いま以上の効率化を狙うなら、環境意識を徹底しようグリーンSCM入門(4)(2/2 ページ)

» 2010年07月22日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]
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“グリーンSCM用”にし得るか否かは、ユーザーの使い方次第

 さて、以上のように、グリーンSCMに活用できるシステムはさまざまありますが、重要なポイントは、本来の「業務効率、コスト効率を向上させる」ための機能を「環境負荷低減」という目的にも適応させるために、ユーザー側の「工夫」や「目的」意識が強く求められるという点です。そうした傾向は、以下で紹介する物流支援システムにおいても同様です。物流支援システムは種類が豊富なのですが、ここでは中でも代表的なものだけをピックアップしました。

求貨・求車(船)システム

 前回も説明したように、トラックや船などは目的地に荷物を運んだ後、帰り便の荷台・船腹を空にしてしまうと、帰りは空気を運ぶことになり、業務効率、環境負荷ともに悪化させることになります。また、メーカーが店舗などに荷物を送りたいとき、自社の倉庫・拠点の近くに稼動可能なトラックや船があるのに、その情報がないがために遠くから呼び寄せていたのでは、コストとCO2排出量を無駄に増加させてしまいます。

 これを解消するために、物流会社側には「いつ、どの車両(船)が空いているのか」という情報を、荷主側には「いつ、どこに、どんな荷物を、どれだけ運びたいのか」といった情報を開示してもらい、その両者をマッチングさせて、最適なトラック・船を割り当てるのが求貨・求車(船)システムです。

 このシステムは、物流会社、荷主以外の第三者組織が所有し、Webサイトを通じてマッチングサービスとして提供するスタイルが一般的です。サービスの提供スタイルには大きく分けて2パターンあり、1つは、「会員登録をした事業者がWebサイト上で情報を登録し、それらをサービス運営組織側がマッチングするクローズ型」、もう1つは「荷主と物流会社が掲示板に書き込むことで情報を共有し、両者が自らマッチングを図るオープン型」です。

 ただ、いずれの場合も輸送ニーズや提供車両・船舶に関する諸条件をマッチングし、整理することはシステムが行いますが、最終的な判断は人が行うことがポイントです。また、このシステムをグリーンSCM用途で使いこなすためには、条件の合う物流会社を選ぶ以前に、例えば「輸送回数を最小限に絞る」など、荷主側に「環境負荷を考慮に入れた無駄のない輸送計画」が用意してあることが前提になる、ともいえます。グリーンSCMに役立てられるか否かは、やはりシステムを使うユーザーに懸かっているのです。

最適ルート探索システム

 渋滞を避け、最短距離、最短時間で荷物を届けるために、地図データやGPSによる渋滞情報などから、最も合理的なルートを割り出すのが最適ルート探索システムです。ただ、このシステムは欧米では広く使われているものの、日本の場合、欧米に比べて輸送距離が短いほか、道路が複雑に入り組んでおり、予想しにくい渋滞が日常的に発生しがちなこともあって、導入事例はさほど見られません。

 これには、各地域における“地場輸送”については、その地域の土地勘が求められるため、ドライバー個人の判断に任せた方が効率的、という事情もあります。日本では、システムを使って最適化計算をするよりも、ドライバーがGPSでリアルタイムの渋滞情報を入手し、それに基づいて自主的に判断するスタイルの方が現実的なのです。ただ、グローバル規模でビジネスを展開しているケースではよく使われている、メジャーなITシステムといえます。

運行管理システム

 トラックの運行状況を記録、分析し、運行効率を上げるためのシステムです。トラックでは、効率化に向けて運転状態を分析できるよう、運行速度を折れ線グラフ状に記録する「タコグラフ」という機器が広く使われてきました。近年はその技術が進化し、「デジタルタコグラフ」が使われるようになっています。

 これは、トラックの速度だけではなく、位置情報やエンジンの回転数、エンジンのON/OFF、さらには急発進、急停止、無駄なアイドリングなども記録可能としたものです。これを基に各車両の運行状況を管理・分析することで、環境、経済効率の両面で、より効率的な配車の在り方、運行方法を導き出すのです。

