優れた流通基盤が、ヒット商品を生むマーケティング入門〜売れる仕組みの作り方〜(4)(1/2 ページ)

優れた商品を作っても、どこで、どのくらい売るかによって販売状況は大きく変わる。また、販売計画の実行には、卸売業者や小売業者の協力が必要だ。今回はマーケティングの4Pの中でも特に難しい、流通戦略を解説する

» 2008年07月24日 12時00分 公開
[斉藤孝太,株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)]

流通は他社も巻き込む重要な課題

 第3回「売れ行きは、商品・価格の『演出』で決まる」では、マーケティングの4Pのうち、商品(Product)と、価格(Price)についてお話ししました。今回は流通(Place)戦略について解説します。流通戦略とは、分かりやすくいうと「企業が提供する商品を、どのような経路で消費者まで送り届けるか」ということです。消費者から見ると、「自分が欲しいあの商品はどこで買えるのか」という視点となります。

 商品(Product)、価格(Price)は、自社でコントロールすることがが可能ですが、流通(Place)は、卸売業者、小売業者をはじめ、自社の外にいる人たちに計画通りに動いてもらえなければ、思うような販売効果を得ることができません。その意味で、非常に戦略が難しいといえるでしょう。また、流通経路は一度構築するとなかなか変えられないため、慎重に考えたうえで、実行することが求められます。流通(Place)戦略は、次の5つの ステップで決定、実行していきます。

STEP1 流通の長さの決定
↓
STEP2 流通の幅の決定
↓
STEP3 展開エリアの決定
↓
STEP4 協力会社の選定・交渉
↓
STEP5 協力会社に対する動機付け

 ではさっそく、それぞれについて解説していきましょう。

市場までの“長さ”は、商売の安定性に比例する

 まず、STEP1 流通の長さの決定ですが、これは商品・サービスを消費者の元に届けるまでに、いくつの段階を経るかを決めることです。これには3つの代表的なパターンがあります。

メーカー直販型

 1つ目は、メーカーが消費者に直接販売するパターンです。 このパターンで最近注目を集めているのが、ネット通販でしょう。従来は卸売業者、小売業者の影響力が大きく、巨大な規模を誇る大手メーカーでも、直接販売がほとんどできませんでした。しかし、最近は様子が変わってきています。

 小売業者のチェーン化が進み、小売側のバイイングパワーが増すにつれて、メーカーの粗利益は減少する傾向にありました。こうした中、メーカーは、ネット通販を活用して直販を実施することで粗利益を確保するとともに、消費者とダイレクトに結ばれることで、顧客とのコミュニケーションの充実にも力を注いでいるのです。インターネットがなければこのような動きは生じなかったことでしょう。

 富士経済の調べによると、2007年における日本のインターネット通販は、前年比20%増の1兆9240億円に達する見込みです。楽天などの仮想ショッピングモールが好調だったほか、商品カテゴリではアパレル市場が躍進しました。

 このデータには小売業者による業績が含まれていますが、通販市場の拡大により、メーカーも直販体制を採用しやすくなることは確かです。

小売販売型

 2つ目は、メーカーが小売業者に販売し、小売業者から消費者に販売するパターンです。卸売業者を通さず、小売業者がメーカーと直接取り引きをする形です。例えば最近スーパーに行くと、「地元農家コーナー」など、農地直送品であることをアピールした売り場をよく見かけます。「農家」というメーカーが、「スーパーマーケット」という小売業者と直接取り引きをしているのです。このように「農協」という卸売業者を通さない取り引きが、最近は増えつつあるようです。

伝統的間接販売型

 3つ目は、メーカーが卸売業者に、卸売業者は小売業者に、小売業者が消費者に販売するパターンです。業界によっては1次問屋、2次問屋……と卸売業者が多段階になっている場合もあります。日本ではこのような伝統的流通経路が非常に発達しており、世の中の多くの商品がこの経路で流れています。従来型の方法といえるでしょう。


 こうしてまとめてみると、一見、メーカーが消費者に直接販売するパターンが最も望ましいと感じるかもしれません。この方法は3つのパターンのうち、しがらみや因習にとらわれることなく販売活動をスタートできる半面、自社のみで販売・告知活動を展開し、自社のみで事業を軌道に乗せなければなりません。

 加えて、顧客をゼロから集めなければならず、商売が安定するまでには、かえって時間がかかってしまいます。スピードとリスク分散が求められている現在、必ずしも直販がベストな方法とはいえないのです。といっても、ほかの2パターンの方が優れているというわけではありません。これは優劣の問題ではなく、適不適の問題なので、自社の体力と商品特性、そして市場状況を踏まえて、どの方法が最適なのか、慎重に考慮することが大切です。

 こうした中、最近は複数の流通経路を持つ「マルチチャネル戦略」を採用するケースも増えています。例えば、小売業者に提供しているのと同じ商品を、メーカーが自社の通販サイトで販売するパターンです。上記の3つの方法から1つだけ選ぶというより、同時並行的に取り込むというのが最近のトレンドといえるでしょう。

流通させる幅が広いほど、たくさん売れるわけではない

 さて、上記のように商品特性や市場を見据えて「流通の長さ」を決めたら、次はSTEP2 流通の幅の決定です。ここでは商品・サービスの展開範囲をどこまで広げるかを検討します。代表的なパターンは以下の3つです。

開放的 流通施策

 メーカーが、ある特定の商品・サービスを幅広く販売するために、卸売業者、小売業者との取り引きに制限条件を付けず、希望するすべての会社との取り引きに応じる方法です。お菓子、洗剤、タバコ、雑誌といった日用品や食料品など、常に一定の需要がある最寄り品に適した手法です。

選択的 流通施策

 メーカーが、特定の商品を確実にターゲットに販売するために、一定の条件に適合した卸売業者、小売業者にのみ商品・サービスを卸す方法です。ブランド性、信頼性が重視される化粧品や医薬品など、買い回り品に適しています。

専売的 流通施策

 自社商品のみを扱うことを条件に、メーカーが小売業者と直接取り引きする方法です。ガソリンスタンド、自動車、エステサロン、家電、高級紳士服といった専門品に適しています。


 販売する範囲が広くても、売れる条件がそろっていなければ、商品・サービスは思うように売れません。また、販売する範囲をむやみに広げても、それだけ無駄なコストが掛かってしまいます。どんなルートを通じて、どこで売るのか、商品特性やニーズに基づいて“場”を選ぶことが売り上げを左右する重要な要素となるのです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