最優先事項は“絶対ローンチさせること!”事例に学ぶシステム刷新(2)(2/3 ページ)

» 2010年09月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

「MSプロジェクト」の発足

 しかし会計システムに関していえば、実はこれまで紹介してきたセキュリティ事故や3カ年サービスラインの経緯とはまったく別のところでも、刷新プロジェクトが着々と進行しつつあった。

 話はいったん、2008年末までさかのぼる。

 「ちょうどそのころ、『システムで管理している在庫や受発注の数字が社内で統一されていない』という問題が顕在化していた。調べてみたところ、『予算や受発注などの数字を一気通貫で見るための仕組みがない』や『人が介在してデータのやり取りをしている』といった現状の課題点が見えてきた」(大日氏)

 前回も説明した通り、こうした基幹業務のシステムや業務フローは、2000年の同社創業時に構築されたものが、そのまま根本改修されないまま使われ続けていた。そのため、経営判断のために必要な数字を正確に取得する仕組みがないままになっていた。そこで同社は2009年初旬、まずはワークフローをきちんと作り直して、受発注から出荷、在庫管理、会計に至るまでの業務を1本のデータでつなげ、経営情報を可視化するための仕組み作りの検討を始める。

 また、同時期には同社のマーケティング部門を中心としたグループが、予算と経営指標がひも付いていない現状を何とか解決できないか、と独自にプロジェクトを進めていた。現状では社内の情報流通が整備されていないため、予算や実績の数字を、業務を遂行するうえで必要なKPIに落とし込むことができていなかったのだ。これでは、「どういったマーケティング施策を打てばどの程度の効果があるのか?」を検証する術がない。

 とはいえ、まったくワークフローや情報流通の仕組みがなかったわけではない。当時同社では、スケジュール管理と設備管理をSFA/CRMパッケージ製品で、一方ワークフローは別のグループウェアパッケージ製品を使って運用していた。しかし、こうした運用は非効率であるばかりか、ライセンスコストの面でも無駄が多い。

 そこでまずは手始めに、ワークフロー機能をSFA/CRMパッケージ側に移し、グループウェアパッケージの使用を止めることを検討した。SFA/CRMパッケージはグループウェアにはない営業支援などの機能を持っており、一部の営業系ユーザーから利用されていたため、完全に使用を停止するのは困難だったのだ。

 しかし、検討を進めるうちに、SFA/CRMパッケージのワークフロー機能が貧弱で、同社の要件にはそぐわないことが判明する。結局、スケジュール管理と設備管理をグループウェアパッケージ側に移し、SFA/CRMパッケージの方は最小限のユーザーライセンスだけを残すことにした。

 しかし、これはあくまでも暫定処置であり、本格的にワークフローとグループウェアを整備する必要性は、依然として社内の誰もが感じていた。事実、2009年5月にはこうした社内情報システム全体を再構築するためのプロジェクトが起案されている。

 さらにもう1つ、大きな流れがあった。2009年4月に新しいCFOが着任したのに伴い、社内の経理業務の見直しが行われた。その過程で、「同社の与信管理や債権回収管理などの業務を人手に頼りすぎている」という課題点が浮上してきた。これらの業務をシステム化し、精緻化と効率化を図ることが急務だった。

 こうして、社内のあちらこちらで基幹業務の改善活動が散発的に進められていたが、やがて「それぞれのプロジェクトがバラバラに動くより、これらを1つに束ねて、正式なプロジェクトとして立ち上げるべきではないか?」との声が高まってきた。こうして2009年6月、基幹業務の改善プロジェクトとして「MS(Management System)プロジェクト」が正式に発足した。

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