テキストマイニングは、コンタクトセンターの情報発信力の強化だけでなく、ほかでも有効である。そのキーワードとなるのが顧客対応力である。その点を解説する。
なぜ、顧客対応力を向上させることがコンタクトセンターに求められているのだろうか。それは、顧客との重要な接点になってきたコンタクトセンターの対応品質が、顧客が企業の姿勢を判断する1つの重要な要素となっているからである。
例えば、『コールセンター白書 2007』(リックテレコム刊)の「通販会社を評価する際、オペレータの対応品質がどの程度影響するか」(n=300)という質問に対して、「その後の利用を左右するほど大きな影響がある」が18%、「かなり影響がある」が43.3%、「オペレータの対応よりも商品の質などを要求するのでさほど影響はない」が38%、「まったく影響しない」が0.7%とあり、約6割の人がコンタクトセンターの対応によって、その後の利用に影響するという結果であった(グラフ1)。
ところで、コンタクトセンターでは、ナレッジの共有がしにくいという課題が従来よりある。その理由の1つに挙げられるのが人材面の問題だ。具体的には、非正規社員の割合の高さや離職率の高さが、ほかの部署と比べて高いことである。実際に、『コールセンター白書 2007』によると、コンタクトセンター就業者に占める非正規社員の割合は約90%となっていて、非常に高いことが分かる(グラフ2)。
このような状況下では、オペレータに製品やサービスの正確な知識を定着させることは困難が伴う。正社員がオペレータを教育しても、教育したオペレータが離職してしまうとなかなかナレッジが蓄積されない。その結果、顧客からコンタクトセンターに連絡があっても十分な対応ができず、企業の評価を下げてしまう恐れがあるのである。
このように、ノウハウを共有しにくい人材面の課題があるなかで、顧客対応力を高めるためにコンタクトセンターが取り組んでいる施策が「Frequently Asked Questions(FAQ)」によるナレッジの構築である。
FAQとは「よく尋ねられる質問(とその回答)」という意味である。顧客からよく質問される商品・サービス、企業活動に関する内容について、回答を記述した想定問答集のことを指す。
このFAQ、用途としては大きく2種類ある。1つ目は、Webサイトで公開し、消費者が問題を自己解決する際に利用する“公開FAQ”である。2つ目は、コンタクトセンター内でオペレータが応対業務で参照するための“オペレータ向けFAQ”である。
コンタクトセンターで顧客対応を行う企業では、公開FAQにしろ、オペレータ向けFAQにしろ、FAQの導入自体は進んでいる。『コールセンター白書 2007』によれば、コールセンターを有する企業の91%はFAQを用意していると回答している。しかも、そのうち「随時アップデートしている」と答えた企業は58%もあったのである(グラフ3)。
このように、ほとんどの企業で何かしらのFAQが存在している。が、そのFAQの構築方法・管理方法は各社さまざまであり、業界的に標準的な方法はないようだ。
例えば、オペレータ向けのFAQだけを取り上げても、紙媒体で管理している企業もあれば、各担当者がExcelやACCESSで管理している企業もある。また、Notesなどを用いてデータベース化している企業、さらには専門のFAQ管理システムで運営している企業もある。
管理方法は各社まちまちではあるが、このFAQを構築・管理しておくと、さまざまなメリットを享受できる。
まず、問い合わせに対しての回答速度が迅速になり、かつ、その回答内容・回答品質が向上する。
この回答速度や回答品質は、これまでであればオペレータの就業期間・経験や業務知識に依存する部分があった。しかしこのように、FAQによるナレッジシステムを構築することができれば、いわゆる属人的な対応の頻度は少なくなる。応対品質の標準化、レベルアップが図れ、結果として組織としての顧客満足度向上が期待できるわけだ。そのほか、新人教育に要する期間が短くできる、FAQがトークスクリプトを兼ねることで、業務効率の全般的な向上にもつながるなどの効果も期待できる。
ここで1つ言及しておきたいのは、すべての問い合わせをFAQでカバーできるわけではないということである。回答できない問い合わせについては、専門スタッフへエスカレーションする必要がある。しかし、それでもFAQを構築・管理することによって、最初に応対したオペレータの段階で顧客の質問に対する「一次応対完了率」は向上するはずである。
実際にあるセンターの実験では、FAQ使用グループと未使用グループの比較を行ったところ、エスカレーション率で15〜25%ほどの差が見られたという。当然FAQ使用グループの方がエスカレーション率は低く、一時対応完了率が高かった。この実験からも分かるように、FAQはコンタクトセンターの応対業務に欠かせないツールとなっている。
さらにFAQには、最近コンタクトセンターで問題となっている「離職率の高さ」を抑える効果も期待できるのである。
これはどういうことか。多くの企業は、一次応対完了率をオペレータ評価の際の指標としている。そのため、エスカレーションすることに対して精神的負担を感じるオペレータは少なくない。FAQを利用することでエスカレーションの度合いを減らすことができれば、同時に前述のようなストレスを軽減させることもできる。そしてFAQの利用によって一時対応完了率も向上する。
非正規社員に高い能力を求めることにより、それがオペレータに対しては高い負荷となり、離職率が高まるという、いわゆる「負のスパイラル」から脱するためのトリガーにもFAQはなり得るのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.