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» 2010年03月09日 12時00分 公開

企業はなぜ“情報活用”ができないのか?IT共通基盤を整備せよ(4)(1/2 ページ)

情報活用と簡単にいうが、ビジネス現場のユーザーと情報システム部門の発想でギャップが最も大きいのはこの部分かもしれない。ユーザーが本当に必要としている情報とは何かをもう一度考えてみよう。

[生井 俊,@IT]

情活――情報活用への道

 企業が莫大なコストを掛けて情報システムを整備するのは、情報をビジネスに活用するためだ。すなわち適切な経営判断や円滑な業務オペレーションを実現するためにさまざまな情報が必要であり、その情報を適時・適所に提供する仕組みとして構築されるものが情報システムにほかならない。

 情報の定義や分類方法はいろいろとあるが、ここでは“思考の素材”として使われる情報と“行動のきっかけ”になる情報という視点で整理してみよう。

 思考の素材としての情報とは、何らかの判断や意思決定を行うに当たってその確実性を評価・確認したり、仮説を分析・検証・補強したり、あるいは仮説や気付きを得るために用いられるものだ。

 この意味での情報活用は、基になる情報(データ)からどのような意味を読み取るか? である。これは情報活用する人間の分析スキルや問題意識の持ち方によって変わる。同じ数字を見てもおかしいと思う人と、へぇと思うだけの人がいるのだ。従って、この情報活用は、情報の受け手(解釈や分析を行う人)が起点となる。

 こうした情報を得る流れとしては経営者や経営幹部、現場のマネージャが「得意先A社向けの四半期ごとの売上推移が見たい」「在庫明細を出せ」といった指示を出し、部下やアシスタントがデータをかき集め、Excelなどでシートを作成する――というような形が典型例だろう。週次や月次の定型レポートももちろんあるが、ビジネス環境の変化によって新たな情報ニーズが次々と生まれてくるので作業はキリがない。

 実際のところ、帳票やレポート類の作成要求の多くは、取引先別・販売店別・セールス別というように視点は変わっているが内容は同じデータであることが多い。そうであるならば、情報システム部門が行うべきことはデータを引っ張り出してシートを作ることではなく、データをそのまま渡せる環境を整備することではないだろうか。

 現場にExcelの達人がいれば、任意の情報がCSVなどで取り出せるだけでも大きな効果を挙げるかもしれない。現場は情報が出てくるのを待つ必要がなくなり、情報システム部門も労多く益の少ない仕事から解放される。ただ、情報要求者(マネージャなど)と情報加工者(アシスタントなど)が別の人間だと「このデータじゃなかった」「こういう集計方法じゃなくて」ということが起こりがちだ。

 いわゆる管理帳票と呼ばれるものも同様だ。帳票だからといって定型帳票に主眼を置いた帳票ツール/帳票システムで運用しようとするとちょっとした項目変更のたびにフォームやプログラムを開発(保守開発)する必要が出てくる。

 データの取り出しや参照、加工、比較などが簡単にできる環境を整えること――これが情報活用基盤の整備ということになるだろう。そのためには現場のユーザーがどのような情報を使っているのか、あるいは必要としているのかを知ることが出発点だ。“思考の素材としての情報”は経営者や現場ユーザーが「知りたい」と思っている情報なので、それをきちんと提供できる環境が整えば間違いなく情報活用は進む。

 上述のようにビジネスにおける情報ニーズのほとんどは「詳細データが見たい」「時系列の推移を知りたい」「AとBを比較したい」といった簡単なものだ。情報活用度が低く、管理レベルが高くない企業においてはなおさらだ。“思考の素材としての情報”は「判断したい」というときに求められる情報である。それが数週間後では意思決定が手遅れになるかもしれないし、思考も中断されてしまう。従って見たいものが見たいときに見られる環境、経営者やマネージャ自身が「あの件はどうなっているんだ」と思った瞬間に即座に情報が見られる環境を整備することがファーストステップとなるだろう。こうして情報活用度が上がれば、また新たな情報ニーズが生まれ、データ精度に対する要求も高まり、経営効率が上がってくるだろう。

