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» 2010年01月26日 12時00分 公開

既存のプロジェクトマネジメント手法の落とし穴とは?プロジェクトは「やる気」で成功する(1)(2/2 ページ)

[竹之内隆,カイゼン本舗]
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“人間らしさ”という制約条件

 なぜでしょうか? そこで私は、ゴールドラット博士が「リソース競合」という問題を指摘したように、「経営工学分野の科学的な方法論」は『人間の扱われ方』という問題を見落としていた」と指摘したいのです。

 これまでの手法は機械や設備と同じように、人間を単なるリソースとして扱い、“誰がその工程に取り組んでも同じ結果が出る”ことを前提としてきました。いわゆる「1工数」「1人日」といった考え方です。

 しかし人間はキカイではない以上、いつでもどこでも同じパフォーマンスが発揮できるわけではありません。その生産性はその人の能力に加えて、対象に対する気持ち??「やる気」に大きく左右されます。例えば人間的な生産性を定式化すると、以下のように表せるのではないでしょうか。

1人工≒能力×作業時間×「やる気」係数



 人間は「やる気」で満ち足りているときは8時間で16時間分の成果を残し、「やる気」が失せれば8時間かけても2時間分の仕事を終わらせることもできません。つまり、「人」が課題達成の促進剤にもなり、ボトルネックにもなるということです。


※クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメントでも「やる気」が重要である理由を補足ページで解説しています。


 従って、私は「プロジェクトマネジメントにおける人間モデルを、もっと“人間臭く”扱うべきだ」と主張したいのです。プロジェクトの計画を立てたり、進行をする際には、このことを常に念頭に置いておけば、既存の管理手法を真に有効に活用できるはずです。すなわち、私は「やる気」という要素を取り入れることで、既存の手法をまた一歩発展させたいのです。

もはや「やる気」は避けて通れない問題

 では“人間を人間臭く扱う”ためには、どんな点に配慮すればよいのでしょうか??本連載のプロローグとして、それを示唆する私自身の失敗談を紹介しておきましょう。

 1980年代、私はプロジェクト計画をロジカルに割り出すPERTの考え方に夢中になっていました。そして自分がプロジェクトリーダーを務めるようになると、新たなプロジェクトに着手するたびにPERT図を作り、その出来栄えに悦に入りつつ、メンバー全員に意気揚々とこういい放っていました。

 「皆さん、このWBSを確認して問題や意見があれば、遠慮なく赤文字で書き込みなり修正なり入れてきてください」??

 それに対してメンバーたちは「これじゃあ読むだけで頭がクラクラしちゃうよ」とでもいわんばかりに、へきえきとした表情でため息をつくばかりでした。そんな彼らを、私はさげすみの視線で見下していたのです。翌日の会議でも私の態度は変わりません。

 「どうでしたか? 私がお渡ししたWBSは」という言葉を皮切りに、黙り込んでいるメンバー全員に対して、「どうしました? 質問があれば何でも受け付けますよ」「なぜ質問しないんです。理解できないんですか?」「皆さんの頭脳は私1人にも劣るんですか?」といった“詰問”を続けていました。

 いま思えば、これはある意味、脅しです。「私の流儀に従え」ということです。メンバーにとってはたまったものではありません。1人1人が生身の人間ですから、それぞれがプロジェクトに対して思うところがあるはずです。にもかかわらず、目標も、作業計画も、プロジェクトにかかわるすべてを“一方的に押し付けられる”のです。しかもWBSの正当性は考え尽くされていますから、安易に反論することもできません。

 しかし当時の私はメンバーの心情など気に掛けず、「プロジェクトに必要なのは、論理的な戦略と、漏れのないWBSだけだ」と考えていました。メンバーの「やる気」をつぶし、参加意欲を粉々にする存在=プロジェクト進行の最大の障害となっているのがまさか自分自身だなどとは夢にも思わずに。

 いま、プロジェクトを先導する立場のあなたはいかがでしょうか? 私ほど辛らつではないにせよ、同じような過ちを犯してはいないでしょうか?

 私はこうした苦い経験を通じて、“論理”のみでリーダーシップを発揮するのではなく、“心”や“感情”をもってメンバーをリードしていかなければいけないということに気付きました。また同時に、組織で生きていく人間にとって避けて通ることのできない「命令/権限」ということの在り方にも、再考が必要だと思うようになりました。すなわち、既存のどのプロジェクト管理手法を活用するにしても、プロジェクトを円滑に進めるためには、人間を人間臭く扱うことが大前提であり、また「やる気」を引き出すカギは、「プロジェクトリーダーとメンバーの関係性をどう築くか」に集約されると考え至ったのです。


 「やる気」の問題はこれまでも多くの人が本能的に認識していながら、「大事なのはやっぱり人だね」という一言で済まされてきたように思います。うがった見方をすれば、既存の管理手法も、あえて工学的なやり方に逃げていたともいえるのではないでしょうか。

 しかし業務の品質のみならず、スピードやコストダウンも厳しく要求されているいま、経営工学におけるリソースやリスクの取り扱いの問題以上に、生産性やチームワークを左右する根源??「やる気」をどう扱うかが、企業の存続を左右しかねないほどの重要な問題となっています。もはやこの問題を避けて通ることはできないのです。

 次回から、「やる気」に結び付けられるプロジェクトリーダーとメンバーのコミュニケーションの在り方について、さまざまな具体策を紹介していきたいと思います。

筆者プロフィール

竹之内 隆(たけのうち たかし)

JIT、TOC、SCMを統合的に推進する「カイゼン進化アプローチ」を提唱し、実践している。日本の製造業、総合商社、流通業でサプライチェーンマネジメント及びERP(統合業務情報システム)の構築を軸としたコンサルティングに数多くの実績を持つ。TOC(制約理論)の第一声を米国APICSカンファレンスより届けた草分け的存在。


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