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» 2010年01月14日 12時00分 公開

勉強会リポート:クラウド時代のIT資産管理(2):なぜ、PC資産管理は失敗するのか? (2/2)

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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II - どうすれば資産管理を成功させられるのか?

新野 次に『どうすれば資産管理を成功させられるのか?』をテーマに話をうかがっていこうと思います。マイクロソフトの花岡さん、何かうまくいっているという例があったら教えてください。

;花岡 各ユーザーに対する教育や啓蒙活動はすごく有効な方法だと思います。逆にこれが実施できていないところは、ツール自体の導入がきちんとしていても、業務としてはやはり問題が出てきてしまうものです。

新野 社内の理解が必要ということですね。

花岡 それを打開する方法としては、トップダウン型の指導力を発揮する必要があると思います。ある製造業のお客さまの事例ですが、PCの台数が把握できないという課題に対して、トップダウンでPCとその中に入っているソフトウェアの総数を各部門がまとめるように要請し、その情報を1カ所に集中化することで、全社的にガバナンスが利いた運用に至りました。

新野 それはトップダウンによる指示がきっかけだったわけですね。

花岡 そうです。ただし、トップダウンとはいっても説得や説明は必要です。つまり、そのルールや作業を実施する理由が説明できなければいけません。その意味で事実確認は大きな理由付けになります。先ほどの製造業のお客さまは、1万台のPCがあるはずなのに棚卸しをしてみると実際には8000台ぐらいしか稼働していないということが分かりました。これは誰でも問題だということが分かるので、実現できたのではないかと思います。

新野 なるほど、ありがとうございます。ハードウェアの話題が出てきたので、インテルの下野さんにお聞きしましょう。社内のハードウェア・リソースをうまく把握するテクニックがあれば教えてください。

ALT Panelist:
インテル株式会社 マーケティング本部
ソフトウェア・エコシステム・マーケティング総括部長
下野文久氏

下野 弊社の事例をお話しします。インテルでは徹底的にシンプル化します。複雑化する=管理が難しくなるという背景があると思いますが、インテルは世界で20万人弱いる従業員が全員、同じPCを使っています。

新野 全員同じなんですか!

下野 全員同じなんです。

新野 メーカー、モデルが一緒なんですね。

下野 そうです。こうすることによって管理者は管理対象を深く理解し、知識を蓄積できるのです。また管理業務も標準化できますから、資産管理の作業をアウトソーシングできるようになります。これとは弊社の事例とは別に、ある国内企業では「このモデルしか買わない」としたところ、管理が非常に改善されたというケースも聞いています。

新野 ありがとうございます。成功する方法を聞いてみますと、「PCのシンプル化」と「トップダウンを含む、社内の理解」が必要という文脈が見えてきたと思います。コアの武内さん、ここまでお話を聞いてどう思われますか。

武内 それぞれ重要なポイントだと思いますが、問題の根は“部分最適の繰り返し”にあるのではないでしょうか。例えば、情報漏えい問題が発生した??情報漏えい対策をしなければいけない! PCのコストが高過ぎる??TCO削減に取り組め! とそんなことを繰り返している例が多いと感じます。そうではなく全体最適の観点で、何をすべきかを考える必要があるのではないかということです。ITILやエンタープライズアーキテクチャなど、企業のアーキテクチャやプロセスを俯瞰(ふかん)するひな形がありますが、そうした視点からスタートして資産管理を位置付ける。それによって、何を目的にどこまでどういう形で行うべきなのかが明確になってくると思います。

新野 目的や目標を立てるには、何が成功かを定義しなければいけませんね。講演セッションの武内さんのプレゼンテーションでは、資産管理と構成管理の目的として「TCO削減」「セキュリティ、コンプライアンス」「契約、会計」が挙げられています。こうした目的と目標がきちんと設定されていることが大事なんですね。

