「人生脚本」を見直せば、悩みを根本的に解決できるITユーザーのためのメンタル管理術(6)(2/3 ページ)

» 2011年03月31日 12時00分 公開

“決断”のパターンは幼少期に作り上げられる

 では「幼児決断」にはどのようなものがあるのでしょうか? 例を挙げると、両親が非常に忙しい家庭に育ち、病気のときだけ優しくしてもらうような経験をすると、「自分は健康であってはいけない」という“決断”を下すこともあり得ます。

入試、就職、結婚、決別など、その人に「プレッシャーの掛かる場面」「生活が変わる場面」において病的な反応が現れたりするのは、こうして書かれた人生脚本が影響しているのです。

 同様に、うまくできたときは褒めてもらえず、失敗をすると「お前はおっちょこちょいだねぇ」と両親が仲良く笑う、という経験を持つ子供は、何かあるたびにドジをして「ダメな子」を演じることでストロークをもらうという脚本を描くことがあります。こうした人が大人になると、周囲の人間から「○○はほんとにバカだなぁ」と言われると、自分でも「私はおっちょこちょいだからなぁ……。あはは」と返すといった具合に、自ら人生脚本を強めていくことになります。

 また、幼いころから「お前がいなければお兄ちゃんが大学に行けたのに」などと言われて育った場合は、「自分は存在してはいけない」という“決断”を心の底に持つ可能性があります。この場合、いじめや入試、就職の失敗など、何らかのストレスを引き金にして、脚本に従い破たんに向かう人生を選ぶ可能性もあります。

 何らかの出来事に対して、人それぞれ取る行動は違うわけですが、勝者の脚本を持つ人であれば、悲しみや悔しさ、嬉しさ、楽しさという感情を言葉で表現したりすることで、自分自身で自律的に治癒することができます。ところが、自分や他人を否定する「Not OK」の感情を含んだ脚本を持ってしまっている場合(第4回『“生き方の癖”が分かれば、仕事も人生も改善できる』を参照)、その出来事によるストレスをきっかけにして、「Not OK」という脚本のプログラムが実行されていくわけです。否定的な感情――例えば、環境を恨んだり、自分の無力感にさいなまれたりして、自律的な生き方とはほど遠い生き方になっていきます。

 職場の環境、世の中の変化を苦に自殺をしたり、精神的な病気になってしまう人が多くいらっしゃいますが、こうしたケースについてもあくまでもその出来事は「きっかけ」であり、その場面でそうした決断をする背景には、「いざとなったら死んで認めさせてやる」「いざとなったら自分がいなくなろう」「私が死ねば(窮地に立てば)周りは心配してくれるだろう」といった類の脚本が働いていると考えられます。自殺まで行かずとも、暴飲暴食、乱暴な運転など、自分を軽視する行動はそのような脚本の現れと言えます。

 人は生まれた直後から、親や周りとのストロークのやり取り(交流)を経験し、これを通して基本的な心理的ポジションを作りながら幼少期を迎え、12〜13才までに性格、つまり「5つの心のバランス」を形成していきます(第3回『人間関係とやる気の問題は、こうすれば解決できる 』を参照)。そうした幼少期の過程の中で形作られ、その人の生き方を最も強く左右するのが、「自分はこういう生き方をするんだ」という人生脚本というわけです。

ストロークをもらうための手段として繰り返す「心理ゲーム」も、人生脚本に沿って行なわれていると考えられます。

「今の自分なら解決できる」と考え、幼少期の決断を書き直す

 TAの目的は、この「人生脚本」を書き変えるという点にあると言われています。

幼少期の親の影響の大きさを強調してきましたが、TAでは「自律性」を重んじますので、

決して「育った環境や親を責めるようなことをしよう」というわけではありません。脚本を書いたときに、そのようにメッセージを受け取ったのも「自分自身」であるわけですから、その自分自身で「脚本を書き変えることも可能である」という立場から、自律的な生き方への転換を目指すことが目的なのです。

 ただし、書き換えを行う際に心に置いてほしいのが、「幼少期の自分と今の自分は違う」ということです。

人生脚本を書くのは幼少のころですから、以下のようなハンディキャップがある中で、人生に対する決断を下しています。

  • 子供は両親に比べて考える力もなく力も弱いため、「両親に見捨てられたら大変だ」という状況で決断をする
  • 子供はストレスを受けたときの対処法を知らないため、ストレス対処法として常識では考えられない決断をする可能性がある
  • 考える力がまだ十分に発達していないため、子供らしい考え方の中で物事を大げさに解釈したり、自己過信の考え方をしながら決断を下すことがある
  • 子供の情報量は少なく、両親の顔色や兄弟親戚からの圧力といった限られた情報に基づいて判断を下すことがある
  • 子供が取り得る方法は限られており、代替案が非常に少ない中から判断を下さなければならない

 つまり、子供のころはどうにもならなかったけれど、今の自分が同じ状況にあれば対処できる可能性は非常に高いわけです。人生脚本を書き直すとは、すなわち、この「今の自分が同じ状況にあれば、対処できる可能性は非常に高い」という見解に基づいて、“決断”をし直すわけです。

 では、具体的にはどうすれば良いのでしょうか? ここで人生脚本を書き直す一番簡単な方法を紹介しておきましょう。

 いつも感じる嫌な感情――例えば「○○のような特徴を持つ異性に対して、優しく声を掛けられない」「プレッシャーの掛かる場面でいつも失敗をしてしまう」「集団の中にいると逃げ出したくなる」などを感じたときに、「幼少期に同じような感情を感じた場面はなかったか?」を思い出してみるのです。

 高校、中学、小学校、幼稚園とさかのぼって、「一番古い記憶」を探し出します。例えば、「年上の男性に優しく声を掛けられない」という悩みを持つ女性を想定してみましょう。彼女は幼稚園のときに父親から「お前が男の子だったら良かったのに」などの言葉を掛けられ、すごく悲しい気分になったことを思い出しました。そして、年上の男性と対面すると、いつも同じような感情が沸き起こってくることに気付きます。

 こうした場合は、昔、父親に「お前が男の子だったら良かったのに」と言われた場面を想定して、当時言えなかった感情、「無茶なこと言わないでよ!」という言葉を、架空の父親や父親役の人物に対して思いっ切りぶつけるだけでも状況は改善します。要するに「子供のころはどうにもならなかったけれど、今の自分には何の問題でもない」と自覚できれば、同じような場面に遭遇したとしても、自分で乗り越えられるようになるのです。

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