“顧客基点”が、売れる仕組みを作るコツマーケティング入門〜売れる仕組みの作り方〜(6)(3/3 ページ)

» 2008年11月06日 12時00分 公開
[斉藤孝太株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)]
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流通(Place)──便利さ、楽しさを追求する

 インターネットの浸透によって、一番大きく変化したのは流通(Place)でしょう。従来は卸、小売りといった販路がなければ、どれほど魅力的な市場であっても手を出すことはできませんでしたが、インターネットがあれば容易に直販体制を構築することが可能です。

 ただ、こうした中でも「顧客基点」の視点があるかないかで、売り上げは大きく変わります。企業基点の場合、「どこで商品を売るのか」を考えますが、顧客基点の場合は、「どこなら買いやすいのか、楽しく買えるのか」と考えます。

ネットオークション

 その点、「eBay」「Yahoo!オークション」などのインターネットオークションサイトは、今後、流通戦略においてますます重要な位置を占めるようになっていくことでしょう。事実、野村総合研究所の調べによると、ネットオークションの市場規模は、2004年には1兆800億円でしたが、2009年にはほぼ2倍の2兆800億円規模になると見込まれています。

 時間や場所を気にせず気軽に参加でき、駆け引きの醍醐味が味わえる点で、ネットオークションというスタイルは顧客基点の考え方に見事に合致しています。当初は一般消費者や小規模店による活用が中心でしたが、今後は一般企業による活用もどんどん活発化していくことでしょう。

インターネット通販

  インターネット通販も、「買いやすさ」という点で命題に合致しています。従来はインターネット専業の企業が躍進してきましたが、Webサイト制作・決済システムの価格下落、一般消費者のネット通販への心理的ハードルが下がっている事実、リアル店舗で商品を見てネットで買うといった消費者動向が顕著になっていることなどを受けて、今後はリアルビジネスを行っている店舗が市場をリードしていくことになるでしょう。さらに、デジタル放送開始に伴い、インターネットを通じたダイレクト販売はさらに身近になっていくと思われます。

販売促進(Promotion)──消費者の心中を察する

 最後は販売促進(Promotion)です。こちらは企業起点の場合、「どのように商品を売るのか」と考えますが、顧客基点の場合、「どうしたら商品を買ってくれるのか」となります。

 インターネット広告やキャンペーン・マネジメントツールなど、最新の支援ツールについては第5回『“最後のひと押し”販促策で、売り上げが決まる!』で解説しました。ですので、ここではそうしたツールを使って発信すべき情報について、ヒントをご紹介しましょう。

購入上の問題に対する解決方法を提示する

 どんな商品を買うときも、購入の障害となる問題が存在するものです。積極的に相談してくれる消費者ならよいのですが、進んで相談してくれないケースがほとんどです。しかし質問を待っていたのでは販売につながりません。問題を推測して、こちらから解決策を提示することが大切です。

 家具の製造・販売を行うアイリスオーヤマでは、「シンプルスタイル」と呼ぶ直営店で、そうした取り組みを行っています。例えば、子供連れの消費者にソファーを紹介するとき、「子供が汚したらどうしよう……」という多くの消費者が抱く潜在的不安に対応して、「このカバー、付け替えが簡単ですし、ご自宅でも洗えますのでご安心ください」と伝えるのです。これが店頭での販売促進に大きな効果を挙げているそうです。

 一般に、メーカーによる商品パンフレットはアピールポイントばかりが列挙され、こうした潜在的不安を想定した情報が薄くなる傾向があります。その部分にしっかり触れておくと、消費者がパンフレットを読んで競合商品と比較する場合にも非常に有効なのです。

