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» 2010年01月26日 12時00分 公開

既存のプロジェクトマネジメント手法の落とし穴とは?プロジェクトは「やる気」で成功する(1)(1/2 ページ)

これまでも数々のプロジェクトマネジメント手法が考案されてきたが、現在も数多くのプロジェクトが失敗に終わっている。それはなぜか? 制約理論を提唱したエリヤフ・M・ゴールドラット博士は工学的な視点で既存手法の問題点を指摘したが、竹之内隆氏は人間的な見地から既存手法の新たな落とし穴を指摘する。

[竹之内隆,カイゼン本舗]

人は論理のみでは動かない、動かせない

 複数のメンバーが参加するプロジェクトをスムーズに遂行するためには、計画を策定するプロセス、それを実行するプロセスの両方において、全関係者が足並みをそろえなければなりません。そのためには、論理的な戦略と、それに基づく漏れのないWBSが不可欠とされています。しかしそうした要件を満たしていても、現実には数多くのプロジェクトが失敗に終わっています。

 なぜうまくいかないのか? 結論からいえば近年、盛んに指摘されている「やる気」に問題があると考えています。実際、計画に沿って人に行動してもらううえで、計画の“正しさ”“合理性”を論理的に理解してもらうことは、必要条件ではあっても十分条件ではありません。軍隊式に命令しても、論理的に説得しても、人を計画どおりに動かすことはできません。感情に訴え、プロジェクトを策定した背景や計画を“納得”してもらい、やる気に火を付けなければプロジェクトは円滑には進まないのです。

 加えて、近年は業務が複雑化しています。ITプロジェクトなら、プロジェクトの内容によって特殊分野のスキルや経験が求められたり、高度なコミュニケーション能力・折衝能力が必要になったりと、1人の人間が数々の要求を満たさなければなりません。こうした中、人間の生産性を支えるのが「やる気」であることは、皆さんがご自身に当てはめて考えてみても納得できるのではないでしょうか。

 では、「やる気」をもってプロジェクトを推進するには、具体的にはどうすればよいのでしょうか? さっそく本論に入りたいところですが、その前に本連載の前提について述べておきましょう。本連載では「やる気」の問題だけを切り出して精神論を展開するのではなく、「既存の管理手法」に加えて「やる気」という要素を取り込んでいくことを目指します。

 私は単に精神論的な観点から「やる気が大切だ」といっているわけではありません。これまで幾多のプロジェクトマネジメント手法を学び、実際に使ってきた経験を通じて、感じるのは、従来の管理手法はやる気要素を組み込むことを忘れていた、ということです。これがプロジェクトの失敗につながっているのではないかと考えています。

 では、「やる気という要素を組み込むことを忘れていた」とは具体的にはどういうことなのでしょうか? 提案の意義を深めるためにも、まずは私が「やる気」に着目した経緯から紹介したいと思います。

PERT/CPMの“落とし穴”を指摘したゴールドラット博士

 これまで軍事や建築などの分野において、「あらかじめ設定された期限までに、予算の範囲内で、達成すべき目標を確実にクリアするため」に、複数のマネジメント・フレームワークが構築されてきました。これらは机上のみで考案されたわけではなく、実際にプロジェクトに適用され、その結果からフィードバックを受けつつ次第に発展してきました。

 中でもよく知られているのはPERT(Program Evaluation and Review Technique)と呼ばれる手法です。これは、まずプロジェクトの作業項目すべてを洗い出し、「各作業の相互依存関係を明確化したネットワーク図」を作ります。これをPERT図と呼び、それに基づいてプロジェクトの軸となるクリティカルパスを明らかにし、合理的に作業を進めていく方法です。

 クリティカルパスとは“プロジェクトの軸をなす一連の作業”のことで、この中の作業に遅れが出たら、プロジェクト全体が遅延します。

 PERTは、米国海軍のポラリスミサイル・システムの開発計画において生み出されたもので「不確定要素の多いプロジェクトにおいて、確率的に時間見積もりを算出し、時間短縮を図る手法」として確立されました。一方、PERTとほぼ同時期に、「時間」ではなく「コストの最適化」を目的としたCPM(critical path method)と呼ばれる工程計画・管理手法も開発されています。ただ、ともに同様のネットワーク図を用いてスケジューリングを行うことから、「PERT/CPM」と並べて呼ばれています。

 その後、このPERT/CPMがプロジェクト管理手法として使われるようになり、実際に効果も発揮するのですが、より確実に計画どおりプロジェクトを推進できるよう、複数の学者らが改善点を研究した結果、1990年代後半になって、PERT/CPMには意外な問題が隠されていたことが分かりました。

 それはPERT/CPMが軍事・建築を対象に生まれたものであるために、「軍事競争に勝つために、予算上の制約よりも納期を優先する」「リソース(建築作業者)を追加的に雇い入れることが比較的容易である」ことを前提としていたことです。しかし、高度なソフトウェア開発プロジェクトや新製品開発プロジェクトでは「仕様が不明確で工期が未定なので、コストが膨らむ」「求める技術力のある要員が足りない」といった作業量の増減と、それに対応するリソース不足といった問題が永遠の課題として存在します。これらの分野のプロジェクトで頻繁に発生する、「リソースの奪い合いが生じる」という視点が抜け落ちていたのです。

 これを突き止めたのが、生産管理・改善のための理論体系、TOC(theory of contraints)――制約理論を提唱したイスラエル出身の物理学者、エリヤフ・M・ゴールドラット博士(Dr. Eliyahu M. Goldratt)です。「いくら入念に計画を練っても、複数のタスクあるいはプロジェクトが、同一時期に同一のリソースを奪い合うために、必要なリソースを確保できなかったタスク/プロジェクトは予定どおりに進められない」と主張したのです。

 そして、ゴールドラット博士は自ら提唱する制約理論に基づき、新たな手法を開発します。まず「作業工程の従属関係」を明らかにするとともに、「リソースが限られているために発生する従属関係」も考慮したうえで、時間的に最も長くかかる作業の連鎖「クリティカルチェーン」を導出します。そのうえで、各工程の締め切りを積み上げていくのではなく、最終的なプロジェクトの完了=納期を起点に、工程全体を短縮化する方向でスケジュールを考えていく管理手法です。

 1997年に開発された、この「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」によって、スケジュール管理の分野は飛躍的な発展を遂げることになりました。しかしそれでもなお、すべてのプロジェクトが成功裏に終わることはなかったのです。

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