武内 そう思います。現時点では、TCO削減もセキュリティ、コンプライアンスも、契約、会計も全方位でやらなければならないと施策だと考えます。どれか1つだけ取り上げてやることにしても結局は後々、もう1回やり直さなければならなくなります。そう考えれば、PC管理だけでいいのか、データセンターの資産も対象にすべきか、さらにそのTCO削減から会計・契約までをすべて同時にマネジメントできる、効率的な管理フローはどんなものかを全体最適の視点で構築するという覚悟が必要なのではないかと思います。

新野 ユーザー代表の石井さんにおうかがいしたいのですが、コスト削減、セキュリティとコンプライアンス、会計と契約を同時に取り組むというのは可能なんでしょうか?

石井 実際には順番に取り組むことになると思います。ただ、最初はコスト削減のためにライセンス管理を行ったとして、次の取り組み??例えばセキュリティ対策のための取り組みはライセンス管理で構築した業務プロセスとアクションをベースにして、現場への負担を最小化するという視点が大切だと思います。

新野 そういう意味でも社内の理解が必要で、そのためには現場の作業をできるだけシンプル化して協力してもらいやすくするというのが成功のカギなんですね。

石井 その通りです。エンドユーザーの人々は特に何かを要求してくるわけではありませんが、「PCの棚卸しをするので台数を報告せよ」「コンプライアンスのためのインストロールされているソフトウェアを報告せよ」「セキュリティ対策が必要だから××というソフトが入っていないか確認せよ」とばらばらに指示するのではなく、管理番号を登録するであるとか、バーコードを読み取るであるとか、そういうシンプルな作業だけにしてそれを徹底してくださいとお願するということですね。

新野 手順が面倒だとなかなか協力してくれませんものね。

III - 資産管理を経営、業績、効率化に結び付ける方法

新野 続けて、『資産管理を経営、業績、効率化に結び付ける方法』についてご意見をうかがってきたいと思います。実際にIT資産管理に取り組まれている石井さん、効果という面ではどうでしょうか?

石井 会社が資産管理に費やす労力はだいぶ削減できたと思います。また、インテルさんと同様にPCのベンダとモデルをほぼ統一していますから、故障時にマシン代替やサポートなどについても省力化されたと考えています。

新野 標準化という部分では、例えばソフトウェアでいえば「僕は秀丸を使いたいんだ」という人がいますね。こういう要望へのどう対処するんでしょうか?

石井 そこは、効率化の意義を理解してもらうということになると思います。会社の規模も関係してくるとは思いますが、一定の規模を超えると標準化のメリットの方が大きくなるんじゃないでしょうか。

新野 なるほど。インテルの下野さんにも同じ質問もをしたいと思います。PCの統一によって得られる経営メリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

下野 日本企業は、ITの導入において購買部門が非常に強いという印象があるのですが、そこに問題があると見ています。というのは、購買部門が購買判断するに当たっては値段しか見ていないことが多いのです。一方、IT部門はいろいろな面で発言力が弱くて、そのためにIT管理やセキュリティ対策が効果的・効率的にできないのでは? と考えています。先ほどの秀丸のケースであれば「できない。なぜならば??」という形で責任を負って統制するメカニズムがないと、運用管理もセキュリティ管理も煩雑になるばかりです。PCは会社の資産なのです。

 そういう意味でインテルは、自分自身がテクノロジ・リーダーシップを取るべき会社なので自社がロールモデルになろうということで、PCは「3年で買い替える」と決めているわけです。具体的には“IT at Intel”という弊社のIT部門が、これらの仕様や運用方針を決定しています。個人が勝手に何か入れたいといっても絶対に認められない。3年というのは早い段階で買い替えることが、効率につながるというものです。こうした全体を見据えた決定が結果的には会社の競争力につながると思うのです。

新野 ありがとうございます。日本CAの奥村さんにもおうかがいします。どのように経営に結び付ければいいんでしょうか。

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日本CA株式会社 ソリューション営業本部 サービスマネジメント・ソリューション営業部
テクニカル・ソリューション・グループマネージャー
奥村剛史氏

奥村 ユーザー企業の方々とお話しして感じるのは、問題の整理がされていないケースが多いことです。例えば、「○○が問題である」「××に苦労している」と個別の課題を訴えられる方は多いのですが、その分析はされていないのです。課題分析を行うことが個別の課題を経営課題に結び付けることになるのではないかと思います。

新野 分かりやすい例はありませんか?

