“ユーザー視点”が、ハイブリッド環境運用のコツ特集:ハイブリッド環境の運用をどう効率化するか(1)(1/2 ページ)

サーバ仮想化が当たり前の取り組みとなり、クラウドサービスの浸透も進んでいる現在、企業のITインフラはますます複雑化している。物理と仮想、オンプレミスとパブリッククラウドなどが混在した“ハイブリッド環境”では、どのようなポイントに留意すれば運用管理の効率化とシステムの安定稼働=ビジネスの安定的な遂行を実現できるのだろうか。

» 2012年02月06日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

サイロ型の運用管理では、システムの安定稼働を担保できない

 企業のITインフラがますます複雑化している。2008年以降、当たり前の取り組みとなった“サーバ仮想化によるコスト削減”により、物理と仮想が混在。現在はさらにSaaSをはじめとする外部資産も絡み、多くの企業のIT部門が運用管理負荷の増大に悩んでいる。

 これに伴い、仮想化、クラウドに、コスト削減、ビジネスのスピードアップというメリットを期待しながら、思うように享受できないケースも増えた。仮想サーバの管理、障害時の問題原因の切り分け、期待するパフォーマンスの担保などが従来よりも難しくなり、運用管理コストの増大や業務の遅滞を招くケースも増えているのだ。

 特に深刻なのは、サーバやネットワークなどを個別に管理する従来の運用管理方法では、期待するサービスレベル??すなわちビジネスの円滑な遂行を担保することが難しくなっていることだ。

 例えば、何らかの障害があった際、物理サーバは正常に動いていても、メモリ不足などの原因によって、その上で動く仮想サーバの稼働率が落ちているケースもある。仮想サーバ上で動くアプリケーションのパフォーマンスが低下した際にも、何がボトルネックとなっているのか、複雑に絡み合った物理/仮想環境の中から迅速に問題箇所を切り分けなければならない。

 さらに、SaaS、PaaSIaaSといったパブリッククラウドも使っていれば、サービス提供者側のデータセンターに原因がある可能性もある。1つの業務システムでも、社内外のさまざまなシステム構成要素が複雑に連携して稼働しているだけに、従来のように物理サーバやネットワークなどの稼働状況を個別に監視するスタイルでは、もはやビジネスの安定的な遂行を担保することは難しくなっているのだ。

 では、こうした物理、仮想、クラウドが混在した“ハイブリッド環境”をどのように運用すれば、コスト削減、ビジネスのスピードアップという仮想化、クラウドのメリットを享受できるのか? 本特集ではアナリストやベンダなどへの取材を通じて、ハイブリッド環境の運用管理のポイントを掘り下げていく。今回はIDCジャパン ソフトウェア&セキュリティ シニアマーケットアナリストの入谷光浩氏に話を聞いた。

運用管理をビジネス視点、エンドユーザー視点で捉えているか

 「サーバ仮想化によるコスト削減の取り組みは多くの企業に浸透した。現在はクラウドサービスを活用する企業が増え、顧客管理など従来からパッケージで事足りていたシステムにはSaaSを、自社独自のシステムはIaaS上で開発・運用するといった具合に、目的に応じてクラウドサービスを使い分ける例も増えつつある。先の東日本大震災以降はディザスタ・リカバリを目的にIaaSを使う企業も目立った。従って、ひと口でハイブリッドと言っても、物理と仮想、オンプレミスとパブリッククラウド、パブリッククラウド同士などさまざまなケースがあるが、運用管理を効率化する上では“統一”が1つの鍵になる」

ALT IDCジャパン ソフトウェア&セキュリティ シニアマーケットアナリスト 入谷光浩氏

 入谷氏はこう述べた上で、まず「仮想化基盤の統一」を挙げる。例えばオンプレミスとIaaSを併用している場合、共に仮想化基盤をVMwareでそろえ、シングルハイパーバイザとする。これによって単一の管理ツールを使うことで作業負荷を下げる。

 ソフトウェア層についても管理を一元化する。具体的には、IaaSと既存システム、それぞれの上で稼働しているOSとアプリケーションをシングルコンソールで監視し、システム全体の構成管理も含め、一元的に行えるツールを選ぶといった具合だ。

 ただ、入谷氏が最も強調するのは「サービスレベルの監視」だ。ハイブリッド環境では業務システムによって、クラウドから提供されるもの、オンプレミスから提供されるものが混在している。特にオンプレミスシステムを仮想化していれば、サーバ、ネットワークなど、各システム構成要素には問題がなくても、提供されるサービスに異常が生じることも珍しくない。

 だが、言うまでもなく、運用管理の目的はシステムの安定稼働ではなく、業務の円滑な遂行にある。よって、あらゆる構成要素が複雑に連携したハイブリッド環境では、「システムのレスポンスタイムなど、各システムにサービスレベルの基準を作り、“エンドユーザーにとっての使い勝手”を常にモニタリングする仕組みと、そこを起点に原因を追求するアプローチが重要になる」という。

 「例えば、大規模なECサイトの場合、レスポンスタイムの遅れが莫大な額の販売機会損失につながることもある。エンドポイントのサービスレベルからシステムの稼動状況を監視し、確実に業務を遂行できる状態にあるか、常に監視する体制が必要だ。つまり、システムの運用管理とは、“サーバやネットワークの安定稼働を担保すること”ではなく、“業務を支えるアプリケーションをサービスとして提供すること”だと、考え方を切り替える必要がある」

 だが、多くの日本企業のIT部門では、この「サービスを提供する」という認識が薄い。IT運用を「ITサービス」と捉え、サービス管理を手際よく行うためのプロセス・手法を標準化したITILの適用率が、いまだに全体の2割にも届いていないこともそれを象徴している。

 「日本企業のIT部門は、システムの死活監視だけを担当するコストセンターとして認識されてきた。だが本来的には、“ビジネスを支えるサービスを管理・提供する部門”であり、サービス提供を通じて収益に貢献するという意識を持つことが大切だ。この姿勢は、社外からサービスを手軽に調達、利用できるクラウド化の流れが進展するほど強く求められてくると思う」

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