社会のトレンドを融合して訴求する

 多店舗展開をしているある生花店では、20?50歳代の女性をターゲットに、心理セラピーを組み合わせた販売方法を実施しています。セラピストの研修を受けたスタッフが顧客と会話をし、不安・ストレスをためこんでいる人にはラベンダーを、元気になりたいと願う人にはひまわりを組み合わせた花束を提案する、といった具合に、30種類の切り花から適切なものを組み合わせて提案し、順調に売り上げを伸ばしています。

ここ数年の“スピリチュアルブーム”を受けた戦略ですが、販売促進はこうしたトレンドを取り込む切り口も有効なのです。

専門家が詳細な説明を行う

 自動車メーカー、ダイハツのディーラーでは、作業着を着た整備スタッフが、装置や部品を顧客に見せながら修理内容を詳しく説明しています。取り組みを開始した当初は快く思わない顧客もいたそうですが、専門家が接客することで次第に信頼感が高まり、車検・メンテナンスの売り上げが伸びたそうです。いわば、専門知識という店舗の資産を、顧客の安心感、信頼感を高めるツールとして認識し、販売促進につなげた形といえるでしょう。

戦略は、アクションに落とし込んでこそ意味がある

 さて、顧客基点のマーケティング4Pについて、さまざまな例をみてきましたが、いかがだったでしょうか。冒頭で「お客さまが喜んでくれることは何なのか」という発想が大切なことを説明しましたが、そんな発想を具体的なイメージとして把握できたのではないかと思います。この発想は、マーケティングという取り組みの本質にかかわる、非常に重要なものです。

 というのも、マーケティングで最も大切なのは、あらゆる「戦略」を、販売現場できちんと使える具体的な「施策」にまで落とし込むことなのです。例えば、CRMシステムの使い方にしても、きちんと考える必要があります。現在リリースされているCRMシステムは、購買データ管理、SFAデータマイニングなど、企業の本部がマネジメント目的で活用するものが中心です。製品数も多く、その機能、精度も一定のレベルを確保しています。

 しかし、こうしたシステムを導入して購買データの分析などを行っても、最終的に販売現場における実際のマーケティング・アクションにつなげられなければ意味がありません。特に現在は消費者の価値観が多様化し、1人1人が個別のニーズを持っているといえます。消費者の支持を獲得するためには、販売現場でのよりきめ細かなアクションが不可欠となるのです。何の考えもなく、漠然とシステムを導入したところで“分析のための分析”に陥り、何の効果も得られないことは明白です。

 この意味で、CRMシステムに関していえば、今後は「本部が活用する分析・マネジメントのためのCRMシステム」と、「現場が活用するマーケティング機能を持つCRMシステム」の高レベルでの融合がポイントになっていくことでしょう。例えば、本部でデータマイニングを行った結果、実際に現場でどのようなアクションを起こせばよいのか(接客、イベント、売り場作りなど)リアルタイムで提示できるようなシステムです。この点については、『5分で絶対に分かるCRM』で詳述していますので、ぜひ参考にしてください。


 さて、以上でマーケティング入門は終了です。全6回にわたってお読みいただき、ありがとうございました。今後、国内市場ではゼロ成長・市場縮小が、あらゆる業界で進むと予想されます。こうした中で堅調に売り上げを伸ばすためには、マーケティングの知識をしっかりと身に付け、そのノウハウを適切に活用することが、ますます重要となっていくはずです。本連載が、マーケティングの基礎知識を得る、またマーケティングに興味を持つきっかけになれば幸いです。

筆者プロフィール

斉藤 孝太(さいとう こうた)

株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)代表取締役。

大学卒業後、広告代理店に企画営業として勤務し、主に大手マンションデベロッパーの販売促進を担当。その後、企画・マーケティング会社にてマーケティングプランナーとして勤務。大手メーカーなどのマーケティング計画策定から販売マニュアル作成などを手掛ける。

その後、マーケティング・コンサルティングファームに入社し、多数の顧客案件を成功に導く。現在、店舗系ビジネスにおける顧客との関係性強化や、CRMを販売現場に導入するコンサルティングを実施している。


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