MSプロジェクトは当初、ワークフローの構築と、会計・販売管理システムとのひも付けを主なスコープとしていた。この時点ではまだ、ERPの話は一切話題に上がっていなかったという。しかし、検討を進めていくうちに、現行の会計システムの機能では要件を満たせないことが判明してきた。
「業務システムと会計システムがばらばらな現状では、データを経営指標に落とし込む術がない。しかし、創業10年足らずの中小企業ならどこでもそうだと思うが、そもそもマスタデータというものがなかった。まずはマスタデータをきちんと構築しないことには、業務システム間の連携など実現できるわけがない」(大日氏)
一方では、前述した「次期システム構想」が別のプロジェクトとして走っており、ちょうど「業務システムの全面刷新」という方針を打ち出したところだった。
前述のとおり、MSプロジェクトでは「現行の会計システムに手を加える程度では、要件を満たせそうにない」と判断していた。一方で、業務システムは先に全面刷新を決めている。ではいっそのこと、基幹系システムも含めてすべてを入れ替えた方が良いのではないか……。
ここに至って同社はついに、「業務システムだけでなく、基幹システムも同じく全面刷新するべきではないか」という方針に傾く。別々に進められていた2つのシステム刷新の流れが、ここで合流することになるのだ。
では、業務システムと基幹系システムを同時に刷新するとしたら、まず何からどう手を付けるべきか。
「在庫データと受発注データの可視化が最優先課題だった。これを1番先に進めないことには、結局はデータの器がないので、どんな業務システムを作っても一気通貫でデータを見ることはできない。従って、まずはバックエンドにマスタデータとERP的な仕組みを構築し、各業務システムとの間でデータ連携させるような構成にする必要があると判断した」(大日氏)
ここに来て初めて、同社はERP導入の検討を始めることになる。
まず初めに決めなくてはならないのは、パッケージ製品を導入するか、あるいはスクラッチ開発にするかという点である。ここで重要な判断基準になったのが、先述した「リスクとコスト」に関する方針である。最優先事項である「システムがローンチしないリスクは絶対に避ける」という方針に従うのであれば、開発リスクが常に付きまとうスクラッチ開発よりも、ある程度のコストが掛かったとしても、実績が豊富でリスクが少ないパッケージ製品の方が望ましい。
また通常、ERPパッケージ製品を導入する際には、既存の業務フローとパッケージ製品の仕様との間の「フィット&ギャップ」が問題になりがちである。既存の業務フローに合わせるためにパッケージのカスタマイズを重ねた結果、「膨大なSIコストが掛かってしまった」「アップグレードが困難になってしまった」といった話をよく耳にする。しかし、同社の場合はこうした点は、あまり大きな問題にならなかったという。
「業務課題をすべて洗い出して、全部いっぺんに解決しようとしたので、結局はITの仕組みだけでなく、同時に業務のやり方も変えることになった。よく『業務のやり方をパッケージに合わせられるか?』ということが問題になるが、われわれはそもそも業務のやり方自体を改善しようとしていたので、『じゃあ同時に変えちゃえば?』というぐらいの感覚だった」(大日氏)
また、システム全体の中で「どの部分が自社の差別化要因なのか」「どこに投資すべきでどこに人手と手間を掛けるべきなのか」といった点も、あらためて整理した。
同社のシステムは大きく分けて「フロント部分」「中間層の業務システム」「バックエンドの基幹システム」の3階層に分かれる。
この中で、オンラインビジネスを展開するうえで、1番手間を掛けて常にPDCAサイクルを回していかなくてはいけないのは、フロント部分だ。ユーザーの目に直接触れ、サービスの提供をつかさどるフロント部分は、人手をつぎ込んで、絶えず検証と改修を続けていかなくてはいけない。しかし逆に、システム投資という意味では、1度に投資する額は少なく済む。
中間層の業務システムは、同社のビジネスの肝である「ゴルフ場予約システム」に関して言えば、要件に適したパッケージ製品が存在せず、かつ競合他社と最もサービスの差別化を図らなくてはいけない部分なので、スクラッチ開発する以外に手がない。
しかし、そのほかの業務システムに関しては、おおむねパッケージ製品を活用できる。特にECシステムに関してはパッケージ製品の市場も成熟し、信頼できる製品が出回っているため、パッケージで十分に対応可能だと判断した。
そしてバックエンドの基幹システムだが、ここはシステム構築時に最も多額の投資を必要とする部分であると同時に、他社と最も差別化しにくい部分でもある。会計、購買、販売管理、在庫管理といった基幹業務は、どの会社もやることは似たり寄ったりである。従って、余計な労力を掛けずに、他社に追従できるレベルで良しとする。ここは、パッケージ製品のメリットが生きる領域である。大日氏も次のように述べる。
「自分たちの仕事のやり方を、世の中的に必要な業務の流れに合わせた仕組みに変えてしまった方が良いのではないか、ということでパッケージの導入を決めた。また、GDOは上場会社なので、日本版SOX法やIFRS(国際会計基準)といった法律に対応する必要がある。その点でも、法対応のさまざまなノウハウがすでに反映されているパッケージ製品を導入するメリットは大きいと判断した」
こうして、社内で「サービス停滞への危機感」「セキュリティ事故」「現場主導の中期サービス計画」「社内情報システムの整備」といったさまざまな課題が同時期に沸き上がってきた結果、GDOはシステムの全面刷新とERPパッケージの導入という大きな決断を下すに至った。
2009年11月、同社はこれまで社内でバラバラに進められていた各プロジェクトを統合し、業務システムと基幹システムの全面刷新を推進する「G10プロジェクト」を新たに立ち上げた。本連載では今後、同プロジェクトの推移を何回かに分けて紹介していく予定だ。
次回は、同プロジェクトの中でも特に基幹システムの部分に焦点を絞り、ERPパッケージ製品の選定プロセスを紹介する予定だ。現在ERPパッケージの導入を検討している読者にとっては、非常に興味深い内容になるのではないかと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.