不況に乗じて“勝てる”コスト構造を構築せよERPリノベーションのススメ(6)(2/3 ページ)

» 2009年04月20日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

システムを必要最小限に絞り込め!

 さて、以上のように、IT予算を10億円から5億円に削減することを求められたF社ですが、詳細な費用内訳を洗い出してみて、1つ分かったことがありました。それは、「ユーザー側でコントロールできないコストが多い」ということです。例えば、ERPおよびERP関連ソフトウェアの保守費用の1億円は、ERPシステムを使い続ける限り減りません。それどころか、ERPベンダが保守料の値上げをすれば自動的にコスト増となってしまいます。

 ERPシステムが稼働しているサーバにも保守料が発生します。機能拡張やバージョンアップの際に見直しを掛けることはできますが、そのタイミングでなければコストを下げることができません。

 加えて、事例の中には書きませんでしたが、サーバの物理的な台数も大小合わせてすでに100台を超えていたほか、OS、DBMS、アプリケーションの種類やバージョンがシステムごとに異なっていることも維持管理コストの増大に跳ね返っていました。オープン化とネットワーク化、さらにサーバ価格の著しい値下りが加わって、この結果を招いたのです。特に基幹システムであるERPとERP関連システムにかかわるコストが、全コストの約半分を占めていました。

 問題点を明らかにしたとろで、F社は課題解決に向けて検討を始めます。引き続き事例に戻りましょう。

事例:F社のTCO半減計画〜戦略立案編〜

 検討する時間はたっぷりあった。情報システム部門のみならず、取引先のベンダやSIerも巻き込んでオープンソース、SaaS/ASP、BPOから仮想化まで、多様なテーマで議論を繰り返した。BPOの積極的利用も検討したが、部分的にAMO(Application Management Outsourcing:アプリケーションの保守、追加作業などを社外に発注すること)を行うことはあっても、情報システム部門の雇用維持を前提に考えると、この案は早々に却下された。

 こうした中、議論を決定したのは、定年間近の運用責任者の言葉であった。『システムの数を最小限にすれば費用も絞り込める。汎用機を使っていた時代を思い返せば、機能を追加してもシステムの数は変わらなかったし、安定稼働できれば保守運用コストの変動も少ない』――つまり「システムを徹底的に絞り込めばよい」という考え方である。

 そして、具体的には以下のような結論を下した。

■ERPおよびERP関連システムの最大活用

 現在利用しているERPシステムは基幹システムとして外せない。従って、これを最大限活用して、ほかのシステムとの連携で実現していた機能をERPに取り込むこととする。取り込めない場合はSaaSなどを使ってERPと連携させるが、ERPを除いて、自社で持つシステム数を1年以内に可能な限り10台以下へ削減、5年後にはゼロにすることを目指す。ただしネットワーク障害のリスクを考慮して、国内外の主要拠点には、オフラインでも代替可能な仮想化対応サーバを設置する。

■仮想化技術を利用したサーバ台数の絞り込み

 物理的なサーバ台数を減らす手段として、サーバの買い替えと仮想化を組み合わせて、システム基盤(プラットホーム)の抜本的な見直しを行う。これにより、過去に引きずられた保守費用や保守契約をリセットする(このタイミングでのサーバ買い替えは、値引き交渉も含めてベンダから有利な条件を引き出すことが可能と判断。一時的には投資拡大となるが、中長期的にはメリットが大きいと考えた)。

■ネットワークストレージを導入し、データの集中管理を実現

 システムの棚卸しによって判明した事実として、システム数の多さ──すなわち「システムの数だけデータが分散している」リスクが浮き彫りとなった。また、バックアップ手順やデータ保管ルールもシステムによってばらばらであった。これでは重要なデータの分散・消失のリスクを伴う。

 これを解決するには、システムごとに二重化する方法もあったが、コスト面の課題から、ネットワークストレージを全面採用し、データの集中管理を行うこととした。つまり、システムごとに二重化するのではなく、まずデータを可能な限り集約してネットワークストレージに集めて、これを二重化することで効率化するという発想である。ただ、そうできるものとできないものがあるため、その見極めには細心の注意を払うこととした。

■ソフトウェア、ハードウェアの保守契約の絞り込み

 ERPおよびERP関連のソフトウェア保守契約については、現状維持を原則とした。しかし契約見直しによって保守費用を減らせる場合には、これを積極的に進めることとした。ERP関連以外のソフトウェアの保守契約についても同様に検討し、継続が必須となる場合には「代替手段と比較検討してから判断する」とした。

 ハードウェアについては、全システムについて「サーバ買い替え」「仮想化」「再構築」いずれかを行う可能性を考えるとともに、その保守契約も抜本的に見直すこととした。必要に応じて、システム移行作業が 生じるが、その作業は極力内部で行い(スキル獲得のためのベンダ利用は認めるが、作業の主体は必ず内部要員で行う)移行費用の低減を図ることとした。

■データとサービス品質は継承し、過去の契約や前提は捨てる

 “100年に1度の不況”を乗り切るためには、従来の考え方や前提を捨て、ゼロベースで考える必要がある。また、最良の仕組みを見いだすためには、自らの手でシステムを検証・構築できる知識と経験を培う必要もある。情報システム部門として、過去から継承しているデータやサービス品質は維持しつつも、「新しい技術や仕組みに積極的に取り組む好機だ」というマインドを共有するようにした。

──F社はいま、これらの方針を基に、徹底的なコスト削減に乗り出している。


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