ビデオ会議で出張費削減以上のメリットを出せ 米ポリコムCFOIT部門は明確なビジネスプランを

» 2010年08月13日 00時00分 公開
[伏見学,@IT]

 米シスコシステムズがノルウェーのビデオ会議システムベンダーであるタンバーグを買収するなど、昨今、活況を呈してきたビデオ会議システム市場。調査会社のシード・プランニングによると、日本国内のビデオ会議システム市場は右肩上がりの成長を見せており、2012年に550億円、2018年には2024億円に達する見込みだ。

 同市場においてトップシェアを誇るのが米ポリコムである。同社でCFO(最高財務責任者)を務めるマイケル・コーリー氏が、同社のビジネス戦略およびCFOの役割について語った。

CFOの役割にも変化

米ポリコムのマイケル・コーリー最高財務責任者 米ポリコムのマイケル・コーリー最高財務責任者

 わたしは米ポリコムのCFOになって15年経ちますが、その役割はここ5〜10年で劇的に変化しています。10年前、多くの企業のCFOは単に会社の財務や会計を管理するだけの存在でしたが、今ではCEOをはじめ経営陣の戦略的パートナーとしての役割が求められています。企業開発やM&A(企業の合併・買収)など会社の運営に関する意思決定にも今まで以上に関与しています。まさに会社の道しるべとなる「灯台」といえるでしょう。

 そのため、CFOは会計のみならず、営業やマーケティングなど多分野のスキルや経験が求められます。わたしたちのようなITベンダに限らず、すべての企業のCFOは当然ITについても理解しておく必要があります。ITはコストセンターではなくプロフィットセンターであり、利益を生み出す戦略的な資産としてとらえるべきでしょう。

 (世界的な経済不況などが原因で)IT投資が縮小した企業は少なくありません。こうした状況において、これまでのようにコスト削減だけを目的にITを導入するのではなく、コスト削減と同時に利益を上げるようなITの活用が重要になります。例えば、出張費を減らすためだけにビデオ会議システムを導入するのではなく、その上で商談機会を倍にするような仕組みを作るべきです。実際、ポリコムもビデオ会議システムによって、1四半期あたり700万ドルの出張費を180万ドル削減したほか、オフィスにいながらも投資家とコミュニケーションを取る機会を増やすことに成功しました。

 CIO(最高情報責任者)にはこうしたIT投資に対する判断が求められてくるでしょう。CFOだけでなくCIOの役割も変化しているのです。

 一方、CFOの立場からIT部門に伝えたいのは、どんな投資にせよ確固たる事業計画が必要だということです。本当にビジネスチャンスがあるかどうか、成果物は何か、マイルストーンは明確かなどについて適切なデータを示さないと、財務を承認する立場にある人間を説得するのは難しいはずです。しばしば美化した事業計画データを提出する人がいますが、財務担当者はそのデータの真偽をすぐに見抜いてしまいますよ。

 また、これはIT部門に限った話ではありませんが、予算のサイクルを理解すべきでしょう。例えば、ある事業計画があっても、一旦予算を決めてから変更するのは難しいのです。ただし、企業に多大な利益をもたらすような計画であれば、たとえサイクルがどの段階にあっても、積極的に追加投資していきます。

アジア太平洋地域に積極投資

 そうした中、ポリコムのビジネスは積極的な投資時期にあるといえるでしょう。主力製品であるビデオ会議システムの売れ行きが堅調で、現在、全世界で約40%の市場シェアを獲得しています。このビデオ関連ソリューションが大きなけん引役となり、年間売上高は約10億ドル、キャッシュフローは約1億8100万ドル、預金高は5億ドル近くに上ります。

 これまでビデオ会議システムといえば、主に大企業や政府機関で導入されていたものでしたが、ITの進歩などによって小規模で低価格なシステムも登場し、今では中小企業のマーケットにも提案機会が広がっています。

 こうした環境の中、ポリコムは「Go-To-Market(新規市場の開拓)」「戦略的パートナーシップ」「サービスプロバイダ」「プロフェッショナルサービス」「イノベーション」という5つの戦略投資計画を打ち出しています。

 Go-To-Marketについて、特に伸びている市場が、日本、中国、韓国、インドを中心としたアジア太平洋地域(APAC)です。グローバル全体の売上高の22%を占め、ここ1年では約50%の売り上げ成長を見せています。今後、市場参入のための営業の強化やテクニカルサポートのためのエンジニアの強化など、さらに投資を加速していきます。

 なぜAPACに注力するのでしょうか。ビデオ会議システムそのものは以前から存在しましたが、APACを含めた新興市場では導入している企業が少ないことに加え、(電話などではなく)直接対面型のコミュニケーションに対する関心が高まっているため、素早いペースで検討、採用が進んでいるのです。

 戦略的パートナーシップに関しては、オープンで国際標準に準拠したソリューションを提供する「Polycom Open Collaboration Network」という枠組みにおいて、従来からマイクロソフトやIBM、アバイア、BroadSoft、ジュニパーネットワークスなどとパートナー関係を構築しています。例えば、マイクロソフトの統合コミュニケーション(UC:Unified Communication)基盤「Office Communications Server」や、IBMのコラボレーション基盤「Lotus Notes/Domino」との機能連携を強化するなど、ベンダ間で相互運用性のあるUCハードウェアおよびソフトウェアの提供を目指します。これによって、システム導入にまつわるコストや時間が削減でき、より多くのユーザーに活用してもらえると考えています。(談)

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