クラウド時代に向けて、情シスの在り方を見直せERPリノベーションのススメ(9)(2/3 ページ)

» 2010年07月29日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]

何が無駄で、何が必要なものなのか、明確な基準を!

 以上を受けて、I社では「ITコスト構造」と「情報システム部門の組織体制」を抜本的に見直すために、事業仕分けならぬ、「業務とシステムの仕分け」を断行しました。

 まず、システムの仕分けを行って判明したのは、「既存システムの維持に過剰な作業負荷が掛かっていた」ことです。

 I社では経営や事業部門のユーザーからの要望で、毎年何らかの新規システムを導入し続けていました。その開発の大半をベンダ任せにしており、当然、運用もベンダに頼っていました。また、自社の情報システム部門の要員は、人数に限りがあることから、多くの場合、1人で複数台のシステムを掛け持ちして管理していたのです。

 システム運用に関する知識・ノウハウの面にも問題があることが分かりました。まず、情報システム部門の要員は、 既存システムについて運用を中心とする断片的な知識しか持っていませんでした。また、50あるシステムのうち、自社の要員がその開発段階からシステムの全体像を把握しているものは10システム程度に過ぎませんでした。加えて、若手の要員は既存の運用サポートに追われ、新規システムの開発経験がない要員が約半数に上るという事実も発覚しました。これにより、熟練要員の退職が迫っていながら、「若手と熟練者の経験・ノウハウの格差が圧倒的なまでに拡大している」ということも分かりました。

 言ってみれば、ユーザー部門に求められるがままにシステムを作り続け、それらを保有し続けるという“構築・運用の在り方自体”が、IT費用の増大と情報システム部門の弱体化を招いていたのです。

 さて、以上のようにIT資産の棚卸しと、業務とシステムの仕分けを行った結果、 「構築・運用の在り方」という、無駄なIT資産が多い、運用負荷が高いという問題の“真因”をつかんだI社ですが、これをどう解決していくのでしょうか? 再び事例に戻りましょう。

事例:棚卸しと仕分けで構築・運用を効率化したI社〜解決編〜

 その後、I社では社長の下、景気回復をにらんだ中期事業計画が策定された。これに連動して、情報システム部門でも中期IT戦略計画を策定することとなった。

 そこで情報システム部門では、全システムについて「システムと運用業務の仕分け」を行った結果に基づき、クラウドコンピューティングや仮想化といった新しい技術を積極的に利用することを決めた。先行企業などの事例を踏まえたうえで、作業優先度の高い老朽化したシステムから、社外のクラウド環境に載せ替えることにしたのである。

 狙いは運用負荷の最小化と、既存システムの積極的な置き換えを通じて、若い要員のシステム構築経験を増加させることにあった。「ノウハウの継承は既存システムの運用だけでは難しく、新規開発を通じてのみ可能である」と判断したのである。クラウドサービスの進展によって“社外から調達する”トレンドが重視され、多くの企業の情報システム部門が「システム戦略企画」や「システム調達」の教育に注力する中、I社では現状調査の結果を踏まえて、クラウド化が話題になる以前まで最重要視されていた「システムの開発スキル」を身に付けさせる道をあらためて選んだのであった。

 こうした判断により、人件費、開発投資ともに増加することになったが、経営層は2つの理由からこれに理解を示した。1つは「ベンダ依存度が高いシステムは、急激な市場環境変化に柔軟・迅速に対応するうえで問題がある」こと。もう1つは、「情報システム部門の本来の役割は、企業の差別化を生むコア事業を、IT技術によってさらに強化することにあるが、その点、社内要員のみで開発できる体制を整備することは、企業競争力を高めるうえで確実に有効となる」と判断されたためであった。これは、情報システム部門が「事業部門の利益を向上させ、企業競争力を高める部門」として認知されたということでもあった。

 I社が新しく掲げたIT戦略を整理すると、以下のとおりである。

  • 情報システム部門が事業戦略実現に必要不可欠な組織として認知されるようになること
  • IT費用の配分比率として「既存システム/新規システム=50/50」を目指し、中期IT計画として「5年以内でのTCO最小化」を実現すること
  • コア事業のシステムは内部要員が自ら開発・運用し、ノウハウを蓄積・継承する
  • ノンコア事業のシステムについては社外ベンダを活用し、コストパフォーマンスを追求する
  • クラウド、仮想化、パッケージ利用など、新技術に積極的に取り組む(また、全員がそれらを使った開発にかかわる)

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