“顧客基点”が、売れる仕組みを作るコツマーケティング入門〜売れる仕組みの作り方〜(6)(2/3 ページ)

» 2008年11月06日 12時00分 公開
[斉藤孝太株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)]

商品(Product)──ニーズを着実にキャッチし、合理的に盛り込む

 では、さっそく商品開発の事例から紹介していきましょう。商品(Product)については、「企業基点」では「どんな商品を売るのか」という視点で考えますが、顧客基点の場合は「どんな商品なら共感してくれるのか」と考えます。ここでは、3つの事例を紹介しましょう。

消費者の声をダイレクトに反映する

 共感を獲得するうえで最も直接的な手法が、消費者の声を商品開発にダイレクトに反映することです。例えば、コスメ製品の通信販売サイト「マルコレ」を運営する百貨店の大丸では、Web上で募った消費者アンケートに基づいて、化粧品を入れるポーチを開発・提供し、大きな支持を獲得した実績があります。

 東急百貨店でも、同社が運営する携帯サイト「東急百貨店MOBILE」で、550人の会員からアンケートを募ったり、試飲会に参加してもらうことで、20?30歳代女性向けのワインやビールを開発しました。一方、高島屋では「すそ直し伝票」を分析して、平均的な顧客層にちょうどよい股下寸法に設定した婦人用パンツを開発した事例があります。こちらは2006年春から続く、息の長いヒット商品となりました。

 この方法は、多様なニーズを1つの商品にまとめる難しさがありますが、うまく反映できれば大きな販売効果とロイヤリティ向上が望めます。

ターゲットニーズを深堀りする

 普及率が100%に近い成熟市場の商品である冷蔵庫は、新製品が登場してもすぐには購入されず、店頭価格が下落し始めてから販売量が増える「遅咲き型」の商品です。そんな中、20万円を超える新商品の冷蔵庫が好調な売れ行きを示した事例があります。

 成功要因となったのは“10センチメートルの構造改革”でした。もう10センチメートル、野菜室を引き出せる設計として全開可能とし、冷蔵庫内の死角をなくしたのです。これだけのことでも、毎日使う主婦に対してはアピール度満点でした。これは各メーカーがそれまで見落としていた盲点でした。成熟市場では、このようにニーズを深掘りした一見地味な“ひと工夫”が、競合商品との大きな差別化ポイントとなり、支持を得ることにつながるのです。

時代のニーズをキャッチする

 近年は環境問題が世界的な課題となっています。マスメディアでも、連日のように環境関連のニュースが取り上げられているほか、スーパーのレジ袋有料化など、その影響は消費者の身の回りにも着実に表れています。こうしたトレンドを商品に取り入れるアプローチも効果的です。例えば、消費電力を削減したエアコン、冷蔵庫など、最近の家電製品の多くが環境に優しいことをアピールしています。

 また、これは商品開発というより、販売促進(Promotion)事例になりますが、スーパーマーケットのダイエーが2007年冬、『“家(うち)”の中でできる地球温暖化防止運動「うちエコ!」』というキャンペーンを実施したところ、環境に優しい暖房具であるガスヒーターやハロゲンヒーター、さらには湯たんぽなどの懐かしい商品まで、飛ぶように売れたことが話題となりました。消費者は社会のトレンドに非常に敏感なのです。


 インターネットが浸透した近年、企業と消費者は以前よりも大幅にコミュニケーションを取りやすくなりました。今後は自社WebサイトやSNSなどを通じて、消費者との意見交換をいっそう活発化させることで、より消費者のニーズに踏み込んだ商品開発がなされるようになっていくのではないでしょうか。

価格(Price)──消費者の立場に立って値付けする

 さて、次は価格(Price)について述べましょう。こちらは、「企業基点」の場合、「いくらで商品を売るのか」と考えますが、「顧客基点」の場合は「いくらなら受け入れられるのか」を重視します。ここでは2つの事例を紹介しましょう。

消費者の視点に立って価格を逆算する

 価格戦略の事例として、最近注目を集めているのがスポーツクラブのジョイフィットです。フィットネス業界では、30秒程度の運動とストレッチを繰り返す「サーキットトレーニング型」の簡易店舗が好調ですが、ジョイフィットはトレーニングマシンを使った運動とスタジオレッスンの「総合型」でありながら、コストが掛かる水泳プールをなくすことで、入会時の事務手数料を2100円、月会費を4800?5300円と簡易店舗並みに抑え、店舗数と業績を伸ばすことに成功しました。

 ちなみに、日本経済新聞社が2007年、消費者3000人を対象に行ったアンケート「買いたい価格調査」によると、フィットネスクラブの適正価格は「5000円未満」という答えが最も多かったそうです。「消費者が望む料金設定をベースに、どんな収益モデルとするか」という視点で、ビジネスモデルを構築した好例といえます。

ブランド品でも、価値判断と値ごろ感のバランスを探る

 ブランド品においても、消費者が価格に向ける目は年々シビアになっています。例えば、コーチ(COACH)の例が挙げられます。ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)の中心的な価格帯が10万円前後であるのに対し、コーチは5?6万円とし、“手の届く”ラグジュアリーブランドとして販売戦略を展開。2001年の日本法人設立以来、急激に売り上げを伸ばし、現在、日本国内の高級ハンドバッグ市場で、ルイ・ヴィトンに次ぐ第2位の売上高を獲得しています。

 従来、ブランド品の価値は、「自分の利用価値」よりも「他人への自己顕示欲の満足価値」に比重が置かれていました。消費者にとって、そうした意識がベースにあると、価格はむしろ高ければ高いほど望ましい、といったことになります。しかし最近は「自分の利用価値」を重視する割合が増え、冷静に価格を見ることが多くなっているのです。そこを見逃さずに、ポイントをうまく突いた戦略といえるでしょう。

インターネットで低価格をアピール

 近年、インターネットで商品情報を調べ、店頭で確かめ、再びインターネットで一番安いお店を探して購入する、といった購買行動を取る消費者が増えています。この点で、低価格を武器とする企業にとっては、「価格.com」に代表される価格比較サイトを活用することが、もはや必須条件といえるでしょう。インターネットであれば、競合他社の価格を容易に把握できるほか、自社の価格を瞬時に変更することもできます。商品の口コミなど、周辺情報の充実度も売り上げに影響を与える重要な要素です。低価格戦略といえども、ただ値付けを考えるだけでは十分とはいえないのです。

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