今回の説明では、ETCを算出するのに「ETC=(BAC−EV)÷CPI」という現在までのコスト超過に基づく計算を行いました。ほかにも、広く受け入れられている計算式がありますので、簡単にご紹介します。
ETC=(BAC−EV)÷(CPI×SPI)
で計算を行います。
SPIはプロジェクトの進ちょく状況を表す項目でした。なぜ、これがコスト予測を行う数式に含まれるのでしょうか?
それは、実際のプロジェクト現場を思い浮かべてみると分かります。
もしも作業の進ちょく状況が芳しくなかったとしたら……。
プロジェクトマネージャは、遅れた作業を少しでも回復するために、当初予定より多くの作業要員を投入します。しかしながら、突然配置された作業要員は、しばらくの間は従来のメンバーほどの作業効率を達成できないかもしれませんし、また、計画にない作業要員の追加を行ったことでプロジェクト再計画が発生し、現場が混乱するリスクも発生します。このように、作業の進ちょく状況は間接的ながら将来の予算コストに影響を与えるはず、というのがこの数式の背景です。
この数式で計算してみると、
ETC=(BAC−EV)÷(CPI×SPI)=(3000万円−2100万円)÷(1.05×0.875)=980万円となります。
SPI=0.875(つまり、作業進ちょくが遅れ気味である)が与える影響がリスクとして計上され、残作業を完了するのに必要な予算コストが多めに算出されています。そういった点では、こちらの方が慎重な予測であるといえるかもしれません。
「このプロジェクトは予定通りに完了するだろうか?」、「この調子で進めると、どれぐらい期間超過するだろうか?」という点は、プロジェクトマネージャだけでなく、すべてのステークホルダーにとって重要な関心事の1つでしょう。
前の電子文書管理システムの場合を例に取り、期間を横軸、予算を縦軸にグラフを表してみます。
8カ月経過時点でのアーンドバリュー(EV)は2100万円でした(赤線)。そして、予定(青線)では2100万円分の作業は1カ月前の7カ月経過時点で完了していなければならないことが分かります。とすると、8カ月を経過した現時点で、プロジェクトの進ちょくは1カ月ほど遅れていることが分かり、これ以降が仮に計画通り順調に進んだとしても、現時点での遅れ分1カ月ほど完了が遅くなることが見て取れます。
このように、EVMを使用して、コスト予測だけでなくスケジュール予測を行うこともできます。
ここまでの説明の中で、ある時点での指標(計測値、算出値)を基に、将来の可能性をある程度予測し、その予測を基に必要な対応策を講じる手掛かりとできることをご理解いただけたのではないかと思います。
すべての計算のスタートとなるのが、PV、EV、ACといった入力値です。どんなに精度の高い計算をして、どんなに的確な策を講じたとしても、そもそもこれらの入力値の誤差が大きければ、十分には効果を発揮しないものとなってしまいます。そうなってしまわないために、EVMを採用したプロジェクトマネジメントを実施するには、次のルールが必要不可欠です。
プロジェクトのスコープを明確にすることは、精度の高いプロジェクト計画を作成するうえで必須のタスクです。また、EVMを使用してプロジェクトマネジメントを行うには、正確なスケジュール作成が必要で、特にEVMと組み合わせてWBSによるプロジェクト計画が利用されます。
WBSは、プロジェクトで発生予定の作業を階層構造を用いて進ちょくが把握可能な単位まで詳細化するものです。単に階層化されたスケジュール表であれば目にする機会も多いと思いますが、「進ちょくが把握可能な単位まで」ということを意識する場合には、WBSで細分化(詳細化)した作業タスク単位に次の項目が明確になっている必要があります。
経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)発行の「EVM活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン」にもWBSやEVMについて触れられており、WBSの詳細化についてもていねいに説明されています。EVMやWBSの学習の題材という意味も含め、ご覧になってみてはいかがでしょうか?
関連リンク
EVM活用型プロジェクト・マネジメント導入ガイドライン[PDF](独立行政法人情報処理推進機構=IPA)
参考文献
『アーンド・バリューによるプロジェクトマネジメント』 クウォンティン フレミング、ジョエル コッペルマン=著/PMI東京(日本)支部=訳/日本能率協会マネジメントセンター
『徹底解説!プロジェクトマネジメント―国際標準を実践で活かす』 岡村正司=著/日経BP社
『改訂 PMBOKによるITプロジェクトマネジメント実践法―PMBOKガイド2000年版対応』 佐藤義男=著/ソフトリサーチセンター
高田 淳志(たかだ あつし)
株式会社オープントーン 取締役。これまでさまざまな立場(発注企業の情報システム部門、開発元請会社・下請会社)で、さまざまな役割(プログラミングから業務改善コンサルテーションまで)でシステム開発にかかわってきた。現在は、「関係者全員が満足できるマネジメント(手法や体制)ってどうあるべきだろう?」と考える毎日を過ごしてる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.