邦訳も出版されている「ウィキノミスク」共著者のドン・タプスコット(Don Tapscott)氏が10月29日(米国時間)、米SAS Instituteが米国ラスベガスで開催中のイベント「The Premier Business Leadership Series」で講演した。同氏は出版されたばかりの新著「Grown Up Digital:How the Net Generation Is Changing Your World」を紹介し、「企業は人材育成やトレーニング、マーケティングを大きく変える必要がある」と強調した。
Grown Up Digitalは総額400万ドルをかけ、1万人にインタビューしたという調査のレポートだ。調査対象はインターネットの発展と共に成長してきた現在の12歳から29歳のネット世代の若者。比較をするために30歳から61歳の人にもインタビューした。調査対象者は12カ国に及び、日本人もインタビュー対象になったようだ。同氏は1997年にITとともに育ちつつある若者を調査した著書「Growing Up Digital」を出版、Grown Up Digitalは成長したその若者たちが、社会に与える影響をレポートしている。
現在の29歳以下のネット世代について「テクノロジはエアー(空気)のような存在になっている」と指摘するタプスコット氏は、ネット世代について楽観的だ。インターネットや、Webサービスを自在に扱う若者については「脳を破壊する」「社会的なスキルが不足する」「自己中心的だ」などの批判もあるが、同氏は「真実を示す批判もあるが、全体的に見てデータに基づいていない」と指摘する。
1万人におよぶ調査によって同氏はネット世代を示す8つのキーワードを示している。それは「自由」「カスタマイゼーション」「精査」「正直」「コラボレーション」「エンターテインメント」「スピード」「イノベーション」だ。著書の中では以下のように説明されている。「彼らは自由な選択を大切にし、物事をカスタマイズすることを好む。教える人ではなく、楽しく会話できる人と自然にコラボレーションし、人や組織を精査する。正直さにこだわり、職場でも学校でも楽しいことを求める。スピーディさは当然で、イノベーションは生活の一部だ」
ネット世代とすでに対峙しているのは彼らの親たちだ。ITやネットに対する知識は子供の方が詳しく、親たちは自らの常識が通用しないことに戸惑っている。しかし、この戸惑いは「従来の世代間であったギャップではない」と同氏はいう。「ギャップではなく、ジェネレーション・ラップなのだ」。ネット世代が親しむWebサービスやデバイスは、親世代を含めて多くの人にとって有益。ネット世代はその先頭を走っていて、親世代は遅れてついて行っているとの認識だ。
ネット世代を受け入れる企業も「やり方を変える必要がある」とタプスコット氏はいう。ネット世代を採用する企業が考えるべきなのは「関係指向」だ。従来の採用方法を変えて、企業と採用対象者のよい関係をまず築くことをタプスコット氏は勧める。トレーニングも従来の上から教え込むという方法ではなく、ネット世代の将来を考えた学習が求められるという。さらに同氏は「Facebookなどネット世代の新しいツールを企業内で禁止すべきではない」「世代間の“ファイアウォール”を乗り越えるような施策を用意する」などと説明した。
また、ネット世代を購買者として考える企業にとっては「N-Fluence」がキーワードになる。ネット世代の購買に影響する人が複数いることを示す言葉で、タプスコット氏は「親しい友人」「ソーシャルネットワーキング」が強い影響を与えると指摘した。メディアや広告で宣伝される情報ではなく、顔を知っている人、ネット上で信頼している人の情報が購買行動に強く影響するという。
同氏はネット世代にマーケティングを行う企業は「放送向けの宣伝を劇的に少なくすべき」と話す。放送広告は顔の見えない「The World」に向かっての放送であり、ネット世代には強い影響を与えないからだ。また、同氏は「顧客にフォーカスするのではなく、顧客と関係を持つべき」「製品やサービスを作るのではなく、消費者の経験を作り出す」「誠実さを企業やマーケティングキャンペーンに浸透させる」などのアドバイスを示した。
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