東証、予算20億で往復1ミリ秒以下の超低レイテンシを実現ジュニパーのMシリーズを中心にWDMを構築

» 2010年03月08日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 ジュニパーネットワークスと東京証券取引所(東証)は8日、報道関係者向けの記者会見を実施。東証が2010年1月から稼働を開始している高速ネットワーク基盤「arrownet」が順調に稼働していることを発表し、その詳細を紹介した。

 東証は、「アルゴリズム取引など取引手法の高度化・高速化」や「高速取引への要求の高まり」といった外部要求に応えるため、次世代システムの構築を決定。求める要件として「高速性」「信頼性」「拡張性」の3点を挙げた。次世代システムは、売買システムが「arrowhead」、ネットワークが「arrownet」と名付けられた。

両氏写真 米ジュニパーネットワークス CEO ケビン・ジョンソン氏(左、東証 常務取締役 最高情報責任者 鈴木義伯氏(右

 東証 常務取締役 最高情報責任者 鈴木義伯氏は、「ITの高度化によってビジネスモデルも変化してきた。ITの活用が避けて通れず、通信の高速化も必須の状況になったことで、次世代システムへの構築を決断した」と経緯を説明した。

 次世代売買システムであるarrowheadの開発は富士通が担当。要件として「注文受付通知のレスポンスを10ミリ秒以下」「相場情報配信レイテンシを5ミリ秒以下」「99.999%以上の可用性確保」「5年後、10年後までの拡張性を確保する」などが挙げられた。実際のarrowheadでは、基幹IAサーバ「PRIMEQUEST」にRed Hat Enterprise Linuxを搭載したほか、データベースをすべてメモリ上で展開することで超高速取引や東証の要件を実現。5ミリ秒の注文応答時間、3ミリ秒の情報配信スピードを成功させたという。

 次世代ネットワークの「arrownet」では、通信網に高速な「WDM(光波長分割多重装置)」や「MPLS(Multi-Protocol Label Switching)」を採用し、高速化を図っている。アクセスポイントから各業務システム間のレイテンシは2ミリ秒以下を目指した。具体的には、アクセスポイントとプライマリサイト/バックアップサイトを10ギガのMPLS網とWDM網の二重構成で接続。それぞれのサイトには、ジュニパーのマルチサービスエッジルータ「M120」と「M320」をそれぞれ採用した。

arrownet構成図 arrownetの構成図。「M120」と「M320」で二重構成になっており、対障害性を上げている

 その結果、アクセスポイント−システム間のレイテンシは往復で1ミリ秒以下を実現。1月の次世代システム稼働以降は、総注文数や約定件数が増加し、市場流動性が高まったという。鈴木氏は現在の状況について「新システム移行後は、高速化したことで約定回数が2〜3倍に増えたほか、アクセスポイント−システム間のレスポンスタイムも3ミリ秒程度で安定している。また、情報配信が高速化したことで情報配信もほぼリアルタイムになり、旧システムと比較して約3.5倍にまで増加した。これは世界の証券市場と比較しても最高水準といってもよいレベルだ」と語り、新システムの性能に自信を見せた。

 説明に訪れた米ジュニパーネットワークス CEO ケビン・ジョンソン氏は、「金融市場のデータ量は毎月30%〜40%の勢いで増加している。その一方で、取引時の遅延は1ミリ秒以下を目指すのが普通になりつつある。昨年の新コンセプト発表以来、オープンな水平統合を実現した当社製品によって、ポイントソリューションでは成し得ない高性能を提供できた。多くのパートナーと共に、今後も世界最高水準の速度と超低遅延を提供していく」と抱負を語った。

 鈴木氏によると、ジュニパーの選定理由は従来実績と入札価格を重視し、価格は20億円だったという。運用は子会社の「東証コンピュータシステム」が担当し、ベンダと合同で故障や障害をいち早く発見するシステムを開発しているとした。また、現在の取引量が国内4割、海外6割であることから、今後は「独自ネットワークで海外と接続するまではしないが、海外ネットワークに強い通信事業者と協力して海外とのネットワークを強化する方針だ」(鈴木氏)とした。

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