持続的イノベーション(じぞくてきいのべーしょん)情報システム用語事典

sustaining innovation

» 2009年05月12日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 企業が顧客のニーズを満たすべく、自社の製品やサービス、およびそれを生み出す諸プロセスに関して、性能向上を図るために行うイノベーションのこと。ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)が提唱した「破壊的イノベーション」の対概念である。

 ある製品・サービスが顧客に受け入れられて市場が形成されると、市場に参入した企業の間で性能や品質を高める競争が始まる。次世代製品を投入するごとに製品を高度化していかなければ顧客を失うことになるため、市場に踏み止まろうと思う企業は投資を続け、競合他社に先駆けて新技術※の開発と製品化に取り組む。クリステンセンは製品・サービス・技術の性能向上を伴う、このようなイノベーションのことを「持続的イノベーション」と呼んだ。sustainとは「維持する」「保つ」を意味する。

※ここでいう「技術」は、労働力・資本・原材料・情報などの経営資源を投入して、より価値の高い製品・サービスを生み出すプロセス全般を意味する

 さまざまな業界で行われる技術進歩のほとんどは持続的なもので、漸進的な技術改良もあれば、抜本的な技術革新もある。いずれにしても持続的イノベーションは、主要市場における既存顧客が示す価値基準に沿って行われるものであり、企業にとっては既存顧客に見放されないための“生き残り”イノベーションといえる。

 クリステンセンは、市場リーダーである優良企業は持続的イノベーションに最適化したプロセスを持ち、この競争で新規参入者に後れを取ることはあまりないが、持続的イノベーションが繰り返された結果、製品性能が市場ニーズを超えて過剰になると破壊的技術が登場し、破壊的イノベーションが生じると主張し、イノベーションのジレンマを論じた。

参考文献

▼『イノベーションのジレンマ──技術革新が巨大企業を滅ぼすとき〈増補改訂版〉』 クレイトン・クリステンセン=著/玉田俊平太=監修/伊豆原弓=訳/翔泳社/2001年7月(『The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail』の邦訳)

▼『イノベーションへの解──利益ある成長に向けて』 クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー=著/玉田俊平太=監修/櫻井祐子=訳/翔泳社/2003年12月(『The Innovator' s Solution: Creating and Sustaining Successful Growth』の邦訳)

▼『明日は誰のものか──イノベーションの最終解』 クレイトン・M・クリステンセン、スコット・D・アンソニー、エリック・A・ロス=著/宮本喜一=訳/ランダムハウス講談社/2005年9月(『Seeing What's Next: Using the Theories of Innovation to Predict Industry Change 』の邦訳)

▼『イノベーションへの解──イノベーターの確たる成長に向けて 実践編』 スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン=著/栗原潔=訳/翔泳社/2008年9月(『The Innovator's Guide to Growth: Putting Disruptive Innovation to Work 』の邦訳)


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