奥村 CAにはコンシェルジュサービスというのがあって、お客さまのところに行ってワークショップを開きます。1人1人にヒアリングするのではなく、話をリードしていきながら問題を整理して課題分析を行って根本的な原因を導き出し、そこから問題を解決した場合のメリットをまとめる??という形に課題を整理しています。これがIT部門の方々にとっては経営層の方々に対して上申する際の武器になるんですね。

新野 ありがとうございます。マイクロソフトの花岡さんにもお聞きします。利益を生み出さないと思われている資産管理をどうやって強みにしていけばいいのでしょうか。

花岡 奥村さんがお話しされたところとほとんど同じです。ITというのは業務の効率化をしたり、効果を上げたりするために導入するものです。それがIT資産管理だけを見てしまうと、管理対象のITは業務上の理由があって入れたものであるにもかかわらず、ITのためにIT管理をすると考えてしまう。ですから、いま入っているITサービスがなぜ入っているのかをあらためて考えて、それぞれにプライオリティを付けて、資産管理やセキュリティ対策を施さなければならないところを決めていく必要があると思います。

新野 プライオリティを経営に与える影響度から決めていく必要があるわけですね。ありがとうございます。武内さんにおうかがいしましょう。

ALT Panelist:
株式会社コア
プロダクトソリューションカンパニー
ネットワークソリューション事業部
武内烈氏

武内 私はサービスという観点と、経営指標という観点で考えてみます。現在、企業活動はITサービスがないと基本的に成り立たないと思います。ITサービスは、エンドユーザーの手元にあるPCからネットワークを介してデータセンターにある業務システムにアクセスする形で提供されています。この仕組みに障害が発生したとき、PCの問題なのか、サーバの問題なのかという切り分けが迅速にできるというのは、サービスレベルを考えるうえではすごく重要なことなんですね。下野さんもおっしゃっていましたが、シンプル化や標準化をすることで、既知のエラーデータベースが有効活用できます。このようにユーザー環境をしっかりと把握することは、運用管理の生産性に大きな影響を与えますから、この点はきちんと認識すべきだと考えます。

 一方、経営指標の観点からいうとリース会計の変更や国際会計基準の影響もあって、IT資産を保有せずにBPOするという選択肢が出てきていますが、いままで話してきた標準化やエラーデータべースの整備を踏まえないとBPOというビジネスも成り立たないと思うんですね。

新野 BPOというのは、IT機器の管理を外部の事業者に委託するというものですね。

武内 所有もですね。PCの所有から管理までをすべて業者にやってもらうわけです。そうすると、バランスシートにはIT資産は計上されずに毎月のコストになる。これに対して従来型は、例えばPCを2000台持っているとすると、2000台が全部資産になりますから、総資産回転率は悪くなります。ですから、大手企業の中には数千台という規模でBPOを選択するところも出てきています。

新野 一方のBPOを受託する業者はIT資産管理をビジネスで行うことになるので、コスト把握が必須になるわけですね。

武内 そうです。BPO事業者は利益を出さなければならないので、できるだけ安いPCで標準化とシンプル化を進めて管理コストを下げ、ユーザーに対しては魅力的なプライスを出すということになるはずです。そうしないとBPOというもの自体が成り立たないと思うんですね。

新野 要するにITの標準化・シンプル化が受け入れられる会社であれば、BPOという選択肢もあって、より強い会社になれるかもしれないということですね。


 次回はパネルディスカッション後半の模様をお伝えします。

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