中小企業がERPパッケージを成功させるには?システム部門Q&A(29)(1/2 ページ)

従来、大企業向けというイメージの強かったERPパッケージソフトウェアだが、昨今では大企業への導入が一巡したことから、中小企業向けのパッケージが多く提供され始めている。中小企業がERPパッケージを導入するのに、どのようなことに留意するべきだろうか。

» 2012年01月26日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

質問

中小企業がERPを導入する際には、どのようなことに留意すればいいのでしょうか?

年商50億円程度の中堅製造業です。これまでもERPパッケージに関心はあったのですが、敷居が高く、大企業のものだと考えていました。ところが近年、ベンダからERPパッケージ導入の提案が多くなってきました。中小企業がERPパッケージを導入するのに、どのようなことに留意するべきでしょうか?



  ERPパッケージと中小企業の関係

 ERPパッケージとはいっても、PCで利用するソフトウェアのような小規模なものから、数億円もする大規模なものまでありますが、ここでは「mySAP All-in-One」のような中規模ERPパッケージを対象にします。

 ベンダ側から見ると、大企業におけるERPパッケージの導入はそろそろ飽和状態になりましたので、これからは中堅企業や中小企業が主要なターゲットになります。一般的にERPパッケージの導入費用は、年商の1%(通常企業における従来のIT全費用程度)といわれており、質問者の規模ですと5000万円程度になります。昨今では、そのクラスの費用でも導入しやすい価格帯のERPパッケージが多く提供されてきました。

 また、ERPパッケージの効果を上げるには、それなりにIT成熟度が高く、規模は小さくてもIT専任の組織が存在することが求められます。業種・業態にもよりますが、一般的にこのような組織を持つのは、従業員が数百人規模の会社でしょう。質問者の会社規模は、現在のERPパッケージベンダから見たときの主要市場に当てはまりますので、アプローチが急増しているのです。

 安価になったとはいえ、ERPパッケージは高い買い物です。パッケージソフト本体はそれほど高くないとしても、保守・サポート費用が掛かります。また、本体以外に開発におけるベンダやコンサルティングの費用も掛かります(アドオンが多いと非常に高くなります)。ハードウェアを新規に追加する必要もあるでしょう。これらを加味すると、本体費用の2倍以上になりますし、3倍にまで膨らむかもしれません。当初想定していた5000万円が、1億円近くになることもあります。しかも、対象業務は増大するし、環境は激変するので、維持・発展させる費用も掛かります。

 このような大きな投資が失敗した場合、大企業であれば何らかのやりくりができるでしょうが、中小企業では大打撃になりかねません。また、中小企業では適用業務が少ないとか規模が小さいことから、ERPパッケージを放棄して作り直すことが比較的容易だともいえますが、IT部門が弱体なことから、それもできない危険があります。

 このように、ERPパッケージの導入には、特に中小企業ではかなりの決断が求められます。

 一般的にERPパッケージ導入を成功させるには、次のことが重要だといわれています。

  • ERPパッケージ導入の目的を明確にすること。業務革新、経営戦略の実現が目的であり、ERPパッケージはその手段であることを認識すること
  • ERPパッケージにみだりに手直し(アドオン)を加えないこと。従来の業務の仕方や組織の体制に固執するのではなく、むしろERPパッケージに合わせて業務や組織を抜本的に改革するべき。すなわち、現場ニーズ重視から経営ニーズ重視へと切り替えること
  • 逆にいえば、アドオンを最小限にできるようなERPパッケージを選択し、自社業務をよく理解しているベンダやコンサルタントを起用すること
  • これらを効果的に遂行するには、経営者が一貫したリーダーシップを発揮すること。それにより、全関係者が経営者の方針をよく理解して、全社的な立場で行動すること

 中小企業にとって、これらのことは実現しやすい環境だともいえるし、困難な環境だともいえます。以下では、それを考察することにします。

中小企業はERPパッケージに適した環境

 中小企業こそ、ERPパッケージ導入に積極的になるべきです。また、中小企業はERPパッケージに適した環境であるといえます。

    (1)実務面では……     

 中小企業でもIT化を進めてきましたが、多くの場合は売上処理、会計処理、給与計算などは個別にシステム化されていますし、生産部門の進ちょく管理や原価計算分野のシステム化は遅れていたり、不正確な処理のままになっています。

 経営改善のためには、これらを経営の観点から統合的なシステムにする必要がありますが、それを行うだけの能力を持った人材もいないし、IT部門もそれを実現するには弱体です。白紙の状態からアプローチをするよりも、優れたERPパッケージを導入する方が適切だといえます。

 ERPパッケージの導入では、IT部門や実務部門が抵抗勢力になることがありますが、中小企業では幸いなことに(?)、IT部門はそれほどの大きな勢力ではありません。大企業におけるIT部門は、自部門の能力に自信を持っており、それで成功してきた実績があります。そのために、えたいの知れないパッケージの導入には責任が持てないという気持ちもあります。それに対して中小企業では、当初からパッケージの利用が一般的でしたので、ERPパッケージの導入にも抵抗感を持っていません。


 実務部門の反発では、従来と同じような入力方法にしたいとか、従来と同じ体裁の帳票類が欲しいという要求が多いのですが、これまでのIT化が不十分なことにより、それも強硬な意見にはならず、むしろ「ERPパッケージで提供される機能の方が充実している」として、受け入れやすい環境があります。

    2)経営面では……      

 いうまでもなく、ERPパッケージ導入の目的は、パッケージで情報システムを構築することではなく、ERP、すなわち「業務改革を推進すること、経営戦略を実現すること」にあります。

 それを適切に行うには、経営戦略から全体的な情報化戦略へ、情報化戦略から個別システムへとブレークダウンする必要がありますが、一般的な中小企業では、これらが明確な体系として文書化されていません。ERPパッケージを導入するには、これらを明確にすることが前提となりますので、その面からもERPパッケージは効果があります。

 ERPパッケージ導入で成功するには、情報システムだけでなく、組織や業務を革新する必要がありますが、それには経営者がリーダーシップを持ち、全従業員が共通の目的を持つ必要があります。大企業では、従業員数が多く経営者の意向が全員に伝わりにくいだけでなく、各部門がそれぞれの組織文化を持ち、成功経験を持っているために、関係者の間での意思統一が困難なことがよくあります。それに対して中小企業では、良しあしはともかく、経営者の権力は絶大であり、その方針に従う環境になっています。しかも、小回りの利く組織構造になっているので、仕事の仕方を抜本的に改革するのも比較的容易でしょう。

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