 こうした情報活用基盤をお金を掛けずに構築していくには、高度な分析機能や複雑な統計処理機能、見栄えを良くするグラフィック機能といったものを検討するのに先だって、まずは企業の中の各階層・各部門でどのような意思決定や決断が行われていて、それのためにはどのような数字を使われているのかをヒアリングしたり、傾向分析を行ったりすることがポイントだろう。要は中身が肝心というわけだ。

 ウイングアーク テクノロジーズ 事業統括本部 バリューエンジニアリング部長の岡政次氏は「現在ではまだ、部長付きの担当者が社内を駆けずり回ってコピーを集めたりしている。駆けずり回っている人も大変ですが、いちいち聞かれる側も大変です。情報活用の考えるうえでは情報の流れの中で、登場人物を減らすということが重要だろうと思います」と語る。

紙を使う場面、デジタルにする場面

 “行動のきっかけ”としての情報は、「出庫依頼」「週次売上集計(=予算達成まであと○○円)」など、業務上の行動を促すメッセージやアラートとなる情報だ。“思考の材料”としての情報ではその意味や内容を受け手が読み取っていたが、“行動のきっかけ”となる情報は読み方がパターン化されているか、あるいは情報の送り手の意図を正確に伝えるためのものといえよう。

 こうした情報伝達はIT化が進んでいるように思えるが、まだまだ紙伝票に依存したビジネスプロセスになっている企業も少なくない。カジュアルな連絡は電子メールでもいいが、正式な業務依頼は紙伝票がないと受け付けられないというようなケースだ。

 こうしたプロセスのために汎用機+専用プリンタシステムを運用して、前日までに集計したデータをバッチ処理してセントラルプリンタで出力し、そのプリントアウトを仕分け・配送するという方法で業務を進めている企業もまだあるという。

 これらの帳票類が電子化/PDF化されると紙代や仕分け・配送の手間などもなくなるが、何といっても大幅な時間短縮となる。これは仕事のスピードアップや生産性の向上につながるものだ。仕事のきっかけとなる指示が遅れれば、当然ながらアクションが遅れる。

 「情報が早く届く――それで仕事の段取りが変わっていくはずです。伝票が届いてから仕事という流れが、朝にパソコンを開いたら何をすべきかが分かるわけです。早めに出社する人だったら始業前にすべての段取りできてしまうでしょう」(岡氏)。すると現場に余力が出てきて、思考の連続性や新たな発想というものが生まれるのではないか、つまりアウトプットが早く届くだけで現場が変わっていくはずだと岡氏は指摘する。

 さらに岡氏は「情報というのは、印字してしまった段階でスピードが減速してしまうものです。紙の資料を見ながら考える、会議をするというのはまだいいのですが、紙で情報を受け渡ししようとすると大幅に伝達スピードが遅くなり、必然的に業務が遅くなります。ですから、紙で情報伝達するのだけはやめましょうと申し上げています」と語る。

 これは“完全ペーパーレス”の主張ではない。基本ルールは「自分の先に伝達する人がいないときには紙にしてもよい」だという。つまり、情報共有や情報公開のための情報――ソース情報は紙ではなく、電子データにするということだ。企業で働く人々が日々生み出すファイルはファイルサーバで集中的に管理する、というような話であれば技術的には特に難しくはない。

 紙の伝票や連絡文書は目に見える存在だが、それをデジタル化することは一面では“見えない化”でもある。従ってその弊害を踏まえて、情報の流れを再定義することも必要だろう。これはITソリューションではなく業務改善や業務改革の領域である。

 こうした改革は情報システム部門が得意する領域とはいえない。しかし、得意ではないからといってやらなくていいということにはならない。情報の伝達手段や情報ツールの使い勝手が変わるだけで現場の仕事の流れが変わり、ビジネススピードや生産性、あるいは企業競争力が変わってくるのだ。それを仕掛けていこうというのがウイングアーク テクノロジーズのOPMである。

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