企業変革の新発想──「プロセス志向イノベーション」とは何か?BPMトピックス(2)(1/2 ページ)

持続可能な経済発展手段として「イノベーション」が注目を集めている。2007年に内閣府に「イノベーション推進室」を設置するなど、産官学が連携した取り組みも本格化してきた。そんなイノベーションを生み出す、土壌・マインド・プロセスとは?

» 2008年09月09日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]

 企業改革やイノベーションに優れ、競合他社を圧倒する業績を挙げている企業がある。これらの企業は、どんな特性を持つのか?──こうした疑問に答える取り組みが始まった。プロセス志向イノベーション推進会議が実施する「業務の可視化・改善力に関する実態調査」がそれだ。

 同会議は企業改革に関する調査・提言機関で、企業経営者およびプロセス志向イノベーションの有識者によって構成される。“プロセス志向企業モデル”という仮説に基づいて業務の可視化・改善活動、組織の特徴、IT活用などの在り方を探り、最終的には「業務改革活動ガイド」をまとめることを目指すという。

 では、その「プロセス志向イノベーション」とは一体何だろうか? 同会議の設立発起人で、東京工業大学大学院 経営工学専攻 教授の飯島淳一氏に話を聞いた。

プロセス志向イノベーションと「攻めのIT」への投資

──今回の調査では「プロセス志向イノベーション」がテーマだそうですが、これはどんなものでしょうか?

東京工業大学大学院 社会理工学研究科 経営工学専攻 教授・工学博士 飯島淳一氏

飯島 プロセスとは、これまで私たちがやってきたことを「いろんなもののつながり」として見ることです。組織でいえば「仕事のつながり」のことですね。

 プロセス志向の「シコウ」に、「指向」や「思考」ではなく「こころざし」の「志向」にこだわったのは、プロセスとしてものを見るときに「まず、マインドが大事」ということを強調したかったからです。マインドを持って仕事のつながり(プロセス)をいろいろ見ていくことで、新たな発想が生まれ、それが組織や企業を変革していくエネルギーへと変わります。

 つまりプロセス志向イノベーションとは、経営や業務をプロセスとして見ていくことにより、いままでと違う経営を生み出すイノベーションになり得るという考え方です。

 プロセス的なものの見方は、いくつかあります。代表的な観点は2つあって、1つがIE(インダストリアル・エンジニアリング)的なものの見方です。これは、先ほどと同じように、プロセスを「仕事(アクティビティ)のつながり」ととらえています。

 もう1つが、「ビジネスプロセスは交渉過程である」ととらえる、「交渉」という観点です。これは、人工知能の研究で知られるテリー・ウィノグラードが1980年代に言い出したことで、「準備」「交渉」「受入」「実行」の4つのフェイズを、1つのプロセスと考えています。

 プロセス志向イノベーションでは、IEのようにプロセスを「仕事のつながり」として見ることで、イノベーションを起こしていこうというものです。

──仕事をプロセスとして見ると、どのようにイノベーションが起こるのでしょうか?

飯島 例えば、ITなら「攻めのIT投資」と「守りのIT投資」と呼ぶものがあります。日本で多いのは、いままでの仕事をITに置き換える「守りのIT投資」で、これは変革やイノベーションへの投資対効果が小さくいものです。イノベーションを引き起こすためには、「攻めのIT投資」が必要です。

 攻めのIT投資は、既存ビジネスの変革を推進していくものです。そのためには、まず、ものの見方を変えなくてはなりません。そのときに、仕事のつながりを意識して見ていくことで、顧客不満や要望に対して素早く解決策を提供して、顧客満足を得る「アジャイル」のように、「直して、新しいビジネスの在り方を、ITで提供する」考え方が生まれます。

「情報システムによる業務の可視化」 ビジネスの全体像は直接見ることができないので、ITを活用した情報システムを通じて人間はビジネスの状況を把握する(飯島教授提供の資料から作図)

「攻めのIT投資」成功のカギは、3者の「WIN-WIN-WIN」にある

──「プロセス志向イノベーション」の発想は、どこから出てきたものでしょうか?

飯島 経済産業省は2007年3月、「『IT経営力指標』を用いた企業のIT利活用に関する現状調査」の報告書を公表しました。報告書では、経営のIT化を「情報システムの導入」(ステージ1)、「部門内最適化企業」(ステージ2)、「組織全体最適化企業」(ステージ3)、「企業・産業横断的最適化企業」(ステージ4)の4段階に分類しているのですが、調査結果を見ると、約70%の上場企業がステージ1か2の「部分最適段階」にとどまり、部門の壁を超える難しさが浮き彫りになっています。米国では、すでに半分以上の企業がこの壁を超えている状況です。

 この部門の壁を超えた全社的な情報システムを考えることは、「プロセス志向」にのっとったものです。日本の上場企業のCIOは、2007年11月に経産省が立ち上げた「CIO戦略フォーラム」で、経営のIT化で成功している「3割企業」の仲間入りをするために、成功事例を研究しています。

 その中で見えてきたのが、3割企業の多くが「プロセス志向」であること。そして、これまでよくいわれてきた「WIN-WIN」ではなく、「WIN-WIN-WIN」という良好な3者関係を築いて成功してきているということです。1つの企業だけではなく、例えば「サプライヤー」「自社」「カスタマー」の3者みんながハッピーという関係です。そうした成功例が複数社、見られるます。

 1つ例を挙げると食品メーカーのカルビー。3者のWIN-WIN-WINを築いた企業です。ポテトチップスに国産のジャガイモを使っていますが、契約農家(サプライヤー)とカルビーが情報支援でWIN-WINの関係になるだけではなく、農家からカスタマーへの情報支援もあります。カルビーは、お客さまからの声を大切にしていますから、自社Webサイトのトップページの真ん中に「お客様相談室」のボタンを置いたりするなどして、カスタマーの声を集めて製品作りに反映させています。その改善点をまた情報として提供するなど、カルビーとカスタマー、カスタマーと農家など、3者が良い関係を維持しています。

【関連リンク】
カルビー
カルビレッジ

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