物流プロセスの標準化・共通化がグリーンSCMのキモグリーンSCM入門(3)(2/2 ページ)

» 2010年05月20日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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物流拠点を共有する「センター納品化」という方法も

 さて、以上は荷主や物流会社が主体となる取り組みでしたが、量販店をはじめ、「荷物の納品先」が主体となる取り組みもあります。その代表的なものが「センター納品」です。店舗サイドとしては、納品日は守ってもらうにしても、メーカーの都合で勝手な時間に店舗に納品されては、いちいち入荷業務に対応しなければならず効率的とは言えません。加えて、納品が立て混むと、店舗の周りにトラックが渋滞し、環境にも悪影響を与えてしまいます。

 そこで、周囲の道路事情にも配慮した納品専門の拠点――センターを設けることで、メーカー側には自由な時間に納品してもらい、製品をいったん蓄積し、そのうえで店舗ごとの納品スケジュールに合わせて個別配送するという仕組みが採られるようになりました。すなわち、「センターへの納品」と「店舗配送」を完全に切り分けることで、メーカーの納品スケジュールと、各店舗の配送スケジュールを両立させるわけです。これにより、トラックの無駄な待ち時間が大幅に減らせるわけですから、コスト、環境の両面において効果的と言えます。

 私も現在、商業施設におけるセンター納品化へのプロジェクトを支援中です。この施設では、各メーカー・卸の納品時間帯が重なるために、午前と午後に1回ずつ大渋滞が発生しています。しかも各メーカー・卸がそれぞれ個別のトラックで納品に来るため、トラック1台当たりの積載効率が悪いうえ、店舗側も都度荷受けのために人を割かねばならず、販売に専念できないという問題が生じていました。

 そこで「センター納品」を採用し、「センターまでの輸送」と「店舗への配送」を切り分けることで、その「両者を劇的に効率化しよう」ということになっています。その手段として、共同輸配送や、その1つであるミルクランなどが候補として挙がっています。つまり、ここまでに紹介した各施策はそれぞれ単独で行うものではなく、状況に合わせてどう組み合わせるかが、効果を狙うためのポイントとなるのです。

 また、今回は重要な部分を太字で示しましたが、これらのことを読み返すと、サプライチェーンを構成する各社の“連携力”がグリーンSCMのキモであることを、あらためてお分かりいただけるのではないでしょうか。

輸送モードの最適化でCO2を削減

 コスト削減や環境負荷低減を狙ううえでは、このほかにもさまざまな方策があります。例えば、以上は「運び方」を工夫するものでしたが、飛行機、船、トラック、鉄道など、「運ぶ手段」=輸送モードを選択することも大きな効果を発揮します。それがモーダルシフトという取り組みです。

モーダルシフト

 モーダルシフトとは「輸送モードの転換」のことです。輸送モードによって輸送スピードやコスト、環境負荷が異なることから、空輸を海運に変えたり、トラック輸送を鉄道輸送に変えたりすることで、コスト削減と環境負荷低減を目指す取り組みです。

 一般に、飛行機はスピードは速いが環境負荷が高く、船はスピードは遅いが環境負荷が低いとされています。鉄道は長距離輸送のスピードが速く、環境負荷も低いとされており、トラックは長距離になるほど環境負荷が高まる半面、納品先の軒先まで荷物を届けるうえで不可欠な存在と認識されています。これらの特性に配慮しつつ、自社のコスト削減、環境負荷低減目標に合わせて、最適な輸送手段を採用するわけです。

 例えば国内での長距離輸送なら、飛行機、トラックよりも、船や鉄道の方がコストと環境負荷の両面で有利なことは明白です。特に幹線輸送は鉄道に切り替え、鉄道輸送の起点までと、終点以降をトラックで輸送するパターンが注目されています。

 ただし、このモーダルシフトにも、なかなか難しいポイントがあります。 1つは納期、コスト、環境負荷のバランスを考えて、最適な輸送モードの組み合わせを考慮しなければならないことです。もう1つは輸送モードの結節点――「異なる輸送モードへの荷物の積み替え時」に発生するコストや時間など、細かな部分まで慎重に考慮する必要があるということです。そうしないとかえってコスト高になったり、輸送リードタイムが長くなったりしてしまいます。特に前者については、非常に精密な計算が必要であり、言葉で言うほど簡単なものではありません。

