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» 2009年01月06日 00時00分 公開

情報マネジメント用語辞典:ゲーム理論(げーむりろん)

game theory / ゲームの理論

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 一定の制約やルールに基づいて、複数の行動主体(プレーヤー)が相互に影響し合う状況をゲームと見なし、プレーヤー間の利害の対立と協力の関係を解明しようという応用数学の一分野のこと。

 “必ずしも利害の一致しない関係者が複数存在する”という人間社会で一般的に見られる状況を“ゲーム”と考えて、ゲーム参加者相互の駆け引きを加味してそれら参加者の意思決定メカニズムを数学的に明らかにしようというのが、ゲーム理論である。他者の出方が自身にどのような影響を及ぼすか、逆に自身の行動が他者に行動や効用にどのような変化を与えるかを考慮しつつ、自身の利益を最大化あるいは損失を最小化する選択肢(最適戦略)は何かを分析する。

 初期においてはまず軍事分野で戦術的作戦行動の分析・計画に応用され、やがて国際政治や軍事戦略への利用がされた。その後、経済学を始めとする社会科学、工学、生物学などの広い分野で活用されている。

 ゲーム理論でいう“ゲーム”とは、一定の制度的・社会的・物理的制約の下で相互に影響を及ぼし合う複数のプレーヤーが取り得る戦略を数学モデルとして表わしたものである。“プレーヤー”とはそのゲームで意思決定する最小単位のことで、人間個人や組織、チーム、国家のほか、動植物や遺伝子、コンピュータプログラム、オートマトンなどがそれに当たる。また、“戦略”とはプレーヤーが各局面で選択できる行為や打ち手の集合をいう。

 ゲーム理論の基本要素は、「プレーヤー」「戦略」「利得」の3つである。ゲームはプレーヤーの数によって「2人ゲーム/n人ゲーム(多人数ゲーム)」に分類したり、プレーヤーの戦略で相互に拘束力のある協力関係を認めるか否かで「協力ゲーム/非協力ゲーム」に分類したりする。また、ゲームの利得の総和が一定かそうでないかで「定和ゲーム非定和ゲーム」にも分類できる。特に正負利得の総和がゼロになる定和ゲームをゼロサムゲームと呼ぶ。

 このほか、プレーヤーの情報の持ち方によって「情報対称ゲーム/情報非対称ゲーム」「情報完備ゲーム/情報不完備ゲーム」「情報完全ゲーム/情報不完全ゲーム」に分けたり、戦略行動の順序によって「同時進行ゲーム/交互進行ゲーム」、期間によって「1回ゲーム/有限繰り返しゲーム/無制限繰り返しゲーム」などに分ける分類もある。

 ゲーム理論の発端はハンガリー出身の数学者・数理物理学者であるジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)が、1928年に発表した論文「Zur Theorie der Gesellschaftsspiele」(室内ゲームの論理)である。これに先立って、フランスの数学者・政治家のエミール・ボレル(Felix-Edouard-Justin Emile Borel)がゲームに関するいくつかの論文を発表しているが、ある特別な場合にのみ最適戦略があることを示すものだった。これに対してフォン・ノイマンは、混合戦略の概念を導入することで、すべてのゼロサム2人ゲームは均衡点を持つ――すなわち、2人のプレーヤーに最適戦略が必ずあることを証明した。これはミニマックス定理と呼ばれる。

 しかし、この段階でフォン・ノイマンの仕事に注目したのは、一部の経済学者/社会学者、そして軍事関係者だけだった。第2次世界大戦の初期、米英軍のORグループの数学者たちでは、フォン・ノイマンの理論を対潜水艦作戦などに活用していたという。

