仮想化技術を生かし切るための条件仮想化時代のビジネスインフラ(6)(2/2 ページ)

» 2009年08月26日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
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リソースの用途を限定しない“ステートレス”な環境を作ろう

 しかし、この条件をクリアできれば、仮想化技術はIT資産の有効活用を大きく後押ししてくれます。例えば、“IT資産管理部門”を作ったとしても、「ほかの部門で使わなくなった“睡眠IT資産”を管理しておき、別の部門で再利用する」といったことは、キャパシティやパフォーマンスの違いなどサーバの物理的条件に阻まれて、実際にはなかなか難しいものです。その点、仮想化技術を使えば物理的制約を外せるため、リソースを柔軟に活用できるようになるのです。

 事例を紹介しましょう。弊社の顧客企業であるISPのA社では、ビジネスに以下のような課題を抱えていました。

  • 新サービスをいち早く提供し続けなければ、競争に勝てない
  • 新サービスが成り立つか否かは、実際にやってみないと分からない
  • 成り立たないと分かった場合、すぐ中止して別サービスに取り組みたい

 こうした事情により、A社ではサービスを中止するたびに、そのサービスに用意したIT資産も廃棄していました。しかしこれではロスが大きいことから「既存資産をうまく流用したい」という相談を受けたのです。

 そこで弊社では、A社のIT資産を棚卸ししたうえで、“サービスインフラの仮想化”を実施しました。台数は公表できないので、仮にA社に100台の物理サーバがあったとすると、1台1台を特定のアプリケーション用に設定するのではなく、100台分のリソースを“1つの大きなサービスインフラ”とみなし「いつでも自由に、どのアプリケーションも使用できる」環境を整えたのです。

 A社の環境は次のようなものです。万一、物理サーバに異常が発生した際、すぐに機能を引き継ぐフェイルオーバー用の物理サーバを数台待機させたほかは、仮想化技術によって残りのサーバリソースを統合し、それを必要に応じて論理的に分割し、各アプリケーションに柔軟に割り当てられるようになっています。アプリケーションの稼働・使用停止・入れ替えも数分で行えます。すなわち物理サーバの用途を限定しないステートレスな環境を築いたのです。

 これにより、A社はサービス立ち上げのスピードアップとコスト削減を果たしたほか、ハードウェアの手配や廃棄を考える必要がなくなったため、「どんなサービスを提供するか」という中核業務に集中できるようになりました。

 このアプローチはほかにも応用することができます。例えば、企業には受注業務、請求業務といったさまざまな業務処理があり、それぞれに専用の処理システムが存在します。そして各システムには、ピーク時の負荷にも耐えられるだけのリソースが確保されているはずです。

 しかし、各システムとも処理のピーク時は異なります。例えば小売業なら、受注処理は年末年始やボーナス時期、請求処理は毎月末といった具合でしょう。そうしたピークが訪れるのはごく限られたタイミングですから、通常時は多くのリソースを眠らせていることになります。

 そこで、仮想化技術によってサーバリソースを統合し、その環境の上でピークの異なるシステムを稼働させれば、効率的な運用が可能になります。つまり、あるシステムがピークを迎えたら、そちらに必要なリソースを割り当て、ピークを過ぎたらまた別のシステムに割り当てるといったやり方です。これなら各システムに個別にリソースを用意するより、ずっと少ないリソースで済みます。

IT資産管理体制構築という“経営改革”に乗り出そう

 このようなサーバリソースの最適利用は、仮想化技術の導入だけでは実現できません。むしろ、全社的な運用管理体制がない状態で安易にサーバを仮想化すると、「どの物理サーバで、何が動いているのか」が一層把握しにくくなるため、いずれは余計に混乱することになるでしょう。「コスト削減のため」という目先の目的だけではなく、経営的観点から、「IT資産をいたずらに増やさない」体制を築くことにも目を向けるべきだと思うのです。

 数は少ないながら、そうした“前提条件”をクリアしたうえで仮想化技術を導入し、成果を挙げた企業は着実に増え続けています。その流れをつかんで、自社のビジネスに適用できるか否かは、企業をリードする経営層の皆さんの意思次第です。ぜひ、企業全体のプロジェクトとして、IT資産の全社的な運用管理体制構築という“経営改革”に取り組むことをお勧めします。仮に仮想化技術の活用に至らずとも、その効果は絶大なはずです。

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


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