ミッションクリティカルに仮想化は使えるか?仮想化時代のビジネスインフラ(7)(1/2 ページ)

仮想化技術はミッションクリティカルシステムには使えない――そんな意見をよく耳にするが、本当にそうなのだろうか? 周りの意見や評判をうのみにせず、自ら調べ、考えれば、仮想化技術を生かす領域はまだまだ広がる。

» 2009年11月10日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]

仮想化技術は重要なシステムには向いていない?

 コスト削減という目的をきっかけに、多くの企業がサーバ仮想化に取り組んだことで、仮想化技術は“使って当たり前”のものになりつつあります。これに伴い、ユーザーの関心事も「仮想化技術とは何か?」から、「仮想化技術はどこまで使えるのか?」といったレベルに移行しつつあるようです。

 そんな中、よく耳にするのが「比較的重要度の低いシステムなら問題ないが、取引先が絡むようなミッションクリティカルシステムには、仮想化技術は使えない」といった意見です。ミッションクリティカルシステムに求められるのは「ビジネスを止めない」ことです。この点で、仮想環境でシステムを稼働させるのは、万一の際の信頼性に不安が残る、ということなのでしょう。

 しかし、ちょっと待ってください。仮想化技術に関するさまざまな情報を調べて、自社のシステム要件とも考え合わせたうえで、「使えない」と判断するならそれは正しい結論ですが、実際はベンダの意見や周りの評判をうのみにして、頭ごなしに「使えない」と判断しているケースが多いのではないでしょうか。

 例えば、ベンダやSIerに「仮想化技術をミッションクリティカルシステムに使えるか」と聞くと、「使えない」と即答されるケースが多いようです。これはサーバ仮想化の需要が伸びたため、「仮想化」と聞くと、即「サーバ仮想化」と解釈してしまう傾向が強いためです。その前提で「ミッションクリティカルシステムに適用できるか?」と問われれば、確かにできません。サーバを仮想化するだけでは、仮想サーバを稼働させている物理サーバがダウンすればシステムは止まってしまうからです。

 では、本当にミッションクリティカルシステムに仮想化技術は適用できないのでしょうか? そんなことはありません。仮想化技術をサーバ以外にも適用して、システムインフラ全体を物理的な制約から切り離してしまえば、ミッションクリティカルシステムにも十分に適用できるのです。

 簡単に説明するとこういうことです。“ビジネスを止めない”ミッションクリティカルシステムを構築するためには、基本的にシステムを二重化する必要があります。具体的には、アプリケーション、それを支えるOS、サーバという組み合わせをもう1セット用意します。そうすれば、一方の物理サーバがダウンしても、予備のシステムに切り替えることで、システムを止めない、あるいは止まっている時間を短くすることができる、というわけです。

ALT ミッションクリティカルシステムを構築するには、システムが止まらないよう予備のシステムを用意する必要がある。その際、本番用、予備用ともに物理サーバが必要となるが、仮想化技術によってインフラ全体を物理的制約から切り離してしまえば、各アプリケーションに柔軟にサーバリソースを割り当てられるため、アプリケーションごとにサーバを用意する必要がないほか、どれか1台がダウンしてもシステムは止まらない

 ただ、社内で使っているシステムは複数存在します。このそれぞれに本番用、予備用のシステムを用意すると、それだけ物理サーバの数が増えることになります。これではコスト面、運用面とも効率的とはいえません。ここがミッションクリティカルシステムに仮想化技術を適用するポイントなのです。

 右の図のように、仮想化技術によってシステムインフラ全体を物理的な制約から切り離してしまえば、複数のシステムにサーバリソースを柔軟に割り当てられるようになります。

 つまり、全アプリケーションを稼働させるのに必要な物理サーバ台数を確保しておけば、各アプリケーションに1台ずつ物理サーバを用意する必要がないほか、仮に物理サーバが1台ダウンしても、別の物理サーバから迅速・柔軟にリソースを割り当てることができるのです。

 すなわち、「システムもビジネスも止まらない」ミッションクリティカルシステムを構築できるというわけです。なおかつ、物理サーバの台数を抑えられるため、通常の方法より安いコストで済むというメリットもあります。

評判をうのみにせず、自ら考えよう

 もちろん、実際にミッションクリティカルシステムに使うか否かを判断するうえでは、「仮想環境の信頼性」という問題も絡んできます。しかし、まずはこうしたことを知り、システムが受け持つ業務内容と、それに求められている信頼性を考え合わせたうえでなければ「使えない」と判断することはできないはずです。にもかかわらず、実際は上記のようなことを知らないまま、「使えない」と即断している例が非常に多いように思うのです。

 これには、商売優先ゆえか、仮想化に関する相談を受けても、親身になってアドバイスしないベンダやSIerにも責任の一端がありますが、きちんとニーズを伝えられないユーザー企業側にも問題があります。「できない」といわれてもうのみにするのではなく、その理由を聞く、あるいは、ほかの方法を探る姿勢が大切です。そうしないと効率化のチャンスをみすみす見逃してしまうことになります。

 仮想化を巡る評判を聞いていると、1980年代に「UNIXを企業のミッションクリティカルシステムに使用するのは言語道断」などといわれていたことを思い出します。現在、UNIXは当たり前に使われていますし、Linuxでも十分にミッションクリティカルなシステムを実現できます。これは技術の進展も大きな要因ですが、先進的なユーザー企業が「使えない」といった評判や先入観に惑わされず、自ら考え、チャレンジし続けてきた結果です。

 仮想化技術も同じではないでしょうか。ミッションクリティカルシステムに仮想化技術を生かす――その実現に必要なのは、新しい技術を効率化に生かそうというチャレンジ精神と、そのための柔軟な考え方なのです。

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