アプリ作成が簡単って本当? LightSwitch手探り検証LightSwitchで情シスを効率アップ(2)(3/3 ページ)

» 2011年06月02日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]
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今作ったアプリをそのままWebアプリとしても展開可能

 ただ、前のページで作成したアプリケーションは、あくまで「ローカルマシン上で実行すること」を前提としたものだ。つまり使用形態としてはExcelに近く、個人や部門内に閉じた利用であれば、これだけでも十分かもしれない。しかしこうした顧客管理システムなどは、「他部門からもデータを参照したい」「ほかの場所にある営業拠点からも利用したい」というニーズが出てくるのが常だ。となれば、これを何とかWebアプリケーションとして運用したくなってくる。

 実はここからがLightSwitchの特徴的な点なのだが、たった今、ローカルマシン用に開発したアプリケーションを、そのままWebアプリケーションとしても展開できるのである。

ALT 図9 ローカルマシン用に開発したアプリケーションを、そのままWebアプリケーションとしても展開できる(クリックで拡大)

 以上は前のページでも紹介した「デザイナー」画面だ。ここで「デスクトップ」用としてアプリケーションを展開するのか、「Web」用として展開するのかを指定できるようになっているのだ。現在は「デスクトップ」が選択されているが、これを「Web」と指定し、案内に応じて必要な設定を行えば、そのままWebアプリケーションとしても展開できる。

 なぜこういうことができるかというと、LightSwitchで開発されるアプリケーションのクライアントは、すべてSilverlightで作成されるためだ。従って、ローカルアプリケーションとしてもWebアプリケーションとしても、同じ仕様のものが実行可能なのである。とすると、LightSwitchは“お手軽RIA(Rich Internet Application )開発ツール”としても有用なのかもしれない。

 さらに、先ほどの図9の画面ショットの中に、「Windows Azure を使用してアプリケーションサービスをホストします」という選択項目があったことに気付いた方もいるだろう。そう、LightSwitchで開発したアプリケーションは、Webアプリケーションとしてだけではなく、Windows Azureのクラウド環境上で実行させることもできる。これも先ほどと同様、基本的にはアプリケーションの展開先としてWindows Azure環境を指定するだけでOKだ。

 このように、一度ローカル環境上で構築したアプリケーションをWeb、さらにはクラウドへと簡単に移行できる点は、LighSwitchの最大の特徴の1つだ。つまり、情報システム部門にとっては、将来的なシステムのスケールアップやWeb対応、クラウドへの移行までを、想定した形でアプリケーションを作れることになる。この点は、作業の効率化だけではなく投資の最適化という観点でも有用だと言えるのではないだろうか。

散在するアプリケーションやExcelシートを統合することもできる

 さて、今回はもう1つ、LighSwitchの特徴を紹介しておこう。そこで再び仮想事例に戻ってみたい。

A社の“紙&Excel管理”脱却作戦〜その2〜

  さて、こうしてあっという間にでき上がったA社の「見込み顧客管理アプリケーション」。さっそく営業部門で運用を開始したところ、シンプルなUIと機能、操作性が受け入れられて、問題なく使い始めてくれたようだった。だが、その数週間後、「こんなに早く作ってくれるんなら」と、早くも仕様追加の要望が情報システム部門に寄せられた。

 A社の営業部門では日々の業務を、複数の業務アプリケーションやExcelシートを使い分けながら行っている。例えば、既存顧客の情報はERPに登録されている顧客マスタデータを、売り上げに関する情報は計上ベースではERPや販売管理システム上のデータを、見込みベースのものはファイルサーバ上に保管されているExcelシートを参照していた。

一方、スケジュールはグループウェア・アプリケーションで管理。活動日報はExcelシートで個別に作成し、ファイルサーバ上に保管するといった具合だ。

 日々、これだけバラバラに散在している情報とアプリケーションを使い分けるのは、現場にとっては極めて煩雑だ。そこで、「できるだけ1つのアプリケーション上で、これらの情報を一元的に扱うことはできないか」というのが営業部門からのリクエストだった。



 前回も紹介したが、こうした用途にもLightSwitchは有用だという。前のページで紹介した図3の「データ定義」の画面上、右上に「外部データソースにアタッチ」という選択肢が表示されていたのに気付いただろうか。LightSwitchでは、自前のデータベースを新規作成するだけではなく、既存のデータソースから画面を起こしてアプリケーションを構築することもできるようになっている。

 その「データソースにアタッチ」をクリックして、現れる画面が以下の図10だ。

ALT 図10 LightSwitchは、既存のデータソースから画面を起こしてアプリケーションを構築することもできる(クリックで拡大)

 見ての通り、SQL ServerやSharepoint Server、さらにはWCF RIAサービス経由でサードパーティ製のデータソースも扱えるようになっている。

 例えば、A社の例であれば、今回さっと作った「見込み顧客管理アプリケーション」に、ERPシステム上の既存顧客データや、販売管理システム上の売り上げデータ、さらにはExcelで管理している売り上げ予測データなどを参照・更新する機能を、それぞれ個別のタブ画面として追加できる(Excelシートについては、カスタムアダプターを作ればデータの読み込みが可能。逆に、日常的に使うことが多いExcelへのエクスポートは標準機能で対応できる)。

 紙や複数のアプリケーションが入り乱れていた以前に比べれば、これが実現すれば相当に便利だ。そこで実際に作ってみたのが以下の画面だ。

ALT 図11 数分で作った「見込み顧客管理アプリケーション」に、ERPシステム上の既存顧客データや、販売管理システム上の売り上げデータ、Excelで管理している売り上げ予測データなどを参照・更新する機能を、それぞれ個別のタブ画面として追加してみた(クリックで拡大)

 アプリケーションやExcelシートとして社内に散在している情報を、こうして1つのアプリケーションで随時引き出せれば、データの在りかや複数のアプリケーションの使い方をいちいち覚えておく必要がなくなるほか、UIの操作性も統一されるため、現場の利便性と業務効率はは大幅に向上することだろう。

Webやクラウドへのシームレスな展開が最大の特徴

 以上のように、「極めて簡単な操作だけで、データベースアプリケーションを迅速に立ち上げられる」というLightSwitchのうたい文句は確かに事実だった。冒頭で述べたように“まったくの手探り状態”で作業してみたのだが、「見込み顧客管理アプリケーション」のデータ定義と画面定義の作業は20分弱で完了した。操作に慣れた人であれば、おそらく10分も掛からずにできたのではないだろうか。

 また、今回サンプルとして作成したアプリケーションもそうだが、冒頭でも説明した通り、LightSwitchがターゲットとするアプリケーションは、あくまでも「データベースと画面だけからなる、シンプルなデータベースアプリケーション」だ。

 実はLightSwitchでも、VBやC#でさまざまなロジックを実装することはできる。ただし、それではLightSwitchのおいしい部分は味わいにくい。複雑なビジネスロジックを一から実装するよりは、あらかじめロジックを組み込んである専用のパッケージアプリケーションを導入する方がお得なケースが多いためだ。この辺りの“使い分け”については、ある程度、見極めが必要になってくるだろう。

 個人的には、RIAを使ったWebアプリケーションが実に簡単に開発できる点、そしてWindows Azureへの展開が簡単にできる点が一番印象に残った。特に後者については、将来的なクラウド環境へのシステム移行を構想する上では、有力な選択肢になり得るかもしれない。この点については機会があれば、別の回で詳しく検証してみたいと思う。

筆者プロフィール

吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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