見積もり仮想体験の旅へ、いざ出発!プロジェクトの闇、見積もりに光を!(3)(1/3 ページ)

前回取り上げた事例を基に、実際に見積もりの計算をしてみる。その計算方法とともに、見積もり手法ごとの特徴や弱点などにもついて説明する。

» 2009年01月15日 12時00分 公開

FPポイント表とFP実測表

 それでは、前回取り上げたシステムを、ファンクションポイント(FP)(注1)法に当てはめてFPを数えてみましょう。

<strong>表1 FPポイント表。このポイントを基にして、次の表2の実測表に当てはめる。複雑さの程度によって(低い、中ぐらい、難しい)ポイントに差をつける ※注「そのほか」とは、筆者が実務上必要と感じているために追加したもの</strong> 表1 FPポイント表。このポイントを基にして、次の表2の実測表に当てはめる。複雑さの程度によって(低い、中ぐらい、難しい)ポイントに差をつける ※注「そのほか」とは、筆者が実務上必要と感じているために追加したもの

 全体のFPの数は、FP実測表に記入していくと295FPになります。

ALT 表2 FP実測表。FPの合計は295。なお、複雑さについての数値は、FPポイント表のポイントに従った

 このFPを出した時点で、工数や工期の算出もできます。

 しかし、前回の「見積もり仮想体験、準備から始めるべし」で述べたように、FP法は機能の広さ以外の部分をカバーしていません。品質の重さやタスクの深さという視点が抜けていますので、必然的にケースによっては軽い見積もり(つまり過小な金額の見積もり)になってしまうことになります。

ISBSG法やCOCOMO II法でFP法の欠点を補う

 そのため、ISBSG法やCOCOMO II法の指標を利用することで、ある程度FP法の欠点をカバーできるのです。

 ISBSGというのは、「The International Software Benchmarking Standards Group」の略で、FPの国際的なユーザー会のInternational Function Point Users Groupに近いNPO団体の名前です。この団体はその名のとおり「国際的なベンチマーク」を提供するため、「データの収集と蓄積」を行っているのです。

 この組織のおかげで、自社の係数が国際的な企業と比較してどの程度のポジションにあるかなどを知ることができます。ただし残念ながら、正式なサービスを受けるには有料のサービスが必要となります。

 ISBSGは、これらの蓄積の結果から導き出された係数や公式を公開しています。今回は、公開されているこれらの係数や公式の一部を実際に使用していきます。

 ISBSG法の興味深いところは、開発チームの規模の不利益を実際の計測値に盛り込んでいる点です。つまり「開発人数が少なければ時間はかかるが安く済み、人数が多くなればある程度開発期間は短くなるが、コストはかさむ」という実務によくある要素が盛り込まれていることです。

 解発チームの規模が大きくなれば、コミュニケーションロスなどが生じ、より多くの管理工数が発生します。多くの人に仕様や設計を伝達させるための文書も作成しなければなりません。品質の保持のためのレビューも必要になります。

 FP自体の算出までは、ISBSG法でも通常のFP法と変わりません。例えば、表の中の機能ごとに各FP項目をカウントして算出するところ(今回でいえば295.5FP)までは、従来のFP法と変わりません。

実際にISBSG法で計算する

 ここで、ISBSGが提供している公式の1つを挙げておきます。

MM(人月)=補正係数×FP数FP係数×最大チーム人数チーム係数

 なお、補正係数、FP係数、チーム係数は、開発する対象(ソフトウェアかハードウェアか、どの言語をしようするかなど)によって異なります。

 今回は、ISBSGの公式を利用します。今回利用する補正係数は0.157(これはデスクトップPCでの開発時の全米標準)、チーム係数もデスクトップPCの全米標準の0.810、FP係数も同じくデスクトップPCの全米標準である0.591を採用しています。そしてチーム規模は3.5、つまり3.5人とします。

 筆者の経験からいうと、標準的な係数を使用すればほぼ標準的な数値が出ますので、見積もりの参考値としては十分だと思います。

 では実際に、ISBSG法を利用して計算をしてみましょう。

 これらの数値を先ほどの式に代入します。

 MM=0.157×295.50.591×3.50.810

 これを解くと、次の結果が得られます。

 MM=11.016

 この数値を、さらに第1回の「見積もり、まずはざっくり理解せよ」で説明した次の工期の式に代入します。

 すると、月=5.59という値が求められます。つまり工期は約5.5カ月ということになります。

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 今回は計算しやすいように、1人月を100万円で計算してみます。すると11.016×100万円ですから、約1100万円で5.5カ月の見積もりになります。

 皆さんはよくこうした見積もりを提示すると、顧客からこんな質問をよく受けませんか? 「ちなみに、人数を減らして工期を延ばしたらどうなりますか?」

 その答えを容易に導けるのもISBSG法の特長です。チームの最大人数を2人にしますと、7.9323人月となり、工期は約8カ月になります。

 このような出し方により、開発チームという要素を見積もりに盛り込むことができるわけです。

 顧客の要望やスケジュールを聞きながら、納期とコストを調整する場面は実務においてよくあります。そういった交渉の際には、自動見積もりシートを作っておくことで、かなり楽に顧客をナビゲートできるのです。

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