人間関係とやる気の問題は、こうすれば解決できるITユーザーのためのメンタル管理術(3)(2/3 ページ)

» 2010年06月29日 12時00分 公開

エゴグラムで心を「見える化」する

 こうした5つの心のバランスを、より客観的に知る方法があります。それが「エゴグラム」という方法です。まず、あらかじめ用意された50問ほどの質問に回答し、その回答ごとに設定された点数を集計して、「5つの心」それぞれの合計点数を出します。それを基に5本の棒グラフを描いて棒の頂点を線で結びます。これにより、自分の心のバランスを折れ線グラフのような形で可視化できるというものです。

 以下に私が所属するNIコンサルティングが使用しているエゴグラム質問シートとグラフ用フォーマットを用意しました。ぜひトライしてみてはいかがでしょうか。

【参考リンク】

エゴグラム質問シート(NIコンサルティング編集)。なお、弊社代表の長尾一洋が著した書籍「社員の見える化」(中経出版/2010年6月)、長尾と筆者の共著の「見える化コミュニケーション」(あさ出版/2010年1月)にも関連した記載がありますので、ぜひ併せてお読みください。

 ただ、エゴクラムの魅力は「自分の心の特性のバランス」が分かるということだけではありません。前頁の図1を見ると、Critical Parent(批判的な親)なら「道徳的」「評価的」といったように、心の各特性を“象徴的な行動特性”を使って説明していることが分かると思います。このためグラフで可視化された心のバランスが、そのまま自分の「普段の行動傾向」を現すものにもなっているのです。

TA 図2 エゴグラムを使えば、自分の心の特性と、そこから生じる行動特性を可視化できる。自分の心は5つの特性のうちどれが強く、どれが弱いのか、客観的に分析してみよう

 すなわち、エゴグラムとは、心の傾向=行動傾向を認識することで、性格(心の特性と、そこから生じる行動特性)を変えていく手掛かりとすることができる点に、真の意義があるというわけです。

エゴグラムから行動傾向をつかむ

 なお、棒グラフは図2のように左から、Critical Parent、Nurturing Parent、Adult、Free Child、Adapted Childの順に並べるわけですが、まず大きくParent、Adult、Childの3つでバランスを見ると、大体の傾向をつかむことができます。例えば、左側が高くなる人=Parentの特性が強い人は「他者関心型」、右側が高くなる人=Childのエネルギーが高い人は「自己関心型」といえます。

 普段の会話でもParent優位の人は「○○さんは〜」「君は〜」など、自分以外を主語にして話すことが多いのではないでしょうか? Child優位の人は「私は○○が好き(嫌い)」「ねえねえ、聞いて!」「なんで僕が……!」など、自分を主語あるいは主体にした話し方や感情表現をすることが1つの特徴です。

 次はCritical Parent、Nurturing Parentのバランスを見て、「人に厳しく接するタイプ」か、「支援的に接するタイプ」かを把握します。同様に、Free Child、Adapted Childのバランスから、「自分の感情を素直に出すタイプ」か、「人を優先するタイプ」かを判断します。

 ここでポイントになるのがAdultです。あなたのAdultは、ほかに比べて高いでしょうか? 低いでしょうか? AdultはParentとChildの意見を統合し、そのときどきの状況に応じて「どのような行動を取るべきか」の判断を下す役割を担っています。ですから、Adultを上手に働かせることが、状況に応じて5つの心を使い分け、上手に性格を変化させていくための最大のポイントとなるのです。

 また、Adultは問題解決を担うため、Adultが高ければ適応力が高いということでもあります。よって、Adultを高めるよう意識すればストレスも軽減できるなど、Adultという特性は「働く」ということにおいて、非常に大きな意味を持っています。

 ただし、Adultは感情に流されず、冷静かつ客観的なことが特徴であるために、Adultばかりが突出していても問題かもしれません。というのは、ほかの自我状態――Parent、Childを使えず、常にAdultの自我状態でいると、感情表現に乏しく、常に計算で動く状態であるため、周囲には「付き合いが悪い」「打算的」といった印象を与えてしまうのです。つまり、豊かな人間関係を築いていくための“理想”は、Adultを上手に働かせて、5つの心をバランスよく使えるようになることにあるのです。

相手の反応を予測して、人間関係を改善する

 さて、以上のようにエゴグラムの設問に答え、グラフ化することで、普段の自分の行動特性がよく分かるかと思います。では、このように自分の心の特性――行動特性を把握することが、日常的なコミュニケーションにおいて、具体的にはどのように活用できるのか、“性格を変え、人間関係を改善するコツ”をここで伝授しましょう。

 ポイントは、5つの心、すなわち「どの自我状態」がメッセージを発しているかによって、相手の反応が予測できることにあります。例外はありますが、8割〜9割のやり取りにおいて、これからご紹介する「対人反応」の傾向が当てはまるとされています。

 例えば、会社に怖い上司はいらっしゃいませんか? もしくは、仲間内にリーダーシップが強いタイプはいませんか? そういう方はCritical Parentの自我状態が高い人です。

こういうタイプの人に対しては、周りの人間は従順になったり、行き過ぎると萎縮したり、合わせたり――すなわち、Adapted Childで接しがちになりますよね。つまり、Critical Parentからのメッセージには、相手のAdapted Childの部分が反応しやすいといえるのです。

 ではNurturing Parentからメッセージを出すとどうでしょうか。優しく微笑む表情はNurturing Parentの特徴です。そんな表情で気遣ってもらい「困ったことがあったら言ってね」と言われたら、素直に何でも話してしまいそうですよね。つまり、Nurturing Parentからメッセージを出すと、“自由な子供”――Free Childが反応しやすいわけです。

 次に、同僚と会話を楽しんでいるとき、つまりFree Childの自我状態が強くなっているときに、「○○さん、午後の会議の件なんだけど……」と話し掛けられたりして、急に「まじめモード」に引き戻された経験はありませんか? つまり、Adultからのメッセージには、相手の心においてもAdultが反応しやすいのです。

 このほかにも、Free Childから「お願い! 手伝ってぇ〜」などと言われると、Nurturing Parentが「仕方ないなぁ」と反応してしまう、「だから僕はだめなんだ……」「どうせ私なんて……」とうじうじと言い続けられると、「いい加減にしなさい」「落ち込んだって仕方ないでしょ!」と言いたくなってくる――つまり、強すぎるAdapted ChildはCritical Parentを刺激するといった傾向が存在します。

 周囲の人との会話を思い出してみてください。自分が持つ5つの心が、相手にどんな投げ掛けをされたかによって、バランスを変えて反応していることに気付くはずです。また、楽しいことを考えているとき(Free Childが強い状態)、翌週の計画を立てているとき(Adultが強い状態)など、同じ自分なのに、状況によって使っている自我状態がまったく違うことにもお気付きになるのではないでしょうか?

 すなわち、“性格を変え、人間関係を改善するコツ”とは、以上のような“予測”や“発見”を基に、「あの人はこうメッセージを出すと、こう返してくる」「自分はこうメッセージを投げ掛けられるとこう返す傾向がある」といった手掛かりを把握し、それを基に周囲とスムーズな関係を保てるよう、自分の心の特性=行動傾向をコントロールしていくことにあるのです。

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