要求を引き出し、情報を整理しようBABOK 2.0を読んでみよう(5)(2/3 ページ)

» 2010年07月01日 12時00分 公開
[後藤 章一 (豆蔵),@IT]

インタビューと観察

●インタビュー(Interview)

 インタビューというと、質問項目を順番に確認していくイメージがありますが、BABOKガイドはインタビューの種類を「質問を決めたインタビュー」と「質問を決めないインタビュー」の2つに分けています(表3)。

インタビュー種類 内容
質問を決めたインタビュー(構造的インタビュー) 質問者は事前に準備された定型的な質問内容に従って質問する 収集したい情報を得るために設計された質問を行うことで、効率良く必要な情報を得ることができる半面、想定しない情報を広く得ることは難しい
質問を決めないインタビュー(非構造的インタビュー) 質問者と回答者で自由な対話形式によって質疑を行うこれにより、型にはまらない広い範囲の情報を収集できる半面、1回のインタビューに掛かる時間や負荷が大きくなる
表3:インタビューの種類

 質問自体も「限定質問」と「拡大質問」という形式を提示しています(表4)

インタビュー種類 内容
限定質問(クローズドな質問) 回答者に対して、「YesかNo」などあらかじめ準備された選択肢を提供して回答してもらう形式の質問 選択するだけなので回答者の負担は軽減され、結果の集計が比較的容易となる半面、回答者が考える通りの選択肢がない場合、真の課題やニーズが得られない可能性がある
拡大質問(オープンエンドな質問) 回答者自身が自由に回答を提示する形式の質問 回答の範囲を狭めることなく、回答者が考えている内容を広く得ることができる半面、回答内容を考えるために回答者へ負担が掛かり、結果の集計負荷も高くなる
表4:質問の形式

 一般的に、非構造的インタビューでオープンエンドな質問を行うと、よりバイアスを排除した回答者の考えを得られます。しかし、これらは難易度が高いため、質問者に求められるスキルレベルも高くなります。筆者も顧客への要求インタビューでオープンエンドな質問をするつもりが、ついつい「Yes/No」で答える質問しかできていない場合があります。

 その対処法としては、「5W1H」を意識して質問することが挙げられます(図2)。オープンエンドな質問をする場合は、このような手段を使うなどして、回答者の考えをそのまま引き出すことに意識的である必要があります。

ALT 図2:「5W1H」によるオープンエンドな質問

 どのような形式をとるにしても、情報を得る目的や質問者のスキルレベル、回答者への負荷などを勘案してインタビューの方法を設計するべきでしょう。

●観察(Observation)

 観察は、担当者の日々の業務を実際に観察することで、ビジネスアナリストが業務内容を具体的に把握し、問題点を明らかにしていくテクニックです。BABOKガイドでは、観察のアプローチを「受動的」「能動的」の2つに分類しています。

観察アプローチ 内容
受動的(パッシブアプローチ) 観察中に業務担当者と一切やり取りせず、ただ静かに業務内容を観察するというアプローチ。業務担当者に確認したいことがあっても、業務が終了するまで待つことになる。観察者は業務のありのままを把握することができる半面、リアルタイムに効率的な質疑応答ができない
能動的(アクティブアプローチ) 観察中に業務担当者に随時質問や確認を行い、業務内容に関する理解を深めていくアプローチ 観察者は効率良く業務に関する情報を得ることができる半面、日々の業務の流れが妨げられ、あるがままの姿を観察することができなくなる
表5:観察のアプローチ

 例えば、顧客契約などの機密情報を部署間で連絡、承認するような業務において、手順の順守度合いや安全性を確認するためには、業務を妨げないパッシブアプローチを選択すると良いでしょう。

 一方、受注書類の選択や対応部署とのやり取りの実態を確認するためには、アクティブアプローチを選択して適時質問することで、担当者の判断内容など、ただ観察するだけでは分からない情報を効率的に引き出せるかもしれません。インタビューと同様、目的や業務の性質によって、どのアプローチをとるか決めることが肝要でしょう。

 こうしてみると、「引き出し」は必ずしもビジネスアナリシス特有の活動というわけではなく、マーケティング業務など広範な分野で活用されてきた情報収集のテクニックが織り込まれています。読者の皆さんがシステム開発プロジェクトで、顧客やユーザーなどにヒアリングする際にも参考になるはずです。

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