人間関係とやる気の問題は、こうすれば解決できるITユーザーのためのメンタル管理術(3)(3/3 ページ)

» 2010年06月29日 12時00分 公開
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プロジェクトチームのやる気も科学的に引き出せる!

 さて、以上のように、5つの心を状況に応じて使い分けることが豊かな人間関係を築くポイントになるわけですが、問題は、自分の意思に反して「どうしても上司の前では委縮してしまう(Adapted Childが強くなる)」「どうしても部下を頭ごなしに叱ってしまう(Critical Parentが強くなる)」といったことが往々にして起こりがちなことです。つまり、親子、友人も含めたあらゆる人間関係において、いつの間にか自我状態が固定した関係になってしまい、居心地が悪く感じる状況に陥っていることがよくあるのです。

 こうしたとき、相手に「気付いてほしい」と願うばかりでは何も解決しません。原因は、自分の心がその自我状態に固定されていることです。状況を打開するには、先に紹介した“他人の反応予測と、発見した自分の特性”を手掛かりに、自分の自我状態を思い切って変えてみることが1番効果的なのです。

 例えば、自身のCritical Parentが強く、「いつも部下が萎縮して自分の意見が言えない状況に陥り、ミーティングも説教で終わってしまう」という場合には、意識的にNurturing ParentやAdultを使って「どうすればできるかな?」「○○さんの意見が聞きたい」などと発言してみましょう。部下の自我状態を身動きの取れないAdapted Childから、徐々に論理的なAdult、ノビノビとして自由なFree Childに戻していくのです。

 そうして考えを引き出せたら、「だったらやってみたらいいじゃない!」「○○さんならできると思うよ」とNurturing Parentで後押ししてあげましょう。自由で活動力を発揮するFree Childが刺激され、部下は生き生きと仕事に取り組んでくれるはずです。落ち込んだ同僚や友人を励ます際も同様に、Nurturing ParentやFree Childを上手に使って、相手のFree Childを刺激してあげると良いでしょう。

 協調性のない部下(Adapted Childが低い)に対しては、「周りを見なさい!」「やるべきことを期限内にやりなさい!」などとCritical Parentから叱ることも必要でしょう。その部下がもともとFree Childが高いタイプであれば、少々怒られても問題ない場合が多いはずです。

 ただし、その部下がもともとAdapted Childが高いタイプである場合、Critical Parentで接すると相手を萎縮させたり、反抗心、反発心を持たせてしまいますから、上司の立場にある人は普段から1人1人の部下のタイプを把握し、きめ細かく配慮することが求められます。部下のタイプは十人十色。同じように何かを伝えたとしても、皆が同じように受け取ってくれるわけではありません。開発プロジェクトなどを円滑に進めるためには、1人1人の性格に合わせてメッセージを出して、相手が行動を取れる、取りやすくなるようにサポートしてあげることが大切です。

 ただ、上司の立場にあるとはいえ、1人の人間である以上、そのときどきの感情はついつい表情や口調に表れてしまうものです。こういうときはITツールを上手に使いましょう。

 例えば、たまたまその日は機嫌が悪く、一定の成果を上げた部下を口頭で褒めてあげるような気分になれない場合は、電子メールやグループウェアなどを通じて、

「よくやった!! 私もうれしいよ」(Nurturing Parent→Free Child)とメッセージを送るのも手です。

 逆に、自分自身が仕事で疲れており、人を怒るような気分にもなれないときには、「随時、状況を報告をするように!」(Critical Parent→Adapted Child)と自分の感情をコントロールして相手に響くメッセージを送ります。ITツールによるコミュニケーションは、言葉足らずにならないよう注意が必要ですが、自分や相手の心の状態を見極め、特定のメッセージをあるべきニュアンスで正確に伝えるうえでは、非常に有益といえます。

意識的に“練習”すれば、行動は変えられる!

 では最後に、“あるべき自分”に近付くための方法を紹介しましょう。冒頭で述べた“あいさつをためらってしまう”ような問題も、これによって改善できると思います。

 まず、以上のように、自分と周囲の心の特性=行動特性を分析し、“普段のコミュニケーションの傾向”を把握したら、「自分が気持ちよく仕事や生活をしていくために」、あるいは「よりスムーズな人間関係を築くために」、もしくは「より良いプロジェクトチームへと育てていくために」といった目的に応じて、「自分はどの自我状態を高めるべきなのか」を考えてください。あとは、高めたい自我状態を意識的に使うようにするだけです。そうすれば、おのずとその自我が強くなっていきます。

 ただ、強くなるまでの過程ではエネルギーを要します。というのも、利き手と反対側の手で字が書きにくいのと同じように、普段使っていない自我状態は、急に使おうと思っても違和感が強く、すぐにはうまく使えないものなのです。例えば、Nurturing Parentが低い人が支援的に人と接しようとしても、上手に優しい言葉を掛けられなかったりしますし、Critical Parentが低い人が遅刻した部下を叱ろうとしても、ついつい甘くなりがちです。

 同様に、Free Childが低い人は、みんなで飲みに行ってもはしゃぐことができなかったり、Adapted Childが低い人は、人に合わせたり、一歩引いたりすることができなかったりします。Adultが低い人は、論理的、客観的に状況を見ることが苦手なため、感情に振り回されたり、自分の価値観を押し通してしまったりしがちです。要はおけいこごとと同じで、コツコツと練習することが大切なのです。

 以下にそれぞれの自我状態を高めるための“練習メニュー”――心掛けるべき行動例をまとめてみました。何か1つ、具体的に取るべき行動を決めて継続して練習してみてはいかがでしょうか?

  • Critical Parentを高める→嫌なことは「No」と言う、きちんと叱る、目標を掲げる
  • Nurturing Parentを高める→後輩の面倒をみる、動物を飼う、周りに気を配る
  • Adultを高める→日記を書く、新聞を読む、物事を客観的にとらえる
  • Free Childを高める→感情を素直に出す、趣味の時間を作る、スキップをしてみる
  • Adapted Childを高める→人の意見を最後まで聞く、相手を優先する

 行動を変えやすくするために、仲の良い人に宣言するのもよいですね。ある女性は「Free Childを高めたい」と、「カラフルな洋服を着る!」「後輩をカラオケに誘う!」と宣言し、数カ月後に会ったときには、本当に明るく元気な表情になっていました。行動から心を変えていくことは可能なのです。また、「心を意識する」だけでも、状況を客観的に見るAdultを使うことになりますから、コミュニケーション能力は必然的にアップします。

 常日ごろから自分の心と向き合い、5つの心を上手に使い分けられるようになれば、ストレスは減り、周囲の人に対して興味がわき、人間関係も良くなり、チームの業務はさらにスムーズに回り始めるはずです。ぜひ自分の変化を楽しみながら実践してみてください。


 次回は、物事への取り組み姿勢を左右する「人生への構え」についてお伝えします。

著者紹介

小関由佳(おぜき ゆか)

NIコンサルティング コンサルタント。 広島大学大学院教育学研究科修了。教育心理学の研究を活かし、NIコンサルティングにて人事、採用、教育企画などに取り組み、その一環としてTA(交流分析)やNLP(神経言語プログラミング)を中心とした心理学の研究、活用を行う。特に自身の「ストローク理論」をIT日報に活用した「日報ストローク」、IT日報のコメントで上司と部下のコミュニケーションを分析する「コメント交流分析」、リフレーミング手法を日報に応用した「日報GOOD&NEW」は、心理学の企業組織への適用手法として注目を浴びている。


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