いま以上の効率化を狙うなら、環境意識を徹底しようグリーンSCM入門(4)(1/2 ページ)

グリーンSCMとは、サプライチェーンの運用効率化を追求した“結果”として実現できるようなものではない。その戦略からITシステムの活用まで、一貫して「環境負荷低減」を意識することで初めて、大きな効率化を約束してくれるものなのだ。

» 2010年07月22日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

「グリーンSCM用」のITシステムは存在しない

 これまで3回にわたってグリーンSCMの概念や取り組み内容を紹介してきた本連載ですが、今回は最終回として、グリーンSCMを支えるITシステムについて紹介したいと思います。

 まず、通常のSCMで使うITシステムをおさらいしておくと、以下のものがSCM運用の核となります。

  • BIDWH:サプライチェーンの運用計画を立案する際に過去実績などを分析する
  • SCP(Supply Chain Planning):販売/出荷データなどの過去実績を数理統計を使って分析したり、BIと連携して需要予測、販売計画、需給計画などの立案を支援する
  • スケジューラ:SCPで立案した各種計画を受けて、具体的な製造日程計画の立案を支援する
  • ERPMRP:スケジューラで立案した製造日程計画を基に資材所要量計算を行う

 このほかにも、産業用機械の動作制御を行うPLC(Programmable Logic Controller)、製品の品質試験データを分析するLIMS(Labo Information Management System)などが存在します。各システムの連携のし方については、以前執筆した「5分で絶対に分かるサプライチェーン・マネジメント―3分」をご覧ください。

 一方、グリーンSCMでは、開発、調達、製造、物流という各プロセスにおいて、以下のようなITシステムを上記のシステムに組み合わせることで、経済効率と環境負荷低減の両立を狙います。≫

図1 これらは通常のSCMでも使用するITシステムだが、環境負荷低減を狙ううえでも重要なシステムとなる。ただ、近年は最初から環境負荷低減を意識した機能を盛り込んだ製品も登場している

 ただし、これらは決して「グリーンSCM用」として開発されたものではなく、開発や製造、物流といった各業務プロセスを支援するシステムとして従来から使われ続けてきたものです。ただ、これらが提供する機能は、その“使い方”によって、業務の無駄を省き、環境負荷を低減するうえで、非常に重要な意味を持つようになるのです。では早速、各システムのグリーンSCMにおける役割を見ていきましょう。

「環境負荷低減」という目的意識が大切

 まず、商品開発段階で使用するPDM(Product Data Management)は、企画、設計、開発から製造、販売、保守に至るまでの製品情報を統合的に管理するための製品データベースです。グリーンSCMで使う場合、製品名や製品識別コード、価格などの情報に加え、使用原材料やサプライヤの企業情報(その会社との過去の取り引き実績や、その会社の環境問題への対応実績など)も含めて登録・管理します。

 こうした情報を登録しておくことで、カドミウムや鉛といった環境負荷が高い原材料を「開発に使用していない」ことを確実に管理するのです。商品の包装材や容器の原材料についても、リサイクル可能なものなど、最初から環境負荷が低いもののみを採用し、PDMに登録しておきます。

 一方、PDMから原材料のデータを引き継いで、購買業務用のデータを構成するのが購買カタログデータベースです。環境負荷が低い製品を開発するためには、開発段階で、環境の負荷の低い原材料や、そうした原材料を安定的に供給できるサプライヤを選別するわけですが、開発プロジェクトが発足するたびに、環境負荷が低い原材料やサプライヤをいちいちゼロから選んでいたら、膨大なロスにつながってしまいます。そこで、そうした原材料の品目データをカタログ化(マスタ化)することで、いつでも“カタログ”の中から効率的に選定、購買できるようにしておくのです。

 また、グリーンSCMとは、「ある企業の」「ある部門だけが」「あるプロセスだけで」環境負荷低減を狙うものではなく、サプライチェーンにかかわる各社、各組織が連携し、その全業務プロセスにわたって環境負荷低減を狙う“総合的な取り組み”だと解説しました。従って、サプライチェーンの運用だけではなく、その運用を担う関係各社の「企業活動そのもの」も環境負荷低減の対象に入れる必要があります。

 この点で、文具、什器、PC、事務機器、消耗品など、製造活動とは直接関係のない間接財についても「購買カタログデータベース」に登録する必要があります。こちらもリサイクルパルプの配合率が高い紙や、リサイクル可能な什器、消耗品、省電力のPCや事務機器などを、随時、効率的に選別、購入できるよう、社内でカタログ化しておきます。

 一方、製造段階では、スケジューラで決めた計画に基づいて製造指示と、その実績収集を行うシステム、MES(Manufacturing Execution System)を使います。これで収集した製造実績データを基に、製造設備の稼動率や製造品質を振り返り、業務の効率化や省エネを推進します。

 例えば、工場での製造設備について、「電源を入れたまま、長い間アイドル状態を続けていないか」「設備不良で不良品を垂れ流し、原材料とエネルギーを無駄にしていないか」といった情報をチェックし、必要に応じて改善します。MESとは製造現場のQCD(Quaility:品質/Cost:コスト/Delivery:納期)の管理・改善の要となるシステムなのですが、ここに「環境」という視点を加えるわけです。

 むろん、このMESについても、あくまで製造現場の業務効率化を推進するためのシステムであり、グリーンSCMには「使い方によっては貢献できる」というものに過ぎません。ただ最近では、CO2排出量や使用電力を測定する機能を搭載するなど、環境負荷低減を視野に入れたMESも登場しているようです。

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