SAPジャパンは11月27日開催した説明会で、現在4製品を提供している「Enterprise Perfomance Management」(EPM)を1つのスイート製品に再構成し、2010年に提供開始する計画を明らかにした。同社のEPMはSAPと買収したビジネスオブジェクツのソリューションで構成する。共通のユーザーインターフェイスを用意し、4製品を統合的に使えるようにする計画だ。
EPMは現在7.0を提供。「戦略管理」「予算管理」「連結管理」「収益性管理」の4製品で構成する。2009年にはまずSAP NetWeaverと連携できるバージョン7.5を発表。続いて2010年にバージョン8.0として共通ユーザーインターフェイスを備え、メタデータやマスタデータ、プロセスの連携が4製品間でできるスイート製品を提供開始する考えだ。SAPジャパンのバイスプレジデント GRC/EPM事業開発本部 本部長の桐井健之氏は「数社の大企業から制度・管理一致基盤として受注した」と話した。
EPMで重要になる考えが、財務会計と管理会計の一致だ。桐井氏が言う「制度・管理一致基盤」も同じ意味。企業会計原則や金融商品取引法に基づき外部に対して企業の財務情報を公表する財務会計と、企業内部の業績管理や意思決定を行うための管理会計は、これまでのITシステムでは別々の製品が担っていた。しかし、EPMでは財務会計と管理会計の一体的な管理を目指す。
このEPMの観点では、国際会計基準(IFRS)など会計基準の位置付けは相対的に低くなる。IFRSは国内でコンバージェンスか、アドプションかで先行きが極めて不透明(参考記事:国際会計基準、いま日本で何が起きているか)。アドプションが決まると企業の会計システムや業務プロセスの改変は避けられず、日本版SOX法以上の混乱が予想される。しかし、IFRSは単に財務会計の話であるともいえる。桐井氏は「米国がIFRSのアダプションを決めたことから分かるように、企業が成長していく上で、各国が(時刻の会計基準に)見栄を張る時代ではない」と指摘する。
実際、日本の大手企業のうち30社程度は米国の株式市場に上場していて日本の会計基準のほかに米国会計基準で決算報告を行っている。すでに一部の企業ではダブルスタンダードでの会計処理が浸透しているのだ。
また、SAPジャパンの顧客である日産自動車はルノーが出資したことにより、IFRSでの処理と日本会計基準の処理の両方を行っている。日産本社と主要なグループ企業はSAPのシステムを使い、IFRSと日本会計基準の2つで記帳しているという。国内販売会社はシェアードサービスを使ってIFRSで一括処理。中小規模のグループ企業は既存システムの改修などでIFRSに対応しているという。
グループの連結会計はSAPのシステムで実現。ITシステムによるプロセスの自動化によって、ダブルスタンダードながら連結決算は10日、決算報告書の作成は12日で完了し、決算日の翌月末までには決算発表ができる体制を整えている。つまり、グループ企業内で日本基準、IFRS、米国基準が混在していてもITシステムを使えば迅速な連結会計が可能という訳だ。
桐井氏は「IFRS対応自体は企業の差別化ポイントではない」と話し、「(会計基準についての)日本の当局の動向に関わりなく、企業はグループとしてグローバルで成長するために、標準化されたプロセスの上で正しい数字を早く出せないと株主に説明できないし、経営の舵取りで負ける」とEPM利用による財務・管理会計の一体化のメリットを強調した。
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