仮想化で、コア業務に集中できる環境を作ろう仮想化時代のビジネスインフラ(4)(1/2 ページ)

仮想化のメリットは「コスト削減」だけではない。近年、話題になっているユーティリティコンピューティングに近い体制を実現し、コア業務に労働力を集中させる「攻め」の手段として活用する方法もあるのだ。

» 2009年04月23日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]

水やガスのようにコンピュータが使えたら……

 近年、よく聞かれるようになった言葉として、「ユーティリティコンピューティング」というものがあります。ご存じのとおり、コンピュータの利用形態の1つで、CPU、メモリ、ソフトウェアといったコンピュータリソースを、サービス提供者側が一括してプールしておき、それをユーザーの要求に応じて、必要なときに必要な量だけ提供することです。あるいは、それを支える技術、ないしビジネスモデル(課金形態)を指すこともあります。

 この「ユーティリティ」とは「公益事業」のことで、電気・ガス・水道のように「生活に必要な資源を、使用した分だけ支払う」仕組みのことを意味しています。コンピュータは、電気・ガス・水道のようなライフラインではありませんが、いまやビジネスだけではなく、日常生活においてもなくてはならないものとなっています。その意味で、コンピュータリソースも電気・ガス・水道のように、使いたいときに必要なだけ使い、使用した分だけ使用料を払うというのが、本来あるべき姿なのではないか、というわけです(注)。

注:このことはニコラス.G.カー氏が著した『クラウド化する世界』(翔泳社/2008年10月刊行)の中で触れられています。同氏は『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい(原書タイトルは『Does IT matter?』)』(ランダムハウス講談社/2005年4月刊行)において「必需品と化した情報技術に投資は無用だ」と主張し、全米に議論を巻き起こしました。

 確かに、このユーティリティコンピューティングが実現すると、コンピュータの使い勝手は激変することでしょう。例えば、人々が電気・ガス・水道を使う場合、それらを供給する設備について思いをめぐらすことはないと思います。「発電設備が変わったのでコンセントの形状が変わります」とか、「水道管を変えたので蛇口を変えてください」とか、「ガス漏れ警報装置を変えたので、確認試験をしてください」といったこともまずありません。

 しかしコンピュータを使用していると、「ソフトウェアのバージョンアップが必要です」とか、「パッチを当ててください」とか、「ハードウェアの仕様が変わったので、アプリケーションのテストをしてください」といったことが当たり前のように求められます。それに加えて、アプリケーションの改修が必要になり、追加の費用が発生することもよくあります。そういった一切のことを考えなくて済むようになるのです。

 現在、ユーザーは、バージョンアップやパッチ当てなどを当然のように行っていますが、コンピュータがここまで生活や仕事に浸透し、不可欠なものとなっている以上、本来なら到底受け入れられるようなことではないのかもしれません。

仮想化でユーティリティコンピューティングに近い環境を実現する

 では、なぜコンピュータは水道やガスのようにはいかないのでしょうか? 一番の違いは、電気やガス、水道の場合、ユーザーは生活を営むのに必要な資源として「使っているだけ」ですが、コンピュータの場合、そのサービスを提供しているサーバやアプリケーションといった“設備”をユーザー自身が管理していることです。

 しかし考えてみてください。エンドユーザー、それも企業のユーザーにとって最も大切なのは、「生活を営むために」水やガスを使うように、「業務を効率的かつ確実に遂行し利益を上げるために」、コンピュータリソースを自由に使うことではないでしょうか。

 ところが現実は、OSをはじめとする“設備”の選択のほか、その運用管理に多大な労力を割いています。第2回『「仮想化で収益向上」は経営層から提案せよ』でも、ITコストの75%が運用管理費だという調査結果を紹介しました。あなたの会社で雇用しているIT部門の従業員のほとんどは、システムの運用管理にほとんどの時間を費やしているのです。

 これは本来的にはおかしいことだと思いませんか? 従業員は会社をさらに発展させるために、新しいビジネスの仕組みを考えたり、それを実現するアプリケーションの開発などに集中すべきではないのでしょうか?

 その点、ユーティリティコンピューティングは、設備の選択や運用管理といった一切の無駄を排除してくれます。そして、自社のビジネスの仕組みを考えたり、それに必要なアプリケーションを模索する──すなわち、コア業務への集中を大きく支援してくれるのです。

 とはいえ、ユーティリティコンピューティングが実現するまでには、もう少し時間がかかりそうです。しかし本連載のテーマ、 仮想化技術はここでも可能性を与えてくれます。上手に活用すれば、ユーティリティコンピューティングそのものではありませんが、それに近い環境を構築することができるのです。

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