ファストの検索技術をSharePointに、マイクロソフト今後もコマース系などハイエンド市場は継続

» 2008年11月12日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 「ファストの持つ分類技術とパーソナライゼーションを使った検索技術がエンタープライズサーチの精度を上げていく」(マイクロソフト 執行役常務 ビジネス&マーケティング担当 佐分利ユージン氏)。マイクロソフトは2008年4月に買収を完了したファスト サーチ&トランスファ買収を受け、今後は大規模コマースサイトなどでの利用に加えて、「Microsoft Office SharePoint Server」と組み合わせたソリューションとして企業向けに販売していく計画を明らかにした。

すでに大手コマース系ではデ・ファクト的存在

マイクロソフト 執行役常務 ビジネス&マーケティング担当 佐分利ユージン氏

 2008年11月12日に都内で説明会を開いた同社は、今後の日本での販売体制についても言及。米マイクロソフトはファストを100%子会社化しているが、日本国内の2社は別法人として活動を継続。コンサルティングやサポートは両社共同で行う。伊藤忠テクノソリューションズ、NTTデータ、NECソフト、ベリングポイントなど9社のパートナー企業との連携も継続する。

 ファストは1997年創業のノルウェーのベンチャー企業。検索対象となる文書をクラスタ化し、動的な検索を可能にする企業向けソリューションで業績を伸ばしていた。文書やデータはあらかじめ構造化する必要がなく、データベースよりも柔軟な運用ができるのが特徴だ。

 例えば、国内の採用事例として楽天市場がある。楽天市場は2600万点の商品アイテムを抱え、日々商品や商品ジャンルは変動している。これをディレクトリ構造に見せているのは、静的なページやデータベースのクエリではなく、ユーザーのアクションによる動的な検索だ。デジカメを探すときに「赤い色」という分類をクリックすると、該当する商品アイテム数が変化し、さらに「3万円以下の価格帯」を指定すると59点に絞られる。「ここまで絞り込むのに1度も検索キーワードを入れていないことに注目してほしい。何を探したいのかハッキリと分かっていないとアンド検索は難しい」(ファスト担当者)。同様に賃貸情報サイトのフォレントでは、標準的な分類のほかにファストの検索エンジンを使った「こだわり検索」という絞り込みのユーザーインターフェイスを備える。「部屋探しの条件として間取りや築年数などは思い付くかもしれないが、提示されるまで気付かないキーワードもある」(同)。フォレントで“追い炊き風呂”や“宅配ロッカー”などの条件をクリックすると、画面遷移なしに条件にマッチするアイテム数が瞬時に表示される。

楽天市場でのファストの検索エンジン利用例。カテゴリー、サブカテゴリに含まれるアイテム数は常時変わっている。データベースではなく検索技術を使っている
楽天市場で絞り込み検索を行った結果の例。「赤いカメラ」「3万円以下」という条件で、59件に絞り込めた
賃貸情報サイトの「フォレント」での採用例。こだわり検索では、細かな絞り込みが可能で、ファストの技術が活かされているという。チェックボックスをクリックすると、瞬時にヒットするアイテム数の表示が変わる

 ファストの検索エンジンは楽天市場のほか、カカクコムやヨドバシカメラといった大手コマースサイト、日産自動車、ミサワホーム、リクルートなどで採用され、「メジャーなコマースサイトでデ・ファクトになりつつある」(同)という。

 コマースサイト以外の事例として、メディア企業もあるという。英フィナンシャル・タイムズは有料コンテンツサービスにおいてファストの検索エンジンを採用。例えば企業名で検索し、その後に「リスク」というジャンルを指定することでリスク要因となりうる記事だけを候補として絞り込む検索サービスを提供しているという。

 こうした高度な検索では単純な形態素解析による対象文書のクラスタリングだけなく、シソーラス辞書や自然言語分析の技術も必要となる。「ファストはAPIを公開しており、フロントエンドとしてほかのソリューションと組み合わせられる」(ファスト サーチ&トランスファ 代表取締役社長 徳末哲一氏)。日本ではNTTデータの持つ日本語処理エンジン“なずき”との連携にも取り組んでおり、ポジティブ・ネガティブなど感性理解を取り入れた情報分類も可能になるという。

探すだけでなく、情報をSharePointで活かす

 マイクロソフトは今後、SharePointの検索エンジンのオプションとして、ファストの検索技術を活かしていく。「単に情報を探すだけでなく、SharePointによって活かす力として組み合わせる」(佐分利氏)。

 同社は説明会で行ったデモンストレーションで、新規に企画書を作成するフローを例に、ファストとSharePointの組み合わせの意味を強調した。誰かのPowerPointの資料で見た図を再利用するようなケースでは、作成者が誰だったか思い出せないケースがある。こうした場合、キーワードのほかに「文書形式」「製品名」「部署」「最終更新年」などを組み合わせて絞り込んでいける。

 絞り込みのインターフェイスは“Webパーツ”として実装し、Silverlightで作り込むことで高度な検索が実現できるという。例えば検索結果の文書全体をダウンロードせず、ワンクリックで必要なページだけをインポートするようなことも可能だ。

 マイクロソフトでは異なる業務アプリケーションを統合し、複数システム、複数アプリケーションを1つにすることで大幅な維持・運用コストの削減が可能になるとしている。

 マイクロソフトによれば、日本国内でSharePointの導入企業数は1万7000社。

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