ITマネジメントの本質を知る ―プロローグ―IT担当者のための業務知識講座(1)(1/2 ページ)

企業経営におけるITの重要性が高まるにつれ、情報システム部員やベンダのSEといったIT担当者は、もはや単なる「ITオタク」では通用せず、利用部門の最低限の業務知識が不可欠といえる。本連載では、IT担当者が把握しておくべきさまざまな業種、部門の業務を解説する。

» 2010年06月07日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]

 システムベンダのSEやユーザー企業の情報システム部員といったIT担当者は、一般的にユーザー部門での業務経験が多くありません。そのため、業務システムの企画開発や運用支援においてユーザーニーズを適切に理解できない事態が少なからず起きているのではないでしょうか。システムベンダ、ユーザー企業の双方に求められているIT要員像は、業務が分かるシステムエンジニアです。あるいは、ビジネスエンジニアといっても過言ではないでしょう。

 本連載では、IT担当者にとっていかに業務知識が重要であり、業務知識を持つことによってITによるビジネス革新の機会がいかに多く存在するか述べていきます。業務知識を習得するという取り組みは、IT要員が将来、情報システム部長やCIO(最高情報責任者)、あるいはシステムコンサルタントを目指すうえでも不可欠となるのです。企業経営者が求めるIT要員はシステムのことだけが分かる、あるいは仕様どおりにプログラムが組めるといった限定的な専門技術者ではありません。製造部門や検察部門などと同じように、技術監理やプロジェクトマネジメント、戦略参画などができる上流、さらには超上流SEと呼ばれるような人材なのです。

 本連載では、ITおよびITマネジメントの概念、IT業務とは何かといった点について深く触れませんが、前提知識としてITの歴史的な背景について簡単に述べておきます。詳しくは、拙著『ITマネジメント−モデリングと情報処理によるビジネス革新−』(杉浦司=著、関西学院大学出版会)を併せてご覧ください。

ITとは何か

 1946年に米国のペンシルバニア大学で世界最初の電子計算機であるENIAC(エニアック)が生まれました。ENIACは1万8800本の真空管が装備されるという巨大なシステムで、建物の一部屋全体を占めるほどでした。ITが業務のコンピュータ化を意味するのであれば、ENIACは明らかにITと呼べるでしょう。しかし、この時代にITという言葉はなく、実際にこの言葉が使われるようになったのは、インターネットや携帯電話が急速に普及した1990年代あたりではないでしょうか。従って、インターネットなどの登場によって、劇的に変わったことを考えてみれば、「ITとは何か」についての答えが見えてくるはずです。

 先に結論を言うと、ITとは「現実を投影し情報処理する技術」と定義できます。現実を投影するという点では、紙で書かれた地図やレストランのメニューも当てはまりますが、「Googleマップ」や拡張現実(AR)アプリケーション「セカイカメラ」では、さらにその場所を訪れた人のコメントを世界中からリアルタイムで反映させるという情報処理までできるという点にあります。

 逆に言えば、いかに高度な情報処理ができようとも現実を適切に投影できていなければ役に立たないどころか、現実を見誤る危険性もあるのです。見栄えがよく高機能な業務システムをいかに構築、導入しようとも、現実の業務とうまく結び付いていなければ使い物になりません。このことが本連載の論点です。

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