機とプログラミングパラダイム――“わかりやすさ”の追求』 中所武司=著/啓学出版/1992年8月

▼『ソフトウェアクライシス――21世紀のコンピュータ戦略』 平田周=著/日本放送出版協会/1992年3月

▼「Software Engineering」 B. W. Boehm=著/IEEE Transactions on Computing Vol. C-25 Dec. 1976/IEEE

▼「Software's Chronic Crisis」 W. Wayt Gibbs=著/『Scientific American誌』 1994年9月


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