 また、「荷物が大量にあること」も前提になります。輸送モードを変えたところで、運ぶ量が少なければ、コスト削減、環境負荷低減について大した効果は期待できないためです。よって、モーダルシフトを実施できるのは、荷物が大量にあり、かつコスト的に余裕のある好業績の企業だけともいえるでしょう。その意味で、今後は物流会社が主体となって共同輸配送を計画し、複数の荷主の荷物を取りまとめたうえでモーダルシフトを行うパターンが期待されています。

SEA&SEA、SEA&AIR

 一方、モーダルシフトの考え方を生かした新しい取り組みとして、「SEA&SEA」「SEA&AIR」と呼ぶ施策があります。これは輸送モードを柔軟に変更し、常に最適なモードで輸送しようという考え方です。モーダルシフトは、切り替え後の手段を中長期的に活用することを前提としていますが、こちらは状況に応じて、短期的に、あるいはその都度、最適な手段に切り替えることが特徴です。

 まず「SEA&SEA」は、船と船を組み合わせて運ぶ方法を指します。例えば、日本は海に面しているために内航船輸送が発達しています。そこで中国から大量の部材を外航船で運び、港でコンテナを仕分けして、内航船に積み替えて国内輸送を行います。これにより、大量輸送を大幅に効率化することができます。

 「SEA&AIR」はそのときどきの状況に合わせて、船と飛行機を組み合わせる方法です。例えば通常時はSEA&SEAですが、納期が差し迫っている緊急対応時には、港で降ろしたコンテナを空輸して輸送リードタイムを削減する、といった形です。この方法は緊急輸送時だけでなく、ハイテク品など、製品ライフサイクルが短い製品を運ぶ際にも利用されています。実際、あるハイテクメーカーでは、コスト削減と環境負荷低減の両立を目指し、距離が短い中国から日本までの輸送は船で行い、日本からは飛行機で各国に輸送するというパターンを採用しています。

「多彩な施策をいかに組み合わせるか」がカギ

 さて、以上のように、物流プロセスにおけるグリーンSCMの施策は実に多彩です。これらのほかにも、環境負荷の低い梱包材に変えたり、繰り返し使える梱包材を用意することで廃材を減らす「通い箱」など、“地道な”取り組みが複数存在しています。

 また、回収した製品機器などから利用可能な部品を抜き取り、再生する作業を、物流プロセスの1工程に組み込むことで、回収品を製造拠点まで戻す必要をなくし、輸送距離を短縮化する「リサイクル物流の効率化」も注目されています。この場合、再生品のプール拠点を複数の地域に設置することで、エンドユーザーに再生品を届けるための輸送距離も短縮できることから、顧客満足度向上、環境負荷低減の両方に貢献できることがポイントです。

 むろん、前述のように、これらを実施するうえでは、それぞれを個別に行うのではなく、共同輸配送にモーダルシフトを組み合わせたり、すべての物流プロセスで環境負荷の低い「通い箱」を活用するなど、各施策をいかにうまく組み合わせるかがグリーンSCM成功のカギとなります。

 また、そうした体制は、前のページや、第1回『環境と収益を、連携力で両立するグリーンSCM』でも述べたように、荷主、物流会社、店舗など、サプライチェーンを構成する各企業間の協力・連携体制があって初めて実現できることでもあります。従って、物流に関する情報を関係各社で共有する仕組みや、エネルギーの効率使用を後押しする「エネルギー利用の見える化」を実現する仕組み、納期やコスト、環境負荷低減目標に合わせて最適な輸送モードを選ぶ仕組みなどが求められます。そうした部分で、ITシステムの活用が不可欠となってくるのです。

 次回は、これまでに紹介したグリーンSCMの各施策を実現するうえで必要となるITシステムについて解説し、本連載のまとめにしたいと思います。

Profile

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

サステナビリティ・コンサルティング

インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経てサステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手を中心に多数のコンサルティングを手がける。IE士補、TOCコンサルタント。『だから、あなたの会社のSCMは失敗する』(日刊工業新聞社)、『会社経営の基本が面白いほどわかる本』(中経出版)、『図解 SCMのすべてがわかる本』(日本実業出版社)、『中小企業のためのIT戦略』(共著、エクスメディア)など著書多数。



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