ハインリッヒの法則(はいんりっひのほうそく)情報マネジメント用語辞典

Heinrich's law

» 2011年11月07日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 労働災害に関する経験則の1つで、1件の重大災害の背景に29件の軽傷災害があり、さらにその裏に傷害に至らなかった事故があるというもの。「1:29:300の法則」ともいう。

 これは、米国のトラベラーズ保険会社に勤めていたハーバート・W・ハインリッヒ(Herbert William Heinrich)が著書『Industrial Accident Prevention』(1931年)で紹介した調査報告に由来する。ハインリッヒは、同一人物が引き起こした同種の労働災害事例を5000件以上調査したところ、重大な災害を起こした事故を1としたとき、軽微な傷害事故が29、無傷の事故が300あることを見出した。さらにすべての災害の背後にはおそらく数千にも達する不安全行動と不安全状態が存在すると指摘した。

ハインリッヒのトライアングル

1:29:300の比を図示した「ハインリッヒのトライアングル」


 ここからハインリッヒは、「災害」をなくすには「事故」を防ぐべきであり、「事故」を防ぐには「不安全行動/不安全状態」をなくせばよいという“ドミノ理論”を提唱。無傷事故を含むすべての事故の88%が不安全な行動に、10%が不安全な設備によるとし、これを修正することで労働災害全体の98%は予防可能であると主張した。

労働災害のドミノ理論

ドミノ理論は5段階で、上記3つの手前に「材料・設備・作業環境・人員の不良」「管理不足」が置かれている。途中の「不安全行動」や「不安全状態」を取り除けば、最終的な災害は防止できるという主張である


 ハインリッヒのこの考え方は安全対策の基礎となり、重大災害を防止するためには、不安全行動や行為を認識し、無傷事故を記録・分析することが重要とされている。今日医療の世界で、医療事故防止策としてインシデント情報を収集・分析しているが、その背景にはハインリッヒの法則とドミノ理論がある。

 東京大学名誉教授の畑村洋太郎は著書『失敗学のすすめ』(2000年)で、ハインリッヒの法則を失敗全般に読み替え、大規模な失敗の陰には数多くの小さな失敗があり、その小さな失敗から目を背けてはならないと警告している。また、カール・アルブレヒト(Karl Albrecht)とロン・ゼンケ(Ron Zemke)も著書『Service America in the New Economy』(2001年)でハインリッヒの法則をクレーム(苦情)の発生に当てはめ、1つのクレームの裏には数多くの不満を持つ顧客があり、小さなクレームでも軽視してはならないと主張している。

参考文献

▼『災害防止の科学的研究』 ハーバート・H・ハインリッヒ=著/三村起一=監修/日本安全衛生協会/1951年10月(『Industrial Accident Prevention: A Scientific Approach』の邦訳)

▼『ハインリッヒ産業災害防止論』 ハーバート・W・ハインリッヒ、ダン・ピーターセン、ネスター・ルース=著/井上威恭=監修/総合安全工学研究所=訳/海文堂出版/1982年4月(『Industrial Accident Prevention: A Safety Management Approach. 5th ed.』の邦訳)

▼『死角巨大事故の現場』 柳田邦男=著/新潮社/1985年10月

▼『失敗学のすすめ』 畑村洋太郎=著/講談社/20004年11月

▼『サービス・マネジメント』 カール・アルブレヒト、ロン・ゼンケ=著/和田正春=訳/ダイヤモンド社/2003年4月(『Service America in the New Economy』の邦訳)


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