仮想化、クラウドに足元をすくわれないために特別企画 JIPDECに聞く、IT資産管理の“いま”(2/2 ページ)

» 2011年02月25日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT]
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IT資産管理の障害は「情報不足」と「経営層の理解」

 一方で、高取氏はSAMに対する「取り組みのレベル」についても指摘する。氏は、ソフトウェア資産管理コンソーシアムが定めたSAMの成熟度モデル、「ソフトウェア資産管理 評価基準 Ver2.0」の6段階評価に照らし合わせると、「多くの企業は、レベル0:管理が存在しない段階/レベル1:組織的ではなく、担当者など個人に依存して(場当たり的な)管理を実施している/レベル2:ある程度、組織的な体制があり、継続して管理を実施している、といった段階にあるのではないか」と解説する。実際、自社で持っているソフトウェア、SaaSで利用しているソフトウェアを切り分けた管理が徹底されていない例も多いという。

 では、なぜIT資産管理への関心が高まっていながら、その重要性が十分に認識されていなかったり、取り組みレベルが低い状態にあるのだろうか? そうした状況を生み出している一つの原因として、高取氏は図3「SAMを導入するに当たり、障害となったもの」を提示し、「結局、ノウハウに対する情報不足と、経営陣の認識の低さに起因するのではないか」と分析する。

図3 「SAMを導入するに当たり、障害となったもの」(「情報セキュリティ総合的普及啓発シンポジウム」における参加企業へのアンケート調査結果より JIPDEC調べ) 図3 「SAMを導入するに当たり、障害となったもの」(「情報セキュリティ総合的普及啓発シンポジウム」における参加企業へのアンケート調査結果より JIPDEC調べ)

 「特に重要なのは経営トップの理解だ。人材不足や予算不足、他部門・現場の協力不足も、経営トップの理解不足を反映したものと言える。前述の通り、IT資産管理とは本来、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなど、全社のIT資産を統合的に管理する取り組み。しかし、現状を把握するために、これらを一度に棚卸しすることも難しい。従って、経営トップのリードによる全社的な理解の下、各業務部門の協力を得ながら、段階的、継続的に取り組みを進める必要がある。換言すれば、IT資産管理とは情報システム部門だけで実施できるものではないということだ」

 特にSAMは「組織横断の取り組み」と、「ライフサイクルに沿った管理」が不可欠な要件になるという。

 「例えば、ハードウェアはIT部門、ソフトウェアライセンスは総務部門といったように、IT資産を各部門がバラバラに管理していたのでは、実態を正確に把握できない」

 従って、インストールと使用手順/購入手順/廃棄手順など、まずはソフトウェアの利用に関する全社的なポリシーを定め、そのポリシーを徹底させる上で“収集・管理すべきインベントリ情報”を選択する。その上で、ハードウェア/PCの使用者/インストールされているソフトウェア/購入したソフトウェア/利用しているソフトウェアなどの情報を“全てひも付けて管理する”ことが不可欠となる。

 一方、「ソフトウェアライフサイクルに沿った管理」が重要なのは、導入計画から調達、運用、廃棄まで、ライフサイクル全般にわたって管理し、計画的に導入・運用しなければ、真の効率化、最適化、コスト削減を図ることは難しいためだ。特にクラウドサービスは手軽に利用を開始/停止できる分、導入・廃棄については、計画に沿った慎重な検討・判断が求められる。

 「こうした取り組みはIT部門だけでは進められない。ITリソースを使う各ユーザー部門の理解、協力が必要だし、そうするためには経営トップがIT資産管理の重要性を理解し、全社をリードすることがカギとなる」

守りを徹底してこそ、攻めは成り立つ

 だが現実には、こうしたITマネジメントについて“全社的な理解”が得られている例は少ない。特にユーザー部門と情報システム部門の溝は深い。例えば、仮想化技術の浸透に伴い、「サーバ統合によるコスト削減」「ビジネスのスピードアップ」といったメリットばかりが注目されて、「インフラが複雑化した分、運用管理負荷が増す」という事情については理解されないまま、一方的にスタッフが減らされ、運用効率を低下させてしまった例は枚挙に暇がない。クラウドサービスにしても、前述のようにユーザー部門が勝手に導入した“野良SaaS”が全社のITガバナンスを乱しているケースは少なくない。

 高取氏は、こうした“IT活用に対する全社的な理解”というテーマについて、「ITツール、サービスは年々充実しており、ITを有効活用するための個人レベルでの環境はますます整っていると思う。だが、そうしたサービスやツールを、組織としてガバナンスを効かせながら効果的・効率的に運用していくための方法、認識については、まだまだ遅れていると言えるのではないか」とコメントする。

「IT資産管理は、仮想化、クラウドのメリットを組織的に享受するための重要な取り組み」と語る高取氏 「IT資産管理は、仮想化、クラウドのメリットを組織的に享受するための重要な取り組み」と語る高取氏

 「ITシステムを使う目的は、業務を効率化し、収益を向上させること。コスト、セキュリティ、コンプライアンスなど問題はさまざまだが、かといって業務を阻害するほどの運用ポリシーを作るのも間違っている。その点、IT資産管理とは、いま持っているもの/利用しているものを棚卸しし、整理して管理する取り組み。IT基盤の状況を明確に把握し、計画的に運用できる体制を整備してあれば、セキュリティリスクや無駄なコストを抜本的に低減できるため、“真に必要な利用制限”のみに絞り込むことも可能だ。また、ハードウェア、ソフトウェアを整理し、全社的に標準化すれば、それらが担う業務プロセスも標準化・効率化することにつながる」

 高取氏はこのように述べ、「IT資産管理とは、効率化やコスト削減、コンプライアンスなど、いま求められている数々の課題を“抜本的かつ組織的に解決”する有効な施策となるはず。まずはそうした認識を深めたい」と結論付ける。むろん、その実践のためには、全社的な理解・協力というハードルが存在するが、そもそも一時的な取り組みで実現できるものでもない以上、たとえ少しずつでも、周囲の理解を得ながら、着実に取り組みを進めていく姿勢が大切なのだろう。

 「“守り”を徹底してこそ“攻め”も成り立つ。経営トップから現場層まで、ITマネジメント全般に対する認識を深めるとともに、進んでIT資産管理のノウハウ収集・蓄積に努め、とにかく実践に乗り出すことが大切だ」??高取氏は最後にこのように述べ、“その場限りではない効率化”に根ざした、仮想化、クラウドの真の意味での有効活用を促した。

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