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» 2008年10月03日 12時00分 公開

Web 2.0マーケティング・イノベーション(6):顧客と企業が、互いに学び合う時代 (1/2)

人は1つ欲求が満たされると、さらに高い欲求を欲し続ける。顧客満足感を向上させるうえでマス・カスタマイゼーションの手法が限界に達しているいま、“新たな経済価値”を提供するものとは、いったい何なのか?

[森田進,ストラテジック・リサーチ]

マス・カスタマイゼーションの手法はもう限界

 欧米ではITのことを「ICT」(Information and Communication Technology)と呼ぶことが多いが、筆者も努めて「ICT」と呼ぶようにしている。「コミュニケーション」という言葉を含んだ呼称の方が、ITがもたらす価値の本質を表している、と考えるためだ。また一方で、ITというコンセプトは、“感情をきちんと考え、くみ取っていくこと”、すなわち“コミュニケーション”という概念を軽視してきたのではないか、と考えるためでもある。

 事実、IT業界では「規模の経済性」の原理が幅を効かせてきた。「規模の経済性」とは、コンビニやファストフードのサービスマニュアルなどにみられる、「平均的顧客に向けて画一化された商品を、マス・プロダクション的、チェーン的な発想で提供する在り方」のことである。

 分かりやすくいえば、平均的顧客をターゲットとして情報を集めて、彼らのニーズに商品を適合させるための「鋳型(金型)」を作り、商品を大量生産して、あるいは画一的なサービスを展開して、コストダウンを図る、といったことである。もちろん、これはIT業界に限った話ではない。農業や工業、サービス業など、あらゆる業界においてこうしたコンセプトが用いられ、多くの企業が多大な利益を挙げてきた。

 しかしこうした方法は、多くの顧客に少しずつ我慢を強いる方法でもある。そこで、1人1人の顧客に個別の商品を効率よく提供するための組織的な仕組みとして、「マス・カスタマイゼーション」という方法を編み出した。これによって「規模の経済性」に修正を加え、もう一段階“きめ細かな対応”を可能としたことで、顧客をそこそこ満足させ、顧客満足をぎりぎりのレベルで維持してきたのである。

 「商品を発注するのは顧客であり、顧客の要望を最大限に実現できるよう努力する」──こうした顧客満足度(CS)向上というスローガンも、マス・カスタマイゼーションの取り組みから生じてきた概念である。顧客は画一化された商品だけでは飽き足らず、もう一段階、個々人のニーズにカスタマイズした商品提供を望み、企業は少しでも売り上げを伸ばすために、効率的な方法でそれに答えようとする──顧客も企業も、そして市場経済も成熟してきたということであろう。

 マズローの欲求5段階説(注1)によると、人間は誰しも低次の欲求が充足されると、より高次の欲求を目指すという。生理的欲求の欠乏が満たされれば、次は「安全の欲求」、さらに「親和の欲求」に向けて、高度な成長欲求を満たそうとする。そして最高次にある「自己実現の欲求」を一度でも充足すれば、その後も欲求は尽きることなく、より強く充足させようと志向し続ける。

 市場経済が、まさにこのマズローの欲求5段階説にのっとって成熟してきたのだとすれば、商品という“具体的な価値”とはまた異なる、「自己実現の欲求」に当たるような、“新しい経済価値”を志向する流れが登場してきてもおかしくはないだろう。

 では“新しい経済価値”とは具体的にどのようなものなのであろうか。


▼注1: アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(A. H. Maslow/1908〜1970年)は、「人間の欲求はピラミッドのような形をした5段階の欲求階層から成っている」とし、低次から「生理的欲求」→「安全の欲求」→「親和(所属愛)の欲求」→「自我(自尊)の欲求」→「自己実現の欲求」の5段階に分類した。
 さらに、マズローは「欲求には優先度があり、人間は満たされない欲求があると、低次のそれを充足しようと行動(欲求満足化行動)する」ことや、「低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を満たさんと志すため、段階的に移行する」とした。
  また、「生理的欲求」から「自我(自尊)の欲求」までの4階層に動機付けられた欲求を「欠乏欲求」とし、「自己実現の欲求」に動機付けられた欲求を「成長欲求」としたうえで、「最高次の自己実現の欲求のみ、一度充足してもさらに強く充足させようと志向し、行動する」という説を唱えた。そのため「自己実現理論」と呼ばれることもある。


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