テキストマイニングで顧客対応力強化を図るテキストマイニングの基礎(3)(1/2 ページ)

テキストマイニングは、コンタクトセンターの情報発信力の強化だけでなく、ほかでも有効である。そのキーワードとなるのが顧客対応力である。その点を解説する。

» 2008年08月28日 12時00分 公開
[神田晴彦,野村総合研究所]

3-1 顧客対応力を高めるキーはFAQ

 なぜ、顧客対応力を向上させることがコンタクトセンターに求められているのだろうか。それは、顧客との重要な接点になってきたコンタクトセンターの対応品質が、顧客が企業の姿勢を判断する1つの重要な要素となっているからである。

 例えば、『コールセンター白書 2007』(リックテレコム刊)の「通販会社を評価する際、オペレータの対応品質がどの程度影響するか」(n=300)という質問に対して、「その後の利用を左右するほど大きな影響がある」が18%、「かなり影響がある」が43.3%、「オペレータの対応よりも商品の質などを要求するのでさほど影響はない」が38%、「まったく影響しない」が0.7%とあり、約6割の人がコンタクトセンターの対応によって、その後の利用に影響するという結果であった(グラフ1)。

ALT グラフ1 通販会社を利用する際に、オペレータの対応品質がどの程度影響するかを利用者に聞いたところ、何らかの影響があると答えた人が61.3%いた(『コールセンター白書 2007』133ページ図3−2−10より)

 ところで、コンタクトセンターでは、ナレッジの共有がしにくいという課題が従来よりある。その理由の1つに挙げられるのが人材面の問題だ。具体的には、非正規社員の割合の高さや離職率の高さが、ほかの部署と比べて高いことである。実際に、『コールセンター白書 2007』によると、コンタクトセンター就業者に占める非正規社員の割合は約90%となっていて、非常に高いことが分かる(グラフ2)。

ALT グラフ2 2006年では、すべて正社員が5.7%、一部派遣社員・パートタイマー(自社契約社員)が53.8%、すべて派遣社員・パートタイマー(自社契約社員)が22.6%、そのほか10.8%、無回答が7.1%で、圧倒的に非正規社員の割合が多いことが分かる。『コールセンター白書 2007』69ページ図2−2−8のオペレータの勤務形態より

 このような状況下では、オペレータに製品やサービスの正確な知識を定着させることは困難が伴う。正社員がオペレータを教育しても、教育したオペレータが離職してしまうとなかなかナレッジが蓄積されない。その結果、顧客からコンタクトセンターに連絡があっても十分な対応ができず、企業の評価を下げてしまう恐れがあるのである。

 このように、ノウハウを共有しにくい人材面の課題があるなかで、顧客対応力を高めるためにコンタクトセンターが取り組んでいる施策が「Frequently Asked Questions(FAQ)」によるナレッジの構築である。

 FAQとは「よく尋ねられる質問(とその回答)」という意味である。顧客からよく質問される商品・サービス、企業活動に関する内容について、回答を記述した想定問答集のことを指す。

 このFAQ、用途としては大きく2種類ある。1つ目は、Webサイトで公開し、消費者が問題を自己解決する際に利用する“公開FAQ”である。2つ目は、コンタクトセンター内でオペレータが応対業務で参照するための“オペレータ向けFAQ”である。

 コンタクトセンターで顧客対応を行う企業では、公開FAQにしろ、オペレータ向けFAQにしろ、FAQの導入自体は進んでいる。『コールセンター白書 2007』によれば、コールセンターを有する企業の91%はFAQを用意していると回答している。しかも、そのうち「随時アップデートしている」と答えた企業は58%もあったのである(グラフ3)。

ALT グラフ3 コンタクトセンターのうち58%がFAQを随時アップデートしているという。『コールセンター白書 2007』76ページ図2−2−21より

 このように、ほとんどの企業で何かしらのFAQが存在している。が、そのFAQの構築方法・管理方法は各社さまざまであり、業界的に標準的な方法はないようだ。

 例えば、オペレータ向けのFAQだけを取り上げても、紙媒体で管理している企業もあれば、各担当者がExcelやACCESSで管理している企業もある。また、Notesなどを用いてデータベース化している企業、さらには専門のFAQ管理システムで運営している企業もある。

3-2 FAQの構築によるメリット

 管理方法は各社まちまちではあるが、このFAQを構築・管理しておくと、さまざまなメリットを享受できる。

 まず、問い合わせに対しての回答速度が迅速になり、かつ、その回答内容・回答品質が向上する。

 この回答速度や回答品質は、これまでであればオペレータの就業期間・経験や業務知識に依存する部分があった。しかしこのように、FAQによるナレッジシステムを構築することができれば、いわゆる属人的な対応の頻度は少なくなる。応対品質の標準化、レベルアップが図れ、結果として組織としての顧客満足度向上が期待できるわけだ。そのほか、新人教育に要する期間が短くできる、FAQがトークスクリプトを兼ねることで、業務効率の全般的な向上にもつながるなどの効果も期待できる。

 ここで1つ言及しておきたいのは、すべての問い合わせをFAQでカバーできるわけではないということである。回答できない問い合わせについては、専門スタッフへエスカレーションする必要がある。しかし、それでもFAQを構築・管理することによって、最初に応対したオペレータの段階で顧客の質問に対する「一次応対完了率」は向上するはずである。

 実際にあるセンターの実験では、FAQ使用グループと未使用グループの比較を行ったところ、エスカレーション率で15〜25%ほどの差が見られたという。当然FAQ使用グループの方がエスカレーション率は低く、一時対応完了率が高かった。この実験からも分かるように、FAQはコンタクトセンターの応対業務に欠かせないツールとなっている。

 さらにFAQには、最近コンタクトセンターで問題となっている「離職率の高さ」を抑える効果も期待できるのである。

 これはどういうことか。多くの企業は、一次応対完了率をオペレータ評価の際の指標としている。そのため、エスカレーションすることに対して精神的負担を感じるオペレータは少なくない。FAQを利用することでエスカレーションの度合いを減らすことができれば、同時に前述のようなストレスを軽減させることもできる。そしてFAQの利用によって一時対応完了率も向上する。

 非正規社員に高い能力を求めることにより、それがオペレータに対しては高い負荷となり、離職率が高まるという、いわゆる「負のスパイラル」から脱するためのトリガーにもFAQはなり得るのである。

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