CIOが経営を説得し、最もコスト高のSAP ERPを導入事例に学ぶシステム刷新(3)(1/3 ページ)

現在、システム全面刷新と大規模ERPパッケージ導入のプロジェクトに取り組んでいるゴルフダイジェスト・オンライン。前回はERPパッケージ導入へと至った経緯を紹介した。今回はERPパッケージ製品を選定する過程や、予算確保のための経営陣への周知活動などについて紹介する。

» 2010年09月27日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 前回までは、株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)が、業務システムと基幹システムの全面刷新プロジェクト「G10プロジェクト」を立ち上げることになった背景について紹介してきた。

 G10プロジェクトは、社内の各システムごとに13のプロジェクトに分かれている。今回はその中でも、システム刷新に当たってERPパッケージの新規導入を決めた基幹系システムのプロジェクトに注目した。特に、パッケージ製品を選定する過程や、予算確保のための経営陣への周知活動などについて紹介する。

 現在ERPパッケージ製品の導入を検討している読者の方々にとって、何らかの参考になれば幸いである。

ERPパッケージ導入を決断

 GDOが基幹系システムの改善プロジェクトとして「MS(Management System)プロジェクト」を立ち上げたのは、2009年6月のことだった。同プロジェクトはまず、要件定義に入る前の「基本構想」の作業に取り掛かる。ここでいう基本構想とは、大きく分けて以下3つの作業を指す。

  1. 課題の真因分析
  2. 業務改善構想書の作成
  3. システム化構想書の作成

 なお、これらの作業をGDO社内の要員だけで行うのは工数的に困難だったため、アビームコンサルティング(以下、アビーム)のコンサルタントをプロジェクトに迎え、支援を仰いだ。

 当初は業務ワークフローの確立や、会計・販売管理システムの連携などをスコープに据えていた同プロジェクトだが、同社とアビームが共同で真因分析、業務改善構想などを進めていく中で、現行の会計システムの延長線上で要件を満たすのは困難であることが判明し、一から新規にERPシステムを構築し直す方針が決まる。この辺りまでの経緯は、前回詳しく紹介しているので参照されたい。

 また、これも前回紹介した通りだが、ERPシステムの構築に当たってスクラッチ開発ではなく、ERPパッケージ製品の導入を決めたのには、幾つかの理由があった。

 第1には、「開発リスクを極力低減する」というプロジェクトの大方針である。過去に試みたシステム刷新プロジェクトが不調に終わったこともあり、現場の最優先事項は「今度こそ絶対にローンチする」ことだった。そのためには、開発リスクを伴うスクラッチ開発ではなく、既に広く世間で実績のあるパッケージ製品を選ぶ方がはるかにリスクが少ないと判断したのだ。

 また、将来的にビジネスをグローバル展開したり、IFRS(国際会計基準)に対応することを考えると、既にそれらに対応しているパッケージ製品を導入し、自社の業務をその仕様に合わせた方が合理的だと判断した。

 通常、ERPパッケージの導入では、既存の業務フローと製品仕様との間のギャップを埋めることに苦心するケースが多い。しかし、同社は当初から、ITの仕組みだけでなく業務のやり方自体も大幅に変えることを計画していたため、いわゆる「フィット&ギャップ」をさほど考慮する必要がなかった。こうした要素も、ERPパッケージ導入を選択する追い風となった。

ERPパッケージ製品の選定過程は?

 パッケージ導入の方針が決まり、続いて具体的なパッケージ製品選びに入った。

 まずは、基本構想のアウトプットを基に「RFP(Request For Proposal:提案依頼書)」を作成し、コンペに参加するベンダを募った。当初コンペに集まったのは、国内・海外の主要7製品。まずはこれらの製品に対して、一次選定を行った。

 選定方法は、まずそれぞれの製品の機能充足度を数値化して比較した。前述の通り、MSプロジェクトの対象範囲には会計システムだけでなく、販売管理やワークフローも含まれている。一次選定ではそのうち、ワークフロー機能の充足度を、会計機能とは別に切り離して個別に評価できるようにした。

 さらに、各製品の導入に掛かる費用もすべてこの段階で弾き出した。この費用の中には、製品のライセンス費用だけではなく、導入作業に掛かるSI費用も含めて算出した。

 こうして、各製品の機能とコストを「評価シート」という一覧表にまとめ、比較検討を行った。この時点で行われたのは、「機能のあり/なし」という、カタログスペックの単純比較である。検討の結果、明らかに機能が不足していると思われる2製品が、この段階で選定対象から外れた。

 次に残った5製品に対して、さらに詳細な検討を加える二次選定を実施した。

 二次選定では、会計機能とワークフロー機能だけでなく、販売管理機能に関しても機能充足度の評価を個別に行った。さらに、それぞれの機能の中身について一次選定時より詳細な調査を行い、標準機能とアドオン機能に分けたうえで機能充足度をはじき出した。

 その結果、販売管理機能を備えていない製品や、標準機能の充足度が低い幾つかの製品が選定対象外となった。

 二次選定を終えた結果、選定対象に残ったのは3製品だった。この中から、最終的に1製品を最終選定で選ぶ手はずになっていたが、実はプロジェクトではこの時点で既に、ある特定の製品を採用することにほぼ心を固めていたという。

 その製品とは、アビームが提案した「SAP ERP」だった。アビームはMSプロジェクトにコンサルタントとして参加していたが、同時にSAPのソリューションベンダとして製品選定のコンペにも参画していた。

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