全関係者の“納得”が、レビュー成功の大前提ソフトウェアレビュー入門(2)(1/3 ページ)

いかにレビューが有益なものであろうと、また、実践のための合理的な準備・計画があろうと、それだけでは効果は望めない。レビューにかかわる全関係者にその有用性を理解してもらうことが、成功の前提条件となる。

» 2009年06月25日 12時00分 公開
[森崎修司,奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科]

あなたの組織では、レビューが軽んじられていませんか?

 第1回『“確実な記録”こそが、品質・コストに貢献する 』では、「レビューには目的意識が大切」といったことを述べましたが、何事も「目的」を実現するためには「計画」が必要です。特に、一見“自由度が高い”レビューにおいては、綿密な計画を立てることが非常に重要な意味を持ちます。

 ただ、「計画」といっても、堅苦しい文書を作るわけではありません。具体的には、「どのようなレビューをするか」「レビューの開始と終了の条件」などを明確化するとともに、「レビューを行うことによる、開発メンバーにとってのメリット」「早期にミスや問題を発見することによるリスク低減効果」を、レビュー参加者に事前にしっかりと理解しておいてもらうことが大切なのです。

 例えば、皆さんの周りでこんなことはないでしょうか?

──ある日のこと……

担当者 「Xサブシステムの設計レビュー、どうしましょうか?」

リーダー 「エラーを見逃すと、結合テストのときにバグがたくさん出るだろうしな、きちんとレビューしておこうよ。C課長、D主任、E主任、あとは君と私でやろう。日程調整してもらえるかい?」

──ところが、レビュー会議当日になってみると……

D主任 「これはまだレビューできる状態じゃないと思いますね。例えば『機能一覧』なんて抜けが3カ所もあるし。それよりさっき顧客から電話があってね、そっちの対応が緊急なので、すみませんが抜けさせてください」

リーダー 「仕方ない……。ところで、E主任は?」

担当者 「来るはずだったんですけど、どうも外出中のようです」

リーダー 「……Cさん、すみませんが、3人でやっちゃいましょう」

C課長 「よし、じゃひととおり説明してくれる? まだ読んでないんだよ」

リーダー 「はい。まず『機能一覧』ですが……」

C課長 「ふんふん、なるほど。ところでさ、最後のページの用語集なんだけど、用語を選ぶ基準が不明確だよね。今日はとりあえず用語集を徹底的に修正しよう」

リーダー 「……はぁ」

──Xサブシステムのソフトウェアテスト結果を見て……

リーダー うーん……。異常系のテスト結果がひどいな。設計レビューでの見逃しが多すぎる」


 中心的なメンバーはレビューを重視しているのに、関係者には軽んじられてしまう──よくあるケースだと思います。こうした場合、次の1〜3のような計画面の不備と、4〜6のような関係者の認識不足が原因です。

  1. 参加者(特にキーパーソン)の日程・工数の把握ができていない。
  2. レビューの手順と、開始/終了条件が明らかになっていない。
  3. レビューの「計画」がないか、メンバー間で合意できていない。
  4. レビューの効果、メリットをメンバーが認識していない。
  5. レビューの重要性が認識されていない。
  6. どんな目的でレビューを実施するのか、事前に共有できていない。

 レビューには然るべき「準備」が必要です。開発の各段階で、レビューのために「何を準備し、何を実行すべきか」を計画するのです。

 また、レビュー計画はプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーだけで決めるのではなく、開発メンバーや、特定の工程だけ受け持つパートナーなど、レビューにかかわるすべての人たちに共有・合意してもらうことが大切です。それによって初めてレビューをきちんと行うことができ、大きな効果が得られるのです。

 特に、途中参加のメンバー(工程途中での応援を目的とした追加人員など)にレビュー計画の説明を忘れてしまい、レビュー実施の直前で説明してしまう、といったことも起こりがちです。途中参加のメンバーにも参加した時点であらかじめレビュー計画の説明をして、必ず計画を共有・合意してもらいましょう。

 また、気を付けたいのは、レビュー計画に限りませんが、「たとえ合理的で優れた計画でも、必ずしも受け入れられるとは限らない」ということです。レビューは複数の関係者が協力して行うものです。レビューにかかわる全関係者に納得してもらえなければ、効果が出にくいものであることを、常に念頭に置いておきましょう。今回はそうしたことも踏まえて、レビューの計画立案について解説します。

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