“ビッグデータ”を生かせない本当の理由インタビュー あらためて考えるビッグデータの意義(1/2 ページ)

昨今、“ビッグデータ”という言葉がクラウドに次ぐキーワードとなっている。だが、その本来の意義やメリットが理解されないまま、バズワードとして一人歩きしている印象も強い。この辺りで、ビッグデータという言葉の真意を見直しておく必要があるのではないだろうか。

» 2012年02月24日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT]

半ばバズワードと化した“ビッグデータ”、本来の意義とは?

 昨今、大量データの有効活用を意味する「ビッグデータ」という言葉がクラウドに次ぐキーワードとなっている。だが、正確な定義がないことも手伝い、その意義が正しく理解されないまま、バズワードとして一人歩きしている印象も強い。

 特に目立つのは、「データからビジネスや社会に役立つ価値を引き出す」というデータ活用の目的よりも、「大量・多種類のデータの収集、蓄積、処理」といった技術的な側面ばかりが注目されているケースだ。むろん、ハイスペックなハードウェアの低価格化や並列分散処理の実現などがこれを支えていることは事実だが、テクノロジは手段に過ぎない。日々蓄積されていくデータを死蔵せず、価値に還元していくためには、この言葉の意味をもう一度捉え直しておく必要があるのではないだろうか。

 では“ビックデータ”本来の意義とはどのようなものなのか。それを有効活用するためには具体的にどのような体制が求められるのか??分析やデータ活用に深い知見を持つ、米SAS Institute 上級副社長 ミカエル・ハグストローム氏に話を聞いた。

知る、対話する、革新する??ビッグデータで獲得できる3つの力

 「企業を取り巻くデータ量は、日々、爆発的に増大している。例えば、昨年は1.8兆ギガバイトを上回るデータが生成されたという調査もある。こうした大量・多種類のデータを有効活用するビッグデータという言葉に、今多くの企業が期待を寄せている。だが、言うまでもなく、データを収集・蓄積するだけでは不十分だ。市場の動きに俊敏に対応できるよう、高速な分析を実現する“ハイパフォーマンスコンピューティング”と、あらゆるデータを統合する“ハイパーコネクティビティ”、そしてビッグデータという3つの要素がそろって初めて、ビジネスに有効な価値を獲得できる」

米SAS Institute 上級副社長 ミカエル・ハグストローム氏 米SAS Institute 上級副社長 ミカエル・ハグストローム氏

 ハグストローム氏はこのように前置きした上で、まず具体例としてKDDIのケースを挙げる。

 同社では既存の顧客データやソーシャルメディア上のテキストデータを基に、顧客1人1人の趣味・嗜好や、クチコミのつながり、購買までの経験価値などを分析。着メロなどオンライン販売商品の開発やプロモーション、解約の抑止などに生かしている。

 具体的には、顧客データ分析ソフトと、消費者同士の関係性を分析するソフトを活用。顧客1人1人の属性データや購買履歴データなどを収集・統合し、セグメンテーションやプロファイリング、行動予測などの分析を行っている。

 これにより、各顧客の趣味・嗜好を精緻に把握するとともに、インターネット上における顧客のネットワークも分析。自社のプロモーションに影響を与え得る消費者コミュニティを特定し、さらに“クチコミが伝播するプロセス”も分析して、コミュニティの中心的な存在である「リーダー」、他の消費者に影響を与える「インフルエンサー」、仲間の行動を後追いする「フォロワー」など、インターネット上における顧客の“役割”を把握。顧客1人1人に適切なアプローチを施すことで、良好な関係の維持や効率的な拡販、連鎖的な解約の防止などを実現しているという。

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 さらに、Web 上の顧客の行動データを収集し、既存の顧客データや購買データなどと統合して分析できる製品も活用。顧客の関心事や、製品・サービスに対する期待、購買までのプロセスなどをきめ細かく分析することで、あるべき顧客体験価値を把握し、マーケティング活動の立案に生かしている。

 「このようなケースも大量・多種類のデータ、高速で分析するハイパフォーマンスコンピューティング、そして複数のデータを統合して分析するハイパーコネクティビティの3つが鍵となってくる。企業はこの3つの要素を組み合わせることによって、事実に基づいて正確な知見を得る『知る力』、リアルタイムに市場に反応する『対話する力』、製品・サービスの新たな付加価値を創出する『イノベーションを起こす力』という3つの力を獲得できる」

 昨今、消費者のプロファイルやソーシャルメディア上のテキストデータから消費者の行動を分析し、消費行動パターンを予測して次のマーケティングアクションにつなげる“コンテキスト志向コンピューティング”が注目されている。KDDIの事例はまさしくこれに当てはまるものだが、ハグストローム氏は「ビッグデータから得られる3つの力は、メーカーにおけるフォアキャスティングの精度向上のほか、金融、保険、小売り・流通業など、幅広い業種で収益向上に寄与する」と解説。さらに「企業のみならず、医療組織や自治体、官公庁においても有効だ」と付け加える。

 「例えば、OECDの調査によると、東京クラスの人口の都市では診断ミスによる死亡事故が1日当たり12件、負傷事故が450件発生していると言われている。しかし、日々患者に接する看護士らが各患者の看護記録を、担当医が処方箋などの情報をITシステムに入力しておき、各情報を統合して管理・分析することで、診断ミスによる医療事故を大幅に低減できるはずだ。官公庁においても、天災を高精度で予測して災害対策に生かすなど、ビッグデータは社会インフラにも大きく貢献する」

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