最強武田軍は組織と人を重んじたビジネスに差がつく防犯技術(9)(2/2 ページ)

» 2008年09月16日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]
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責任権限がはっきりしない名ばかりの規定と契約はない方がまし

 社外への外注や業務委託であっても、要求定義書は作成できるはずである。

 トヨタのかんばんも当然、外注にも適用されている。もし、社外への外注や業務委託についての要求定義書が作成できないような状態だとすれば、契約書や発注書の内容があいまいになっている恐れがある。社内の職務権限規定でも同じだ。

 個々の部署における要求定義書、特に「内部顧客」をはっきりさせないまま職務権限について規定することは大変危険である。情報システム部門などでは、そもそも誰のための情報システムかというレベルで認識が合っていない組織も珍しくない。

 内部顧客をはっきりさせれば、内部統制における評価・監督の体制や仕組みも設計しやすくなる。内部顧客にとって、内部取引先である部署の仕事を評価・監督することが自部署の便益につながってくるのだ。

責任権限は連鎖の中で決まるもの

 内部顧客が見つからない、内部顧客側に業務改善に対する意識がないというケースでは、最終的な「顧客」の便益を実現するために、「内部顧客」を連鎖された分業体制が機能しているかどうかについて見直してみる必要がある。

 「顧客」に提供すべき便益が“安さだけ”と考えている人には、サービス向上の目的が出てこないし、安全や社会的責任のように顧客が当たり前のこととして明示しないような便益ともなれば、どこかの料亭であった事件のように、人は簡単に常識を逸することができるのである。

 そもそも最終的な「顧客」の便益とは何か、組織内の伝言ゲームの中で大事な要件をどこかで落としてしまっていないだろうか。

 内部統制やコンプラアンス、情報セキュリティも、最終的な「顧客」の便益として結び付いてくるものであるならば、抜け落ちるはずがないのである。

 職務権限を決める前に、最終的な顧客の便益こそ先に定義すべきである。経営方針とはそういうために定められるべきなのだ。日本版SOX法の全社統制として求められている統制環境も、形式的な経営方針とは決して違うということはいうまでもない。

責任権限は士気と力量があって初めて守られる

 さて、話を武田軍に戻そう。

 適切な責任権限の割り当てができたとしても、従業員側に士気と力量が付いてこなければ、前述した“立派な行動指針”は平気で破られてしまう。ではどうすれば、従業員側に士気と力量が付くのだろうか。

 そこで注目されるのが「晴信の形儀その外の法度以下において」のくだりなのである。どんなに立派な行動指針をWebサイトに掲げようとも、経営者自らが模範を示さなければ従業員は付いてこないのだ。

社員教育こそが一番大事

 松下幸之助氏は、常々「人がすべて」「わが社の唯一の財産は人材である」といっていたという。

 人という財産を築くためには、社員教育という業務が大変重要であることは、自明の理である。しかし、社員教育について自信を持って語れる企業は少ない。

 ビジネスにおいては、学生時代の暗記中心の学習など役に立たない。社会人に必要な力量は自分の頭で考えることができる地頭力である。地頭力を身に付けるためには、一方通行の教育ではだめだ。

 表面的な理解で終わらせるのではなく、腑(ふ)に落ちる、納得する、人に教えられるようになるまで徹底的に議論しよう。急がば回れである。初めのうちは我慢して理解に時間をかけておけばあとが速い。

 初めに要領よく深く理解しようとしなかった人は、必ず後でつまずく。江戸時代の寺子屋では、講義方式ではなく師匠が子どもを1人ずつ徹底的に指導していたという。皆さんの会社でこのような光景を見ることができるだろうか。

次回の予告

 今回は、「強い組織には厳格なルールとそれを徹底して守る人が存在する」という話をした。どんな高額な設備や高度なシステムを導入しても、人の士気や力量が低ければ効果は期待できない。

 次回は、リスク対策の有効性を確保するために知っておくことが不可欠である、バリデーション(妥当性確認)とベリフィケーション(有効性確認)という2つの検証の意義と違いについて説明する。

 リスク(脅威とぜい弱性)は絶えず変化していく。どんなに強固な守りを築き上げても慢心することなく検証し続けることが大切である。内部統制上のモニタリングにおいても、バリデーションとベリフィケーションの区別を知っておくことが望ましい。

筆者プロフィール

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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