 その一部の経済学者の1人にオーストリア出身のオスカー・モルゲンシュテルン(Oskar Morgenstern)がいた。1938年、米国プリンストン大学の招へいを受けたモルゲンシュテルンは、近くにあるプリンストン高等研究所にいたフォン・ノイマンにその理論を経済学に適用することを働き掛け、共著『The Theory of Games and Economic Behavior』(1944年)が出版されることになった(実際には大部分がフォン・ノイマンの仕事だという)。この大著によって、ゲーム理論は一躍世に知られることになる。

 フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの著作では「純粋競争(ゼロサム)非協力ゲーム」や「協力n人ゲーム」は論じられていたが、現実の経済活動などで大部分を占める「非協力n人ゲーム」が抜け落ちていた。これを取り上げ、ゲーム理論の一般化を行ったのが米国の数学者であるジョン・F・ナッシュ(John Forbes Nash, Jr.)だった。ナッシュはプリンストン大学の大学院生時代、小論「Equilibrium Points in N-Person Games」(n人ゲームにおける均衡点=1950年)、学位論文「Non-Cooperative Games」(非協力ゲーム=1950年)などを書き上げ、非協力n人ゲームにも均衡が存在することを証明した。この均衡概念は今日、ナッシュ均衡と呼ばれる。

 フォン・ノイマンのミニマックス定理とナッシュの均衡定理によって基礎付けられたゲーム理論は、まず1950年代に冷戦下の米国で対ソ外交や安全保障の問題を分析するツールとして注目が集まった。その後もナッシュ均衡の精緻化が行われるとともに、さまざまな社会現象、あるいは生存競争などの生物界の現象を説明するモデルが次々と生み出された。そうした研究を経て1990年代以降、経済学では経済主体の行動を数理的に分析する基本ツールとして盛んに利用されるようになり、経営学・社会学・政治学・法学・心理学・生物学・生態学などの多くの分野でも広く用いられている。

参考文献

▼『ゲームの理論と経済行動』 フォン・ノイマン、オスカー・モルゲンシュタイン=著/銀林浩、橋本和美、宮本敏雄=監訳/東京図書/1972〜1973年(『The Theory of Games and Economic Behavior』の邦訳)

▼『ゲームの理論入門――チェスから核戦略まで』 モートン・D・デービス=著/桐谷維、森克美=訳/講談社・ブルーバックス/1973年1月(『Game Theory: A Nontechnical Introduction』の邦訳)

▼『進化とゲーム理論――闘争の論理』 ジョン・メイナ−ド・スミス=著/寺本英、梯正之=訳/産業図書/1985年7月(『Evolution and the Theory of Games』の邦訳)

▼『囚人のジレンマ――フォン・ノイマンとゲームの理論』 ウィリアム・パウンドストーン=著/松浦俊輔=訳/青土社/1995年3月(『Prisoner's Dilemma』の邦訳)

▼『ゲーム理論』 岡田章=著/有斐閣/1997年1月

▼『フォン・ノイマンの生涯』 ノーマン・マクレイ=著/渡辺正、芦田みどり=訳/朝日新聞社/1998年9月(『John von Neumann』の邦訳)

▼『確率の科学史――「パスカルの賭け」から気象予報まで』 マイケル・カプラン、エレン・カプラン=著/対馬妙=訳/朝日新聞社/2007年3月(『Chances Are ...: Adventures in Probability』の邦訳)

▼『もっとも美しい数学――ゲーム理論』 トム・ジーグフリード=著/冨永星=訳/文藝春秋/2008年2月(『A Beautiful Math: John Nash, Game Theory, and the Modern Quest for a Code of Nature』の邦訳)

▼『紛争の戦略――ゲーム理論のエッセンス』 トーマス・シェリング=著/河野勝=訳/勁草書房/2008年3月(『Strategy of Conflict』の邦訳)

▼『ナッシュは何を見たか――純粋数学とゲーム理論』 ハロルド・W・クーン、シルビア・ナサー=編/落合卓四郎、松島斉=訳/シュプリンガー・フェアクラーク東京/2005年10月(『The Essential John Nash』の邦訳)


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