ミッションクリティカルに仮想化は使えるか?仮想化時代のビジネスインフラ(7)(2/2 ページ)

» 2009年11月10日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
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仮想環境へのシステム移行で、運用コストを大幅に削減

 では、ミッションクリティカルシステムに仮想化技術を適用した事例を紹介しましょう。1つ目は国内最大規模のある銀行のケースです。その銀行では2003年、システムの維持・運用コストの削減を狙い、商用UNIXからLinuxへのマイグレーションを実施しました。さらに、サーバ、ストレージ、ネットワークを含めたインフラ全体の仮想化を行い、ここに商用UNIXで稼働させてきた一部のアプリケーションを移行したのです。

 情報システム担当者は、「巨大な規模にふくらんでいた商用UNIXの維持管理コストを減らすためこの施策に踏み切った。当時のLinuxは品質が悪く苦労はしたが、このマイグレーションによって、システム全体の運用コストが従来の半分になった」とコメントしています。現在、この銀行では、勘定系のシステムについては引き続きメインフレームを使用していますが、それ以外のミッションクリティカルなシステムと、グループ会社の全基幹システムについては、Linuxを使った仮想環境への移行を完了しています。

 また、アジア諸国の拠点において、メインフレームで稼働させていた勘定系のシステムの一部をLinuxを使った仮想環境にマイグレーションしたイギリスの銀行の事例もあります。銀行も顧客ニーズに答えるサービスを迅速に用意していく必要があります。その点、仮想環境なら新たにシステムを立ち上げる際、いちいち物理サーバを手配、設定する必要がなく、スピーディにリソースを割り当てられます。この銀行はそうしたメリットも生かして、新規システム立ち上げまでの期間を従来の3分の1に、アジア地域全体におけるシステム運用コストも従来の3割以下に抑えることに成功したのです。

 このほか、上記と同様の環境を構築し、メインフレームで稼働させていたアプリケーションの一部を移行させることで、大幅なコスト削減を果たした製造業の事例もあります。

 メインフレームや商用UNIXの信頼性は非常に高い半面、高額な運用コストが掛かります。これをLinuxとIAサーバの環境に変えると、「運用コストがひとけた下がる」といわれています。さらに、仮想化技術によってインフラ全体を物理的制約から切り離すと、アプリケーションごとに物理サーバを用意したり、運用管理者を配置したりする必要もなくなるため、人件費を含めた運用コストの削減が図れます。また、新規システムを立ち上げる際、物理サーバを用意せずに済むため、ビジネス展開のスピードアップにも貢献するのです。

 なお、今回はそのメリットを理解してもらうために、あえてシンプルに説明してきましたが、より正確にいうと、「仮想化技術によってインフラ全体を物理的制約から切り離す」ためには、1台の物理サーバがダウンしたときも瞬時に別のサーバに切り替えられるよう、サーバだけではなく、ストレージやネットワークも含めて仮想化する必要があります。しかし、それでも従来の方法でシステムを構築するより、運用面、コスト面ともに、大きなメリットを享受できるのです。

「自社のミッションクリティカルシステム」の要件を見直そう

 さて、以上3つの事例に共通するポイントがお分かりでしょうか? それは「ミッションクリティカルシステムだから、信頼性の高い環境が不可欠だ」と決め付けることなく、ほかの選択肢に目を向けたことです。

 確かに、IAサーバ+Linuxという組み合わせに、インフラの仮想化を適用した環境は、メインフレームや商用UNIX+RISCサーバを使った環境よりも、「絶対的な信頼性」では劣ります。しかし、このことは、「仮想化技術はミッションクリティカルシステムに使えない」ということを意味するものではありません。

 ここで考えるべきは、“自分の会社におけるミッションクリティカルシステムの要件”なのです。もちろん交通システムなど、社会インフラを支えるアプリケーションのシステムインフラは絶対に止まってはならないものです。しかし、企業が使っているアプリケーションのすべてが、それと同等の信頼性を求められているのでしょうか? 現実的に考えれば、万一トラブルがあってもすぐに回復すれば、さほどのダメージを受けずに済むシステムの方が多いはずです。

 事例で紹介した3つの企業は、そこに目を付けたのです。すなわち、「ミッションクリティカルシステムだから、いっときも止まってはならない」と、全システムをひとくくりにして思考停止に陥ることなく、各システムが担う業務の内容、性質と運用コストのバランスを見極め、「いっときも止まってはならないシステム」と「たとえトラブルがあっても、すぐ復旧できれば問題ないシステム」を切り分けたのです。

 そのうえで、後者については、「復旧体制さえ確保しておけば、IAサーバ+Linuxを使った仮想環境で担保できる信頼性で十分」と判断し、大幅な効率化を果たしたのです。実際、事例の3つ目、製造業の会社では障害がときどき起こっているそうです。しかし、すべて迅速に復旧しているため、ビジネスに影響が出るような問題に発展したことは一度もないそうです。

 さて、最後にあらためてお聞きします。仮想化技術はミッションクリティカルシステムには使えないのでしょうか? いや、“あなたの会社のミッションクリティカルシステム”に仮想化技術は使えないのでしょうか?――ベンダやコンサルタントから話を聞くだけではなく、自分から進んで情報を集めてみてください。特に実際のユーザー企業の話は大変参考になります。そのうえで、自社のシステムにはどんな要件が求められているのか見直してください。仮想化技術を有効活用する可能性が、大きく開けてくると思います。

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


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