独SAPは5月19日、ドイツ・フランクフルトで年次イベント「SAP SAPPHIRE NOW」を開催。基調講演では、同社CTOのビシャール・シッカ(Vishal Sikka)氏と同社の共同創業者であるハッソー・プラットナー(Hasso Plattner)氏が、前日同様にフランクフルトとオーランドでそれぞれ基調講演を行った。
最初に登壇したのはフランクフルトのシッカ氏。同氏は現在SAPが取り組んでいる大きなテーマとして「Realtime」と「Reach」の2つのキーワードを挙げた。Realtimeについては、“真”のリアルタイム性が実現できるようになったと強調。その背景にはハードウェアの急激な進化が挙げられるとした。
同氏はハードウェアの進化の中でも、特にメモリの進化について言及。「メモリはここ20年間で劇的に安価になった。先日、HPは1ブレードに2テラバイトのメモリを搭載するブレードサーバを発表した。また、メモリは安くなっただけでなく、高速にもなっている。その結果として高速なデータ検索が可能となり、2メガバイトを2ミリ秒で処理できるほどだ」と説明した。
そのメモリを活用する同社のインメモリデータベース(DB)技術では、元データのカラムを10〜15倍の圧縮をかけてメモリ上に展開。「CPUも高速化したので、データを圧縮しても復元の時間がかなり短縮・高速化された。元データを10倍に圧縮するのでデータのほとんどはメモリ上に格納される。従って、ハードディスクやSSDへはほとんどアクセスせずセカンダリとして使っているだけで、データ処理はメモリとCPUとの間でほとんどが完結するようになった。その結果、現在行われているトランザクションを直接分析できる“真”のリアルタイム分析が可能となった」と現状を説明した。
また、シッカ氏はより高速なリアルタイム分析を可能にするため、リアルタイム分析に特化したアプライアンス「High-Performance Analytic Appliance(HANA)」を年内にリリースすると発表した。HANAは、HPとIBMのハードウェアを利用。さらに、パートナー企業20社と共同で開発を進め、年内にリリースするとした。
続いてのキーワードである「Reach」では、「All Devices」「All Developers」「All People」にリーチしたいとし、それを実現するためのプロジェクトとして「Project Gateway」を始動したという。
Project Gatewayはマイクロソフトと共同開発したもので、SAPの既存システムにアタッチすることで、モバイルデバイス上で動作するもの。既存システムにアタッチして利用するものの、スマートフォンなどすべてのデバイスでの動作を前提にしている。プロジェクト開始後、同社では早速アプリケーションの開発を開始。16時間後には最初のアプリケーションが完成し、その後現在までに650種類のアプリケーションが開発済みだという。シッカ氏は「既存システムをモバイル対応に変えられる非常に素晴らしい可能性があるものだ。今後も開発を続けていきたい」とコメントした。
また、同社が買収したCO2排出量管理技術ベンダのクリアスタンダード社のサービスをオンデマンド化した「SAP CARBON IMPACT ON DEMAND」を2010年7月にリリースすることも併せて発表した。
フランクフルトのシッカ氏の講演が終わり、場所をオーランドに移して登壇したのはSAPの共同創業者であるプラットナー氏。同氏は現在もSAPの監査役会会長を務めており、同社への影響力は強い。今回の基調講演では、インメモリDBを中心とした新しいDBの提案やiPad上でのBusiness ByDesignのデモなどを行った。
この新しいDBは、SAPが従来より開発していたオープンソースDB「MaxDB」をベースに開発したもの。まず同氏は、MaxDBの開発チーム体制について言及。SAPのDB開発チームは従来、世界各国の3チームに分かれて、それぞれが別々に開発を行っていた。同氏はそれを1つのチームに集約し、新しいインメモリDB作りを開始したという。
ハッソー氏は遠隔地で開発を行う際の問題として、横の連携が上手にとれず、それぞれの地域の開発者が勝手に違うベクトルの開発を進めてしまうケースが多いと指摘。連絡する際も、悪い部分は隠して良い部分しか伝えないようなケースもあるとした。同氏はその点を憂慮し、「新DB開発ではすべてをオープンにして、連携を重視して開発した。喜怒哀楽をすべて共有することがとても重要だ」と強調した。
このインメモリ型の新型DBは、シッカ氏が説明したように元データのカラムを10〜15倍圧縮してメモリ上に展開・処理するので、ほとんどのデータをメモリ上に展開することが可能となり、その結果としてほぼリアルタイムな分析・解析が行える点がウリだ。ハッソー氏は、従来のDBからこの新型DBへ移行する際の移行方法として、「リスクゼロの入れ替え方法」を提案した。この方法は、旧DBと新型DBを一時的に並列させ、移行期間を経たうえで、新型DBへ移行するというもの。
具体的には、まず「SAP ERP」「旧DB」「旧BI」の3つのシステムがあった場合、旧DBと並列して新型DBを配置。旧DBのデータを新型DBへ完全にイメージコピーする。「DBのイメージコピーはほとんどの場合で2時間程度で完了する。大きなDBでも4時間程度だ。イメージコピーすることでまったく同じ2つのDBが出来上がる」とした。
この方法であれば、基本的にDBが2つ存在するだけで、システムには何も変更を加えないので、リスクがほとんどないという。その後、「従来外側にあったOLAPエンジンを新型DBに組み込む」や「新しいBIと新型DBを直接結ぶ」といったステップを踏んで移行作業を進めることで、リスクを抑えつつ新型DBへ移行し、リアルタイム分析・解析が可能になるとした。
ハッソー氏は、この新しいインメモリDBとBusiness ByDesignを組み合わせ、iPad上で動かすデモを実施。売り上げに不自然な点があった場合、その部分を何階層もドリルダウンしてデータを解析し、原因を追究して解決する、というデモなどを行った。デモはオーランドで実施されていたため、フランクフルト側で途中音声が聞こえなくなるというアクシデントがあったものの、実データをリアルタイムで分析しながら原因を追究する際には、インメモリDBらしく非常に高速なレスポンスを実現していた。
ハッソー氏は、iPadのUIにも言及。「Business ByDesignでは、iPadの素晴らしいインターフェイスを損なうことなく、iPadの特徴をつかんだ使いやすいUIを実現している。『SAPのUIは使いにくい』とはもう言われないだろう」というジョークで会場を笑わせながら講演を締めくくった。
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