企業変革の新発想──「プロセス志向イノベーション」とは何か?BPMトピックス(2)(2/2 ページ)

» 2008年09月09日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]
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イノベーションを起こす企業の「土壌」を考える

──「プロセス志向イノベーション」の実証研究はまさにこれから始まるわけですが、現状の仮説としてどのようなフレームワークが想定されているのでしょうか?

 これまでの職能別縦割り組織に対して、プロセスを中心に組織を水平に見ていく「Process-Oriented Organization」という考え方があります。私たちはこれを参考に、「プロセス志向企業モデル(POE:Process-Oriented Enterprise)」を作りました。これは、下から「Institution」「Organization」「Operation」という3層構造をしています。

プロセス志向企業モデル(飯島教授提供の資料から作図)

 Institutionは、企業の“制度”や“文化”の部分です。構成メンバー(社員)の1人1人の心構えやマインドが対象となります。Organizationは、組織的能力です。「組織IQ」などが対象とする組織の内側だけでなく、カスタマーやサプライヤーをも含みます。Operationは、実際にどう動いているのかの部分で、意思決定のために「見える化」する仕組みがあるか、それが有効かどうかを問う領域です。プロセス志向企業モデルは「組織IQを拡張したもの」と考えてもらえれば、分かりやすいでしょうか。

 企業がイノベーションを起こし業績を挙げていくには、メンバーのマインドや意識文化が大事だと考えています。これはいわば“土壌”に相当するもので、いま自分がしている仕事が「ほかの仕事と関連しているという観点で考えているか」、そして、自分の仕事が「明示できているか」の2点が挙げられるでしょう。明示化に関していえば、「外部に向けて」と「自分の中のステップで見て」という2つの側面があります。

 これらがプロセスとして確立して、ようやく夜明け前。成熟度でいえば、標準化・最適化につながる最初のステップです。仕事の流れで分かっていないことがあれば、それは組織や企業の成熟度が低いということです。自分の仕事が次の工程でどう使われ、最終的にどのような意味を持つのかを、メンバーのほとんどが知らずに作業だけしているといった状態ですね。この状態から各人の仕事を表現することで、自分が何をしているのかが分かるようになります。そうすると、共有もできるし、何よりもモチベーションが高まる。つまり、分かり合うことで、違う仕事をしていても、同じ目標に向かって分担して走っていると認め合うことができるわけです。

 こうした仕事同士の関係を「アーキテクチャ」と呼んだりします。アーキテクチャは、つい要素と要素のつながりを意味する「構造」と思ってしまいがちです。実は、そこには「構造」だけでなく、設計の「原理・理由」があるのです。EAなどでいうビジネスアーキテクチャでも、形にこだわってしまいがちでした。実際のところ、アーキテクチャは設計理由を説明しようとすると難しいのですが、それをしっかり共有していくことがシステム統合などで大切になります。

 マインドに関して追加すると、成功している企業は役員が現場に足を運び、何度も説明をしています。CIOは技術だけでなく、ビジネスが分かること、現場を肌で知ることが大切です。同時にCEOにも理解しもらうことが必要な要素なのかもしれません。

日本企業の経営者に向けて提言を作成

 プロセス志向イノベーション推進会議は9月から「業務の可視化・改善力に関する実態調査」を実施している。日本企業の“土壌”や取り組み姿勢、成熟度の実態を明らかにするとともに、プロセス志向企業モデルの有効性を検証することにある。

 加えて、その調査結果を受けて有識者による検討・考察を実施、日本企業の経営者に対する提言をまとめる。来年度以降は、研究成果をベースにさらに有効性の高い、経営方針設定の枠組みを開発する予定だ。

 調査は同会議のWebサイトから調査票(Excelシート)をダウンロードし、電子メールで返送することで参加できる。締め切りは9月25日。調査に協力した企業・団体には、業務改革を企画・推進する際の参考資料となる調査成果がフィードバックされる。さらに、2009年2月には「プロセス志向イノベーションフォーラム」を開催し、研究成果と有識者による提言を公表する。

著者紹介

生井俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、執筆家(ライター)として活動中。著書に『ディズニーランドが大切にする「コンセプト教育」の魔法』『本当にあった「ホテルの素敵なサービス」物語』(共に、こう書房)。


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