 なお、このシステムについては、最初から「経済効率と環境負荷低減の両立」を狙って開発された製品が多く、物流業界では、ある意味“環境対策を象徴するシステム”としても認知されています。それを受けて、CSRの一環として、この機器を導入していることを社外にアピールしている物流会社も数多く見受けられます。

環境を意識して初めて見えてくる「永続的な効率化」

 以上のようにグリーンSCMに役立つITシステムはさまざま存在します。ただ、これらのすべてにおいて、グリーンSCMに役立てるためにはユーザーが「環境と効率の両立」という目的に基づいて、“意識的に”その機能を使いこなす必要があるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。主役はあくまで「人」であり、何より大切なのは「目的意識」なのです。

 そしてこのことは、むろんITシステムの活用だけではなく、まさしくグリーンSCMという戦略そのものを成功させるための鉄則でもあります。

 第1回で詳しく述べたとおり、グリーンSCMは、「自社の経済効率」だけを考えていては実現できません。「サプライチェーンという仕組み全体で環境負荷を下げる」ことができてこそ、一時的ではない、永続的な効率化が果たせるわけですから、サプライチェーンにかかわる各企業間の積極的な協力体制が不可欠となります。

 環境負荷の低い原材料を使うためにはサプライヤの協力が必要ですし、効率的な輸送を行うためには、荷主と物流会社の情報連携と業務連携が必須です。空いている車両や船を有効活用するためには、物流会社と荷主間で情報を開示しなければなりません。

 しかし、各プレーヤーが「サプライチェーンという仕組み全体で環境負荷を下げる」という目的を理解せず、「環境負荷低減は効率化の結果」としかとらえていなければどうでしょう。各社とも「自社の経済効率向上」しか考えないはずです。つまり、グリーンSCMに向けた各社間の連携体制は、「目的を共有し、意識的に取り組む」という戦略実行の“基本スタンス”に忠実であって初めて実現できることなのです。


 さて、4回にわたってグリーンSCMの概念と方法論を解説してきましたが、いかがだったでしょうか。昨今、「グリーンSCM」という言葉は、メディアにおいては以前ほど取り上げられなくなりましたが、その認知度は着実に高まっています。実際に取り組み、効果を上げている企業も増えつつあり、今後はより多くの企業にとって“現実的な検討課題”となっていくはずです。

 とはいえ、以上のような協力体制を築き、全体最適を図ることは、確かに非常にハードルが高い取り組みといえます。特に経済状況がひっ迫し、各社とも余裕がない昨今、「ある会社のあるプロセスが、従来よりもかえって非効率になる可能性もある」ことも折り込み済みで、各社を調整し協力体制を築くのは非常に難しいことといえるでしょう。

 しかし、そうした現実を見据えながらも、ぜひもう一度、自社のサプライチェーンの運用体制を見直してみてほしいのです。多くの企業は、これまでも熱心に効率化やコストカットに取り組み、あらゆる手立てを尽くしてきたことと思います。では今後はどうでしょうか? 従来と同様、自社だけの取り組みで、また「経済効率向上」という視点で、実際に効率化できる余地は、あとどのくらい残っているでしょうか? そして、その効率化策は、どれほどの期間にわたって、どれほどの効果を生み出せるものなのでしょうか?――

 ぜひ本連載をもう一度最初から読み返してみてください。そして自社を取り巻く状況と照らし合わせながら、グリーンSCM実現の可能性を、具体的に検討してみてください。取り組みのハードルは確かに高いのですが、その壁の向こうには、「環境」を意識しない限り絶対に見えてこない “永続的な効率化”の大きな可能性が広がっているのです。

Profile

石川 和幸(いしかわ かずゆき)

サステナビリティ・コンサルティング

インターネット・ビジネス・アプリケーションズ

大手コンサルティングファームであるアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)、日本総合研究所、KPMGコンサルティング(現ベリングポイント)、キャップジェミニ・アーンスト&ヤング(現ザカティーコンサルティング)などを経てサステナビリティ・コンサルティングインターネット・ビジネス・アプリケーションズを設立。SCM、BPR、業務設計、業務改革、SCM・ERP構築導入を専門とし、大手を中心に多数のコンサルティングを手掛ける。IE士補、TOCコンサルタント。

など著書多数。



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