仮想化で、コア業務に集中できる環境を作ろう仮想化時代のビジネスインフラ(4)(2/2 ページ)

» 2009年04月23日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
前のページへ 1|2       

「守り」ではなく「攻め」のための仮想化技術

 では、事例を紹介しましょう。関西の某大手製造業、A社のケースです。

 サーバの価格下落とITシステムに対するニーズの高まりによって、ほかの多くの企業と同様、A社も年々増え続けるサーバの管理に頭を悩ませていました。情報システム部員の多くは、その運用管理に時間と労力を奪われ、ミッションクリティカルなシステムにトラブルが発生するたびに、たとえ夜中でもスタッフがたたき起こされるような状態が続いていました。「このままでは、いつか運用に致命的な支障を来すのではないか」と危惧(きぐ)していたのです。

 そこで大幅な組織変更を行うことにしました。従来は複数ある業務アプリケーションごとにチームを編成し、各チームが個別に業務アプリケーションの開発から、OSやミドルウェア、サーバの運用管理までを行っていたのですが、この体制を抜本的に見直し、インフラの運用管理を一元的に担うインフラ専任チームを作ることにしたのです。

 その目的は、運用管理の効率向上と、アプリケーションの開発という情報システム部のコア業務への集中です。従って、インフラ選任チームは可能な限り少数精鋭体制とすることを目指しました。

 こうした計画を検討し、実行する鍵となったのが仮想化技術でした。当初、物理的なサーバ台数は約3000台ありましたが、単に仮想サーバに置き換えるだけでは、大幅な台数削減は難しいうえ、その後の管理も効率的には行えません。そこで、サーバだけではなく、ストレージ、ネットワークも含めてシステムインフラ全体を仮想化し、それらを論理的に定義し直すことで、無駄のない体制へ段階的に移行することにしたのです。

 その第一段階として、約3000台あった物理サーバのうち、約660台を200台にまで集約しました。また、それらを統合的に管理できるダッシュボードを使うことで、以前なら600台以上のサーバを管理するには10人ほどが必要でしたが、2人で一元的に管理できる体制を築いたのです。

 その結果、ユーザー部門はOSのバージョンアップやパッチ当てなどに取られる時間が減ったほか、一部のアプリケーションチームは運用管理作業から完全に解放されました。加えて、必要なサーバリソースが生じても、30分ほどで提供してもらえる体制が整ったことで、開発業務に集中できるようになったのです。

 すなわち、ユーザー部門、情報システム部ともに「コンピュータリソースを自由に使える」環境が整い、本来業務に集中できるようになったわけです。これはまさしく“社内でのユーティリティコンピューティングの実践”と言ってよいのではないでしょうか? A社では、より多くの人員をコア業務に集中させるために、現在もこの取り組みを継続しています。

 仮想化技術とLinuxを基幹系システムに採用した大手証券会社もあります。こちらも、競合他社に打ち勝つために、「いかに迅速にサービスを立ち上げられるか」「システムの修正・変更・追加を、いかに柔軟かつ迅速に行える体制を築くか」という観点で、システムを改善する検討を行いました。その結果、やはりサーバ、ストレージ、ネットワークというインフラ全体の仮想化に取り組むこととし、運用管理に手間の掛からない体制を実現しました。

 同社の場合、従来は商用UNIXを使っており、新しいシステムを構築するには平均約2〜3カ月かかっていました。しかし、仮想化技術とオープンシステムを使用することで、約1カ月まで短縮できたのです。競合他社がひしめく中で、新規ビジネスをサービスインするまでの1〜2カ月の差は、大きなアドバンテージになったと思います。

 仮想化技術というと「コスト削減」の観点から語られることが多いものです。しかし、ユーティリティコンピューティングに近い体制を実現する、コンピュータリソースを「使うことに集中する」体制を築く、という「攻め」の視点で活用する切り口も存在するのです。

自ら技術動向を分析し、自ら前を見よ

 さて、今回はコア業務への集中という視点から仮想化技術を紹介しましたが、実は2つの成功事例には、もう1つ大切なポイントがあります。それはユーティリティコンピューティング、仮想化技術という新しい要素に着目し、進んで取り入れていることです。

 少し話はそれますが、かつて一世を風靡(ふうび)したシステムに、「IBM System/360」というメインフレームがありました。このネーミングは、1964年のリリース当時、1つの機能しか遂行できない「専用機」が当たり前だった中で、「あらゆる業務アプリケーションを360度カバーする汎用機である」ことに由来したもので、このメインフレーム上で稼働するよう開発されたアプリケーションについても「将来にわたって上位互換性を保証する」という画期的な製品でした。

 しかしその後、技術が進展、変化するスピードは年々速まり、「将来にわたって上位互換性を保証する」といったようなことは難しくなってしまいました。現在はそれだけITの技術動向変化が激しい時代なのです。そうした中、企業にとってはIT活用の在り方が業績を左右する非常に重要なテーマとなっています。そうである以上、やはりITを使うユーザー自身が、進んで技術動向に目を向け、新しいものを拒まず、必要ならば取り入れていく姿勢が大切なのではないでしょうか。

 ところが、世間を見渡すと、新しい技術に対して保守的なユーザー企業は多いものです。例えば「基幹系システムにはLinuxなどのオープンシステムや仮想化技術は使えない」といった認識も一部に根強く残っています。しかし、今回の事例も新しい技術に目を向ける姿勢がなければ実現できませんでした。変化の激しい中にあって、新しい技術に消極的なことは、無駄なコストを強いられたり、実現できるはずの戦略が実現できなかったりと、何かと不利を被ることにつながってしまうのです。

 いずれはクラウドコンピューティングやユーティリティコンピューティングが実現し、ただ「使う」だけの時代が到来するかもしれません。しかしそれまでは、「どのように無駄を排除していくか」を考え、進んで解決に取り組む姿勢が勝ち残るための必須条件となるでしょう。その点、仮想化技術はそうした取り組みを強力に支援してくれます。

 最後に今回のまとめとして、つい数年前までレガシーシステムだけを使用し、仮想化技術も Linuxも使用していなかった某大手企業の役員の方のコメントを紹介しましょう。彼はここ数年で行った大幅な改革を振り返って、次のように語りました。

 「以前のように先行企業の後ろ姿を見ながら、枯れたシステムだけを使っていたときは進むべき将来がまったく見えなかったが、仮想化を中心とした最新技術を採用したら、それをきっかけに2〜3年先に必要なことがよく見えるようになった。自ら先頭を切ってチャレンジすることの意味は大きい」

 市場動向、技術動向の変化は年々激化しています。ビジネスをけん引する経営層や管理層は、いま、このように感じ、実行していくことが、大切なのではないでしょうか?

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