優れた流通基盤が、ヒット商品を生むマーケティング入門〜売れる仕組みの作り方〜(4)(2/2 ページ)

» 2008年07月24日 12時00分 公開
[斉藤孝太,株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)]
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ネットの進展で、マルチチャネル戦略が台頭

 さて、次はSTEP3 展開エリアの決定です。具体的には、グローバル、日本全国、地方、県、市町村といったさまざまなレベルにおいて、「商品・サービスをどんな地域に、どのくらい展開するか」という展開基準と、「いつ展開するか」という展開時期を設定していきます。

 例えばセブン-イレブンの場合、当初は出店エリアを絞り、そこで一定シェアを獲得してから、順次エリアを拡大していくドミナント戦略を採用しています。一方、ローソンは初めから全国展開することを前提に店舗数を拡大してきました。展開基準と展開時期については、自社の状況や考え方に合わせて、各社各様の戦略をとっています。

 一方で、以前ほど重視されなくなった観点も存在します。特定の商品について、「購入できる場所を全国展開するか否か」という問題です。インターネット通販の成長が、場所や距離という物理的な問題を一気に解決してしまったのです。例えば、主要都市にはアンテナショップを設置するが、そのほかの需要については電話やFAX、インターネットで注文を受け付けるというスタイルです。店舗と通販をうまく組み合わせたマルチチャネル戦略によって、「買う手段がない」という機会損失をかなり抑えられるようになったのです。

 とはいえ、インターネットというインフラを前提にすれば、リアル店舗をどのような意味で、どこに設置し、ネットとどのように役割分担するか──マルチチャネル戦略を、いっそう高度なレベルで考えなければならなくなります。

協力会社との連携なくして、販売活動はあり得ない

 さて、次はいよいよ流通戦略の最難関、STEP4 協力会社の選定・交渉です。STEP1〜3によって、「卸売業者、小売業者の力が必要なのか」「必要なら、いつ、どの地域の業者に、どのくらいの商品・サービスを、どう扱ってもらうべきなのか」といったことは、ある程度まっているでしょう。後は、その内容を基に彼らと交渉し、商品・サービスの提供を実現していくばかりです。

 ただ、STEP1〜3は自社内で考えていればよかったのですが、このステップでは実際に卸売業者、小売業者と交渉する必要があります。世間の注目度が高く、誰もが扱いたがるような商品・サービスなら話は別ですが、通常は、その商品・サービスを扱うことで業者にどんなメリットがあるのか、また、そのメリットを明確にアピールできるか──が交渉の鍵を握ります。最も骨が折れる作業です。

 多くの場合、卸売業者、小売業者は商品・サービスが売れるのか、売れた場合、自社にはどのくらいの利益が上がるのか、数字でシビアに判断します。この結果、STEP1〜3の戦略を考え直さなければならないことも多々あります。彼らが取り引きに応じてくれなければ、直販以外、市場への道が断たれて、すべてが振り出しに戻ってしまうからです。流通体制構築の難易度は、協力会社との交渉の難易度に比例するといってもいいでしょう。

ALT 図1 どれほど大きく魅力的な市場があっても、どれほど魅力的な商品を持っていても、流通経路を確保できなければ手も足も出せない

 この点で、新製品を投入したり、新事業を立ち上げたりする場合、「流通体制の構築しやすさ」という観点も非常に重要となります。すなわち流通(Place)戦略とは、商品力や市場規模の問題など、ほかの何よりも優先的に検討しなければならない場合があるほど重要なテーマだということです。

 最後のSTEP5 協力会社に対する動機付けも、苦労して築いた貴重な流通体制をいっそう強固なものにすることが目的です。卸売業者や小売業者に商品・サービスを納入しても、積極的に販売してもらえなければ売り上げアップは望めません。

 以下の4つが代表的な施策ですが、一般消費者向けのキャンペーンと、ほぼ同じような内容です。交渉が成立して取り引きがスタートすればそれで終わり、ではなく、関係性のメンテナンスがいかに大切か、いかに売り上げに影響するものなのか、ここから推し量ることもできるのではないでしょうか。

協力会社に積極販売してもらうための施策の例

流通プレミアム 一定の仕入れに対して、景品をプレゼントする施策
流通コンテスト 売り場写真を募る“ディスプレイコンテスト”などを実施する施策
流通リベート 一定の仕入れに対して、一定の金額を付与する施策
流通デモンストレーション 女性スタッフを派遣しての試食会などを実施する施策

バックオフィスにも、きちんと目を配ろう

 ところで近年は、企業が商品という価値を創造するところから、最終的に顧客の手に届くまで、一連の供給連鎖(サプライチェーン)を効率的に運用するサプライチェーンマネジメント(SCM)が注目されています。

 メーカーをはじめとする主体企業が卸売業者、小売業者といった協力会社と密接に連携して、不良在庫を限りなくゼロに近づけるための戦略ですが、このSCMとは、今回紹介した流通戦略を限りなく洗練させたもの、といえるでしょう。

 流通やSCMを支援するITシステム製品やサービスも多数用意されています。特に、商品や部材の流れを可視化し、在庫の正確な所在管理、引き当てを実現するなど、協力会社との連携を支援する機能が充実しています。こうしたシステムを有効に使い、協力会社とともに一連のサプライチェーンを上手に運用することが、機会を逃すことのない、効率的な販売活動につながることはいうまでもありません。

 マーケティングというと、販売活動に直接かかわる商品(Product)や販売促進(Promotion)ばかりに注目しがちですが、継続的に販売実績を向上させるためには、4Pをバランスよく見渡し、販売を支えるバックオフィス体制をきちんと固めておくことがとても重要なのです。次回は4Pの最後、販売促進(Promotion)についてお話しします。

筆者プロフィール

斉藤 孝太(さいとう こうた)

株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)代表取締役。

大学卒業後、広告代理店に企画営業として勤務し、主に大手マンションデベロッパーの販売促進を担当。その後、企画・マーケティング会社にてマーケティングプランナーとして勤務。大手メーカーなどのマーケティング計画策定から販売マニュアル作成などを手掛ける。

その後、マーケティング・コンサルティングファームに入社し、多数の顧客案件を成功に導く。現在、店舗系ビジネスにおける顧客との関係性強化や、CRMを販売現場に導入するコンサルティングを実施している。


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